木地の美しさが際立つ加賀の伝統工芸、山中漆器

木地の美しさが際立つ加賀の伝統工芸、山中漆器

木地の美しさが際立つ加賀の伝統工芸、山中漆器

加賀藩といえば百万石。前田家の領地が三国にわたり、百万石を超える規模であったことからの由来だ。そんな加賀藩には、いにしえより山中・輪島・金沢と3つの漆器の産地がある。そのなかでも安土桃山のころより続く山中漆器は、塗りの技術だけではなく木地の美しさも特徴であり、木挽きと塗りの2つの職人技術が相まったものとして有名だ。
美しい木目を生かした漆器は土地の人々の生活に根ざし、その技術は現在でも職人たちに継承され続けている。
ここでは、石川県の三大漆器産地のひとつ、山中温泉に伝わる山中漆器について説明する。

山中漆器の歴史

山中漆器の歴史は安土桃山時代の天正年間からといわれている。越前の一向一揆で木地師たちが土地を追われ、加賀市山中温泉の上流にある真砂という集落に集団で移住したことで始まった。山中温泉の湯治客への土産物として作られていたが、生産量はまだ少なかったという。

その後の江戸中期の慶安年間(1648~1652)から文化年間(1804~1818)にかけて、会津、京都、金沢から塗りや蒔絵の技術の導入が始まり、漆器産業が盛んとなる。山中の地域は、漆器のための木地、茶道具や日用品の漆器の産地として発展。現在は山中町と加賀市に漆器団地が構成され、漆器産業が続いている。

美しい木目を生み出しているのは、千筋挽きや朱溜塗り、コマ塗り、色塗漆器などの山中漆器独特の技術だ。伝統的な工法として、現在に至るまで漆器職人たちに継承され続けている。

また伝統的な漆器作りだけではなく、昭和30年代からは現代的な加工品の生産も始まった。それが、プラスチック(合成樹脂)の素地にウレタン塗装を施した合成(近代)漆器である。

湯治客が訪れる山中温泉は、古くから外部の情報が入る土地柄であったという。この気質によって、新しい技術や産業が取り入れられ、合成漆器の生産につながったといえるだろう。
伝統漆器と合成漆器を合わせた生産量は全国1位を誇り、山中漆器産業の発展に寄与している。

美しい木目を生かした特徴のある漆器

加賀百万石の石川県には3つの漆器産地があり、それぞれ「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」といわれる。この三産地それぞれの特徴からは、伝えられてきた職人の技術を見ることができる。

中でも山中漆器はその美しい木地が特徴だ。製作は木地の木挽きから始まる。

木地はろくろを使った挽き物技術で作られる。特に、木地の肌に極細の筋を入れる加飾挽きは、高度な技術が必要な職人技だ。その手法は、千筋をはじめ糸目筋、ろくろ目筋、稲穂筋、平溝筋、柄筋、ビリ筋など数十種にも及ぶ。このときに使われる各種小刀やカンナはすべて木地師の自作だ。道具は作業によって使い分けられ、職人によって美しい木目が作られていく。
このろくろ挽き物木地の職人技術は、山中が国内一だといわれている。挽き物技術は平成22年4月2日、石川県無形文化財に指定され、他産地の追随を許さぬ地位を誇っている。

また、山中漆器のもう1つの特徴は、ろくろ挽き物による木目を生かした塗り技術だ。この塗り技術は、木地に漆を染み込ませて仕上げる摺り漆(拭き漆)というものである。美しい木目を際立たせ、使い込むほどに味わい深い器となる。 赤、黄、黒の漆で渦のように塗り分けた独楽塗りの技法も特色のひとつだ。

山中漆器が日常に使われてきた理由に、その堅牢さがあるだろう。木地には狂いのないケヤキやトチ、水目桜など硬い木が使われ、立木を自然な方向に木取りする「樅木取り」という山中漆器独特の技法が用いられている。

このように山中漆器は、木地職人の木を挽く技術の高さと、木目を際立たせる塗り師の技術の相乗効果で作られる。木目が美しい山中漆器の椀は、職人たちの技術の賜物なのだ。

人間国宝の木地師と、女性木地師が伝える伝統工芸

山中で作られる木地は、他の漆器産地である輪島などにも提供され、その丈夫さと美しさは高く評価されている。無形文化財に指定されている山中漆器を支えているのは、高い木地ろくろ挽きの技術を持った木地師だ。木地師として初の人間国宝となった川北良造のほか、多くの木地師が山中漆器の技術を継承し続けている。

注目すべき職人は、日本で唯一の女性木地師として活躍する山田マコ氏。伝統を継承しつつも若い感性と現代的なセンスを融合させた、多用途に使えるボウルやアクセサリーなどの工芸品も作成している。

彼女が漆器と初めて出会ったのは、地場産業を学ぶ高校の授業であったという。そこで漆器に魅せられ、高校卒業後は漆工芸が学べる短期大学に入学。入学当初は漆器に施す蒔絵に興味があったが、次第に木目の美しさを挽きの技術で表現する木挽きに惹かれていく。そうして木地師を目指すようになったのだ。

卒業後は、研修所に入学すると同時に工房へ弟子入りして技術を磨き、25歳で独立。現在は自分の工房で、木地挽きから塗りまでを行う。作られている漆器は、普段使いにぴったりの器たちだ。

現在の洋風な生活にもマッチした作品を創作している山田氏だが、独立して10年経った今、改めて魅力を感じているのが、鉋(かんな)を使った木地の加飾挽きなどの伝統的な技法だ。何十種類もある技術を師匠に教わりながら、ゆくゆくはそうした技術を継承していきたいという。

加賀百万石の歴史を担う石川県の漆器産業。普段使いとして、または湯治客のお土産物として発展してきた山中漆器は、木地師と塗り師の職人たちによって継承されてきた。
美しい木目は、高度な伝統技術の証。木のぬくもりと漆の美しさを尊重してきた、日本の美を感じてみてはいかがだろう。

*写真、動画は白鷺木工にて2017年5月撮影