四国の伝統工芸品9選。暮らしを彩る | 土佐和紙、丸亀うちわ、大谷焼など
近年、四国八十八箇所の霊場を巡るお遍路が注目され、テレビや雑誌で取り上げられることも多くなりました。お遍路さんの始まりは1200年以上前と言われており、古くから多くの旅人が四国を訪れました。
今回は、そんな四国の伝統工芸品を9つ紹介します。
阿波正藍しじら織(徳島)
阿波正藍しじら織とは、徳島県の徳島市で主に作られている絹織物のこと。阿波正藍しじら織は、「シボ」と呼ばれる表面の凹凸と藍染めで表現される鮮やかな色合いが特徴です。生地の表面にこまかいシワのような凹凸があることで、肌触りがよく、通気性がいいので汗をかいてもベタベタしません。また、阿波藍で染めた藍色は、爽やかな色合いで見た目も涼しく、夏の絹織物として人気があります。
阿波正藍しじら織は、18世紀末に海部ハナという女性が、偶然しじら織の技法を発見したことが起源とされています。海部ハナが、当時阿波地方で盛んに作られていた「たたえ織」という木綿縞を外に干していたところ、突然のいわか雨で生地が濡れて縮んでしまいました。海部ハナはこの縮みに着目。これに改良を加えることで意図的に凹凸を表現したものが、現在の阿波正藍しじら織の原型となりました。
現代では、しじら織りの技術と阿波藍の技術を応用し、ネクタイやTシャツ、暖簾などさまざまな商品を開発・販売しています。
大谷焼(徳島)
大谷焼とは、徳島県の鳴門市を産地とする陶磁器のこと。大谷焼は、鉄分を多く含んだ陶土を使用することで表現される、ざらざらとした素朴な土感と、わずかに光る光沢に魅力があります。また、大型陶器の制作に使用される「寝ロクロ」と呼ばれる技法が有名で、それを焼くための「登り窯」は日本一の大きさと言われています。「寝ロクロ」とは、人の背丈ほどある藍甕や壺などを制作する際に一人がロクロの下に寝転がって足で回転させ、もう一人が成形する技法のことです。
大谷焼は、江戸時代後期に豊後国(現・大分県)の職人、文右衛門が大谷村(現・鳴門市大麻町)に訪れ、ロクロでの制作を披露したのが始まりとされています。それに興味を持った11代藩主・蜂須賀治昭が九州から多くの職人を招き、焼き物の製造を開始しますが、経済難に陥りわずか3年で廃止。その後、藍商人の賀屋文五郎が信楽焼の職人を招き、弟に技術を習得させ、登り窯を築いたことによって、大谷焼は再興されました。
今でも職人がひとつひとつロクロで作成しているので、同じ商品でも表情が違い、全て一点物です。大型陶器だけでなく、お皿やマグカップなども販売しており、今では日用品としても親しまれています。
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阿波和紙(徳島)
阿波和紙とは、徳島県の吉野川市や那賀郡那賀町、三好市で主に作られる和紙のこと。阿波和紙は、手漉きならではの生成の美しい色合いと、水に濡れても破れにくい特徴があります。一般的に和紙の原料は、楮や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)を用いることが多いのですが、阿波和紙は、その他にも麻や竹、桑なども使われます。
阿波和紙の歴史は古く、約1300年前には製造が開始されていました。奈良時代に阿波忌部氏が、栽培した麻や楮で紙を製造し、朝廷に献上していた記録があり、これが阿波和紙の起源と考えられています。1583年に徳島藩初代藩主、蜂須賀家政が楮の保護を奨励し、製紙業に注力したことで地場産業として大きく発展しました。
最近では、インテリアに用いられたり、インクジェット用の和紙を販売するなど、時代の変化とともに新たな商品も多く開発しています。
香川漆器(香川)
香川漆器とは、香川県の高松市周辺で発展してきた漆器のこと。香川漆器は、椀や盆、カップ、お弁当など幅広い種類の商品があり、独自に発展してきたさまざまな技法があります。代表的な技法に「蒟醤(きんま)」「後藤塗」「存清(ぞんせい)」、「彫漆(ちょうしつ)」「象谷塗(ぞうこくぬり)」などがあり、どれも使い込むほどに光沢のある艶が生まれ、味わい深くなっていきます。
香川の漆芸は、江戸時代に高松藩主、松平氏の保護のもと発展しました。高松藩初代藩主の松平頼重は、文化芸術を発展させるため、茶道や華道、俳諧など推奨し、数々の名工・巨匠を育成。その中でも、玉楮象谷(たまかじぞうこく)は、中国やタイの漆器技法を研究し、独自の技術として発展させました。
漆器と聞くと黒色や朱色で、お祝いなど特別な日に使う器をイメージする人も多いと思います。しかし、香川漆器はカラーバリエーション豊富で、普段使いにぴったりなモダンデザインの商品も多く販売しています。
丸亀うちわ(香川)
丸亀うちわとは、香川県の丸亀市を産地とする伝統工芸品です。丸亀うちわの生産量は年間1億本で、国内シェア90%を占めるうちわ産地です。丸亀うちわは、柄と骨が一本の竹から作られているのが特徴で、竹製のうちわならではのしなりと納涼感があります。
江戸時代初期に四国の金毘羅祭りのお土産として、朱色に丸金印入の渋うちわが考案されたのが、丸亀うちわの始まりとされています。その後、丸亀藩の下級武士の内職としてうちわ作りが奨励されたことで、地場産業として急速に発展しました。
クーラーや扇風機などの電化製品の普及により、一時は需要が減少しましたが、今では涼を取るだけでなく、炊事や陽射しよけ、ファッション、飾りなど、さまざまな用途で使われるようになりました。丸亀うちわは、そういった需要の変化に対応し、用途に合わせた形やデザインの商品も多く開発しています。
砥部焼(愛媛)
部焼とは、愛媛県の砥部町一帯で作られている陶磁器のこと。砥部焼は、白磁に職人が手作業で施した藍色のデザインが特徴。丈夫で重量感があるので、割れたり欠けたりしにくので、普段使いにぴったりな焼き物です。
砥部焼は、江戸時代中期に大洲藩主、加藤泰侯が藩の財政難を切り抜ける施策として磁器の開発を始めたのが起源とされています。もともと伊予砥と呼ばれる砥石が特産品だった大洲藩は、伊予砥を作る際に生じる屑石を磁器の原料とすることで、コスト削減を図りました。明治時代に入ると大量生産が可能になり、国内だけでなく海外にも輸出されるようになりました。その後、不況により一時衰退しましたが、柳宗悦の民藝運動により、手作りの価値が見直され、手作り手描きの焼き物産地として再興しました。
砥部焼は、丈夫で耐久性があり、電子レンジ・食洗機にも対応しているので、非常に使い勝手がいい器です。今では伝統的な「唐草文」や「なずな文」だけでなく、カラフルで現代の食卓にも馴染むデザインの商品も多くなってきました。さらには、多くの女性作家や若手作家も活躍しており、これまでにない独創的なデザインも注目を集めています。
関連記事:愛媛県の伝統工芸品、砥部焼の特徴とは?技術革新により発展してきた無形文化財
大洲和紙(愛媛)
大洲和紙とは、愛媛県の西予市周辺で作られる手漉き和紙のこと。大洲和紙のなかでも、三椏(みつまた)を原料とする、かな用書道半紙はなめらかで墨がにじみにくく、品質の高さから日本一と称されています。
大洲和紙の明確な起源はわかっていませんが、平安時代に書かれた書物に、和紙の製造を確認できる記載があることから、平安時代には製造が開始されていたことがわかります。江戸時代中期。元禄年間(1688〜1704年)に大洲藩の紙漉きの師として宗昌禅定門が技術を導入したことで、今のような大洲和紙が誕生しました。
戦後、機械文明の発展により和紙の需要は大きく落ち込みますが、手漉き和紙にこだわり続けたことで、高級和紙としてのブランドを確立。今では書道半紙だけでなく、障子やパスポートケースなども製造しています。
土佐打刃物(高知)
土佐打刃物とは、高知県の高知市周辺で作られる金工品のこと。土佐打刃物は、「土佐の自由鍛造」と言われるように、用途・注文によって形や重さを変えられる自由度の高さが特徴。原寸と形を書いた注文書だけでお客様に合った刃物が作れます。
良質な木材に恵まれていた高知県では、古くから林業が発達しており、農林用の刃物も盛んに作られていました。土佐打刃物の本格的な発展は1621年。土佐藩が行った元和改革により、新田開発や森林資源の活用を図ったことで、農林用刃物の需要も増加。これにより、生産量・品質ともに大きく発展しました。
職人が丹念にひとつひとつ作るので、少量多品種の製造が可能になりました。これまで、多種多様な商品を作ってきたので、今では鎌や斧などの農具だけでなく、包丁やはさみなど種類は多岐にわたります。
土佐和紙(高知)
土佐和紙とは、高知県の土佐市を中心に作られている和紙のこと。土佐和紙は、薄くても丈夫で破れにくいのが特徴で、「土佐典具帖紙」は0.03mmと日本一の薄さを誇ります。「土佐典具帖紙」は、その薄さを丈夫さから文化財の修復にも利用されています。
土佐和紙の歴史は明確にはなっていませんが、平安時代にはすでに和紙が作られていたと考えられています。その後、江戸時代には土佐藩の保護のもと製紙業は盛んになりました。なかでも「土佐七色紙」は、土佐藩の特産品として幕府に献上されました。
土佐の上質で豊富な資源をふんだんに活用した土佐和紙は、文化財など学術的に価値のあるものから、お菓子の包装紙などの身近なものまで、あらゆる場面で活躍しています。
暮らしを彩る伝統工芸品
戦後は機械文明の発達やライフスタイルの変化により、多くの伝統工芸品が衰退を経験しています。そのなかでも各産地が協力して、ニーズに合った商品を開発したり、新しい取り組みを行ったりしています。また、最近では丁寧な暮らしや本物志向を望む人が増えるなど、伝統工芸品として追い風となる兆しが見えるようになりました。
資源豊かな四国で発展してきた、伝統工芸品は実用性はもちろん、デザイン性にも優れた商品が多くあります。いつもの暮らしを少し彩る伝統工芸品を使ってみてはいかがでしょうか。
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