大自然のなかで発展してきた。中国地方の伝統工芸品10選

大自然のなかで発展してきた。中国地方の伝統工芸品10選

中国地方は日本海と瀬戸内海に挟まれ、恵まれた自然のなかで歴史や文化が形成されてきました。全国にある伝統工芸品の中でも、中国地方の伝統工芸品は、技術を継承するだけでなく、その時代に適した商品を作るために常に進化させてきました。
今回は、そんな中国地方の伝統工芸品をまとめて紹介します。

 

因州和紙(鳥取)

因州和紙とは、鳥取県東部で主に製造されている和紙のこと。墨との相性がよく、水墨画や書道によく利用されています。書画に用いられる画仙紙は、国内でトップの生産量を誇る和紙です。因州和紙は、繊維がきめ細かく、筆の滑りがいいのが特徴で、「いくら書いても筆が傷まず、墨がかすれず長く書ける」ことから「因州筆切れず」と言われております。

因州和紙の歴史は長く、平安時代まで遡ります。平安時代に書かれた「延喜式」には、因幡の国(現・鳥取市)から朝廷に和紙が献上されていた記録があります。江戸時代には、藩の御用紙としても、庶民の使う和紙としても親しまれていました。

豊かな自然で作られた天然繊維の特徴を活かして作られる因州和紙は、温かさとしなやかさが特徴です。1975年、和紙としては日本で初めて経済産業省指定の伝統的工芸品に指定。静かな山の中で水に溶かした繊維を漉き上げる「ちゃっぽん」という音は伝統的な風物詩として高く評価されています。1996年には、環境庁による「残したい”日本の音風景100選”」に選定されました。

 

出雲石燈ろう(鳥取 / 島根)

出雲石燈ろうとは、鳥取県境港市や島根県松江市・出雲市で主に作られている石工品のこと。出雲石燈ろうは、細かい粒子の詰まった上品でなめらかな石の質感と、苔が付きやすく日本庭園にも馴染みやすい美術品としての美しさが特徴です。

出雲石燈ろうの歴史は、奈良・平安時代にまで遡ります。当初は「みかげ石」を使用していましたが、次第に島根県の宍道湖南岸で採取される「来待石」が使われるようになりました。安土・桃山時代には「侘び寂び」の思想が発展し、日本庭園の繁栄とともに出雲石燈ろうの需要が増加しました。江戸時代には、松江藩主の松平直政に高く評価され、藩外への持ち出しを禁止するほど、手厚く保護されていました。

今では、家庭でも使いやすい小型の燈ろうも販売し、寺院の庭園だけでなく室内装飾としても広く愛用されています。

 

石見焼(島根)

石見焼とは、島根県の江津市や浜田市、益田市などを中心に発展してきた陶磁器のこと。石見焼には、鉄分を多く含んだ茶褐色の釉薬やアルカリ成分を含んだ透明の釉薬が主に使用されています。そのため、非常に耐久性に優れ、酸や塩に耐えられる漬物用の容器や大型の水かめなどが有名です。

豊臣秀吉が2度にわたって行った「文禄・慶長の役」で、朝鮮に出兵した武士が日本に朝鮮陶工を連れ帰り、現在の浜田市や鹿足郡柿木村で陶器を作らせたのが、石見焼の始まりとされています。1765年には本格的な製陶技術が伝授され、周防の国(現・山口県)から招かれた職人によって「片口」や「徳利」など小物製品の技術が伝わりました。そして1780年代に備前国の職人が「水かめ」などの大物製品の技術を伝承したと言われております。

多くの窯元が電気やガスの窯に移行する中で、石見焼は「登り窯」にこだわり、今でも採用されています。現在は、すり鉢やマグカップ、大型の焼き物の技術を活かした傘立てなども幅広く発売しています。

 

石州和紙(島根)

石州和紙とは、島根県の江津市や浜田市を産地とする和紙のこと。石州和紙は、繊維が長く、他の和紙に比べて強度が高いのが特徴です。

石州和紙の起源は古く、8世紀にまで遡ります。1798年に発行された「紙漉重宝記」によると「奈良時代に石見の国で守護をしていた柿本人麻呂が紙漉きの技術を庶民に教えた」という記述があります。その後も石州和紙は、丈夫な和紙として全国で注目されました。江戸時代には、大阪の商人が帳簿に石州和紙を利用しており、火災の際にとっさに帳簿を井戸に投げ込んでも破れたりせず、商売が再開できたという話もあります。

現在は、海外のデザイナーとのコラボ作品を展示したり、石州和紙を使ったワークショップを開催したりするなど、多くの人に石州和紙の魅力を発信しています。

 

備前焼(岡山)

備前焼とは、岡山県の備前市を中心に発展した陶磁器のこと。備前焼は、釉薬を使わないため、素朴で土の質感を感じる温かさが特徴。また、焼成する際の窯の環境によって色や表面が変化するので、ひとつひとつ表情が違うのも魅力のひとつです。備前焼は、「六古窯」と呼ばれる、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの産地のひとつとされています。

備前焼は、古墳時代に朝鮮から伝わった須恵器の製法が徐々に変化し、平安時代に生活用品として生産されるようになったのが始まりとされています。安土・桃山時代に入ると、備前焼の素朴さが茶人に高く評価され、茶道具も多く作られるようになりました。

国内だけでなく海外からも人気のある備前焼は、金重陶陽はじめ数々の人間国宝を輩出。今では伝統的な作風だけでなく、モダンなデザインの作品も多く制作されています。

 

勝山竹細工(岡山)

勝山竹細工とは、岡山県の真庭市周辺を産地とする竹工品のこと。勝山竹細工は、真庭市で採れる「真竹」の素材をそのまま活かした作品が代表的。勝山竹細工は、竹を煮沸して柔らかくしたり、皮を剥いたりせず、ほとんど竹を加工しないので、素材の魅力をそのまま楽しめます。

勝山竹細工の具体的な製造時期は、まだ明確になっていません。しかし、1860年に発行された山谷家の公文書に、勝山竹細工で穀物を入れたり運搬したりしていた記述があることから、1680年頃にはすでに製造されていたと思われます。その後も、実用性の高さから、農耕や台所用品などの日用品として庶民に愛用されてきました。

自然の竹の美しさを活かして編み上げる職人の技は、現在でも受け継がれてきました。使い込むほどに飴色へと変化しツヤがでる勝山竹細工は、今も変わらず、生活に寄り添う日用品として親しまれています。

 

宮島細工(広島)

宮島細工とは、広島県の廿日市市宮島町を産地とする木工品です。宮島細工は、木の木目を活かした、自然と生み出される美しい模様が特徴。宮島細工の代表的なものに「しゃもじ」がありますが、その他にもろくろ細工、刳物細工、宮島彫りなどの技法を使って、様々な日用品が作られています。

宮島細工は、鎌倉時代初期にまで遡ります。鎌倉時代初期に、神社寺院の建設のために、鎌倉や京都から宮大工・指物師が招かれ、その技術が受け継がれて宮島細工になったと言われております。

宮島細工は、木材の天然の色や質感を活かした塗装を採用し、木の本来の魅力を最大限に引き出した製品です。上品なデザインに温かみのある質感の宮島細工は、芸術品としても日用品としても人気があります。

 

熊野筆(広島)

熊野筆とは、広島県の安芸郡熊野町で作られる筆のこと。熊野筆は、タヌキやシカ、イノシシなどの獣毛を利用しており、用途も書道用や絵画用、化粧用など多岐にわたります。

筆は、江戸時代末期にまで遡ります。農閉期に奈良や紀州(現・和歌山)に出稼ぎに行った商人が、帰郷後に仕入れた筆を販売したり、技術を広めたりしたのが始まりとされています。明治時代には、教育制度の普及によって、筆の需要が急増。第二次世界大戦後は、生活様式の変化に合わせて、化粧筆や画筆などの製造も開始しました。

職人の技を継承しながらも、常に人々の求める製品を作り続けてきた熊野筆は、今では全国シェア80%を誇る産地です。職人の手によって作られる化粧筆は、プロのメイクアップアーティストにも愛用されています。

 

萩焼(山口)

萩焼とは、山口県の萩市を産地とする陶磁器です。萩焼は、シンプルなデザインに「貫入」と呼ばれるひび割れ模様が特徴。「貫入」は、使い込むほどにお茶などの成分がひびに浸透し、風合いが変化するのが魅力です。

萩焼の製造は、安土・桃山時代に始まりました。1592年に豊臣秀吉がおこなった朝鮮出兵の際に、藩主の毛利輝元が朝鮮陶工を日本に招き、萩の地で開窯したのが起源とされています。その後、藩の保護のもと製造技術が発展し、茶道にも適した焼き物として、茶人たちにも愛用されました。

使い込むほどに風合いが変わる萩焼は、育てる焼き物として現在も全国に多くのファンがいます。伝統技法に独創的なデザインを施すことで、現代の生活にも馴染みやすい焼き物となっています。

 

大内塗(山口)

大内塗とは、山口県の山口市や萩市で作られる漆器のこと。大内漆器は、深い朱色の地塗りの上に秋草の模様をあしらい、「大内朱」と呼ばれる大内家の家紋を模した金箔の模様が特徴。

大内塗は、室町時代に山口で力を持っていた大内氏が、京都にあこがれて各地から漆塗り職人を山口に招き、漆器作りを始めたのが起源とされています。その後も漆器作りは発展し、大内氏は朝鮮や中国との貿易品として重宝されました。

大内塗はお盆や椀の他にもあり、丸いフォルムにおちょぼ口の「大内人形」は夫婦円満の象徴として人気があります。現在は、ワークショップの開催やクラウドファンディングの立ち上げなど、様々な活動を通して、大内塗の魅力を多くの人に発信しています。

 

時代を超えても愛される伝統工芸品

中国地方では古くから独自の文化を形成し、各産地の環境や文化を活かした工芸品が育まれてきました。伝統を継承しながらも、需要の変化とともにカタチを変えてきた伝統工芸品は、時代を超えた今も多くの人に愛され続けています。

伝統工芸品を使うことで産地の文化に触れ、長く使い込むことで私たちの生活という文化に馴染んでいきます。暮らしに寄り添う伝統工芸品に一度触れてみてはいかがでしょうか。

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