薗部産業

【小田原漆器】

北欧デザインを思わせる木目の美しさ

小田原の伝統工芸「小田原漆器」は、室町時代中期に始まりました。背後に広がる箱根山系の木材を使い、器を作っていた職人たちが、ろくろで削った木地挽きの器に漆を塗ったのが始まりとされています。江戸時代中期には、椀やお盆などの多くの日用品が作られ、実用漆器の産地として江戸で販売されていました。

小田原漆器の特徴は、木目を生かした仕上げにあります。日々の暮らしで使う漆器は、何より丈夫でなければなりません。そのため、丁寧にじっくりと乾燥させた木材を使い、木地挽きの器に何度も漆を刷り込んで仕上げます。つややかな漆を塗られた器は、それぞれの木材ならではの木目が浮かび上がり、世界に一つだけのものになっていきます。

もう一つの特徴は、木の取り方にあります。多くの産地では、木が生える方向と同じ向きで、お椀やお盆の天地がそろうように切り出します。しかし、小田原漆器では、木が生える向きに対して垂直になるように木を取ります。板目と呼ばれるこの技法は、お盆づくりが盛んだった小田原ならではのものです。1本の丸太をできるだけ広く使うための工夫から生まれた技法です。

しかし、この技法では、年輪を縦に割ることになるため、乾燥の具合や削り方の調整に高い技術が求められます。その技術を習得した職人が伝統技術を受け継いでいるからこそ、他の産地にはない木目の美しさを生かした漆器が生み出されています。

板目の技術を生かした、現代の暮らしに合うお碗

そんな小田原漆器の製造販売を手掛けているのが、薗部産業（園部産業）です。代々林業に関わってきた家系で、昭和初期に小田原漆器の製造を、製材から仕上げまで一貫して行う工房として創業しました。当時作っていたのは、引き出物などに使われるお盆や菓子鉢などで、特にケヤキのお盆は飛ぶように売れたといいます。

しかし、お盆の好調はいつまでも続きませんでした。「それなら、自分たちが使うものを作れないか」。そう考えた現社長が作り始めたのが「お椀」でした。当時、お椀といえば漆器のものが主流で、日常使いの漆器は山中塗が大きなシェアを占めていました。そこで、自分たちがこれまで培ってきた板目の技術を生かし、木目の美しいナチュラルなお椀を作ろうと考えたのです。その発想から生まれたのが、人気の「銘木椀」。6種類の木材を使い、それぞれの特徴が十分に感じられるように仕上げたお椀です。

「北欧デザインに憧れた」という社長の言葉通り、シンプルでモダンなデザインは、現代のライフスタイルにぴったりと合います。「自分たちが使うものを作りたい」という思いから生まれたお椀は、多くの人に受け入れられました。シンプルで丈夫、かつ使いやすい。そんな小田原漆器のコンセプトは、現代の暮らしにも自然と寄り添っています。

Buyer’s Voice　代表・松澤斉之より

これこそ「自分が使いたいお椀」
両手で抱えたほっこり感に癒やされる

磨き上げられた木を両手で包み込むような心地よさに「惚れ込んだ」。薗部産業の「銘木椀」との出会いは、まさにそんな言葉で表されます。探していたのは、自分のために、そして家族のために使ってみたいお椀。せっかく使うなら漆器がいい。お味噌汁だけでなく、スープにも使いたい。洋食器にも和食器にも合うようなシンプルなイメージ。「銘木椀」を見たとき、そのイメージにぴたりと合うものがありました。

薗部産業が掲げている「無理なく、無駄なく、土に還るまで、木を始末よく使い回す」というコンセプトにも共感しました。「植林されているのは針葉樹。自分たちが使っている広葉樹は手に入りにくくなっている。だからこそ、削って出た木くずも無駄にできない」。小さい頃から木に親しんできた社長の言葉からは、木に対する深い敬意が感じられました。

いつか、家族で思い思いに木を選び、食卓を囲んでみたい。そこから生まれる会話はどのようなものだろうか。お椀を通じて、夢や未来が広がるような気がしました。