近畿地方の伝統工芸品まとめ。古くから人々を魅了してきた。
古くから歴史があり、日本の中心として文化をもたらしてきた近畿地方には、多くの伝統工芸品が存在します。どの伝統工芸品も各地域の環境や歴史的背景によって、独自の伝統を築いて継承してきました。
今回は全国の中でも、近畿地方の伝統的工芸品を紹介します。それぞれの特徴や歴史から、工芸品としての魅力や産地の特色を見ていきましょう。
目次
近江上布(滋賀)
近江上布とは、滋賀県の東近江市、愛知郡愛荘町、犬上郡多賀町を産地とする織物のこと。上布とは、苧麻(ちょま)や大麻(おおあさ)などの繊維を細かく裂いた細糸で織った麻織物を意味します。近江上布は、清涼感のある色合いと、細い繊維を用いた絣模様が特徴。通気性が良く、蒸れにくいので夏用の着物として親しまれています。
近江上布は、鎌倉時代にはすでに作られていたと言われています。琵琶湖から発生する霧や愛知川の高い湿度が、麻の栽培に適していたことから、古くから麻の栽培が行われていました。その後、江戸時代には、彦根藩の保護のもとで大きく発展しました。
近江上布は、経糸と緯糸を少しずつ合わせながら織るので、ひとつ制作するのにかなり手間がかかります。また、後継者育成にも力を入れており、近江上布伝統産業会館では、機織りなどを体験できるイベントも数多く開催されています。
信楽焼(滋賀)
信楽焼とは、滋賀県甲賀市信楽町を中心に発展した焼き物のこと。「日本六古窯」のひとつに数えられ、古くから人気のあります。信楽焼といえば、まん丸に膨らんだお腹の「タヌキ」の置物が代表的。信楽焼は、窯の中で薪の灰が付いて溶け、釉薬の役割りを果たす自然釉や、鉄分を多く含んだ陶土が焼成することで赤褐色に変化する色合いなどが特徴です。
信楽焼の歴史は、奈良時代にまで遡ります。聖武天皇が紫香楽宮(現在の甲賀に築いた離宮)を作る際に、瓦を焼いたのが、信楽焼の始まりとされています。室町時代には、茶器をメインに製造していましたが、江戸時代には土鍋や徳利などの日用品も多く作られるよになりました。信楽焼のタヌキが代名詞となったのは昭和26年。昭和天皇の信楽行幸の際に、信楽焼のタヌキを気に入り、歌を詠んだのをきっかけに、信楽焼の名が全国に知れ渡りました。
微妙な火力の変化や灰のかかり具合によって、模様や色合いが違うので、ひとつひとつ違った表情があります。信楽焼は、素朴であたたかみのある風合いが人気。現在は食器だけでなく小物やインテリアなど、幅広い商品が販売されています。2019年には朝の連ドラ「スカーレット」の舞台にもなっており、近年さらに人気が高い焼き物です。
堺打刃物(大阪)
堺打刃物とは、大阪府の堺市や大阪市を中心に発展してきた刃物のこと。堺打刃物は、プロの料理人の間でも愛用されており、国内シェアは約90%を誇ります。両面に刃がある「両刃」が、刃物業界では主流なのに対して、堺打刃物は、片面にしか刃がない「片刃」が特徴です。
堺打刃物の歴史は、なんと5世紀まで遡ります。堺で有名な仁徳天皇陵古墳を建造する際に、鍬や鋤などの鉄工具を作らせたことで、大阪に刃物産業が誕生。その後、1543年にポルトガルからタバコが伝来したことで、タバコの葉を刻むタバコ包丁の生産が盛んになりました。そして、その切れ味の良さを高く評価した徳川幕府が「堺極」の印を入れて販売することを認め、堺打刃物は高品質ブランドとして全国に知れ渡ります。
その後、タバコ包丁としての需要は減少していきましたが、料理包丁やハサミなどの製造に切り替えたことで、今でも「プロ愛用の包丁」として高く評価されています。
大阪浪華錫器(大阪)
大阪浪華錫器とは、大阪市周辺で発展してきた金工品のこと。大阪浪華錫器は、熱伝導率が高いので、保温・保冷性に優れており、職人がひとつひとつ手作業で加工しているのが特徴です。
1679年『難波雀』に「錫引き、堺い筋」とその記録があったことから、17世紀後半には大坂で錫器の製造が始まっていたと言われています。その後、江戸時代中期には、心斎橋・天神橋・天王寺など、流通が盛んな地域で生産したことで、国内最大の産地に発展しました。
錫は金属の中でも特に柔らかいので、機械での加工が難しく、職人の手作業で加工しています。そのため、金や銀の金工品にはない温かみを感じるのが、錫器の大きな魅力です。
西陣織(京都)
西陣織とは、京都府の上京区・北区周辺で作られる絹織物のこと。西陣織は、誰しも一度は耳にしたことがあるような、日本を代表する絹織物です。西陣織は、着物の帯に使われることが多く、多彩な色で表現される上品で華やかな文様が特徴。
西陣織は、一般的な織ってから染める方法ではなく、糸を先に染めてから織り上げていく先染めの方法を採用しています。工程が多く手間がかかる分、「多品種少量生産」で作っているので、「緞子(どんす)」や「朱珍(しゅちん)」など、12種類の品種があります。
平安時代以前に秦氏によって織物の技術が持ち込まれたのが、西陣織の前身とされています。その後、応仁の乱によって織物業の栄えていた町は崩壊しますが、終戦後に再び職人たちが集まり、織物を再興したのがきっかけで「西陣織」という名の絹織物が発展しました。
京友禅(京都)
京友禅とは、京都府で作られている染色品のこと。京友禅は、友禅染という独自の技法を用いて、絵画のような模様に金銀箔や刺繍を施した豪華絢爛さが特徴。京友禅は、隣り合う色が混ざり合わないように、模様の輪郭に防壁となる糊を引いてから染色します。これらは全て手描きで行われており、非常に手間がかかるので、今では型紙を使って模様を施す「型友禅」という手法も用いられるようになりました。
京友禅は、江戸時代に京都の扇絵師の宮崎友禅斎が、扇絵の技術を応用して着物を染めたのが始まりとされています。江戸時代中期、幕府が庶民の贅沢を禁止していた中で、規制対象外であった友禅染が大流行しました。そのため、当時の人々にとって、派手な色使いと絵画風の絵柄を施した友禅染は、最先端のおしゃれアイテムとしてもてはやされました。
丹波立杭焼(兵庫)
丹波立杭焼とは、兵庫県の丹波篠山市周辺で作られる陶磁器のこと。丹波焼は瀬戸焼、常滑焼、信楽焼などと共に「日本六古窯」の一つに数えられ、歴史ある産地として知られています。丹波立杭焼は、「灰被り」と呼ばれる、燃料となる松の薪の灰が器の上に振りかかり、陶土に含まれる鉄分や釉薬と反応して現れる独特な色合いや模様が特徴。
丹波立杭焼の発祥は平安時代末期と言われています。その後、桃山時代までは「小野原焼」と呼ばれ、斜面に穴を掘って窯にした「穴窯」を用いていました。桃山時代末期には、一度に大量の焼成が可能な「登り窯」を採用し、「丹波焼」や「立杭焼」と呼ばれるようになりました。同時期に取り入れられた、足でロクロを回転させる「蹴ろくろ」は、一般的なロクロが右回転なのに対して、蹴ロクロは左回転で作られています。
奈良筆(奈良)
奈良筆とは、奈良県の大和郡山市で作られる筆のこと。奈良筆は、ヒツジ、ウマ、シカ、タヌキ、ウサギ、リスなど、数十種類の動物の毛を組み合わせて作る「練り混ぜ法」という技法を用いるのが特徴。職人が手作業で、動物の種類や採取時期などによって違う毛質を絶妙な配分で練り上げることで、用途に合った筆が出来上がります。
奈良筆の歴史は、約1200年前のまで遡ります。空海が遣唐使として唐から帰った際に、中国から筆の製造方法を持ち帰り、大和で暮らしていた坂名井清川という人に伝授したのが、奈良筆の起源と言われています。
現在では、奈良筆の技術や素材をそのまま用いた筆ペンを発売。毎年3月に開催される「奈良筆祭り」では、筆作り体験や書道パフォーマンスなど、筆の魅力を発信するとともに後継者育成にも取り組んでいます。
高山茶筌(奈良)
高山茶筌とは、奈良県の生駒市で作られる茶筌のこと。茶筌とは、茶道でお茶を際に使われる、竹筒の先を細かく割いて糸で編んだ茶道具のひとつです。高山茶筌は現在120以上の種類があり、茶道の流派や用途によって竹の種類や形、先の穂の数などが異なります。
高山茶筌は、室町時代中期に茶道の創始者である村田珠光の依頼で、鷹山民部丞入道宗砌(たかやまみんぶのじょうにゅうそうせつ)が作ったのが始まりです。戦国時代までは、代々跡継ぎのみに技術を伝える「一子相伝」の技とされてきましたが、16名の弟子に秘技を伝授し、その技は現代まで受け継がれてきました。その結果、奈良県の高山は日本で唯一の茶筌の産地として知られています。
紀州漆器(和歌山)
紀州漆器とは、和歌山県の海南市黒江地区で作られる漆器のこと。紀州漆器は、シンプルなデザインで、日常から使える実用的な漆器として親しまれています。紀州漆器の中でも黒江塗、根来塗が有名。
根来塗は、根来寺の僧侶が自分で漆塗りをしたのがきっかけで生まれました。黒江塗は、室町時代に木地師が黒江に移住し、渋地椀が作られたのがきっかけで誕生。紀州漆器の始まりは、この「根来塗」を起源とする説と「黒江塗」を起源とする説があり、はっきりとはわかっていません。
現在、紀州漆器は、根来塗や黒江塗などの伝統的な漆器だけでなく、プラスチック素材使って大量生産するなど、時代に合った商品を販売しています。
暮らしを豊かにしたり、気持ちを伝えるアイテムとして
近畿地方2府4県の伝統工芸品を紹介しました。どれも古い歴史があり、大阪や京都といった商業の中心で今でも多く人々を魅了し続けています。
なかなか産地に行けない状況でも、伝統工芸品の魅力を知ってもらうため、店舗だけでなくオンラインショップでも多くの商品が販売されています。いつもの自宅の時間をちょっと楽しんだり、大切な人に感謝の気持ちを伝えるアイテムとして、伝統工芸品を選んでみてはいかがでしょうか。
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