コンテンツへスキップ

ショッピングカート

カートが空です

記事: 不易流行の視点から見る工芸—変わらぬ価値と挑戦

不易流行の視点から見る工芸—変わらぬ価値と挑戦
#工芸の視点

不易流行の視点から見る工芸—変わらぬ価値と挑戦

「不易流行(ふえきりゅうこう)」とは、変わらない本質を大切にしながら、時代に応じた新しい変化を取り入れていくという考え方です。松尾芭蕉の俳諧の理念として知られています。

日本各地の工芸産地を訪ね、職人の方々の話を聞き、工芸品を商う中で、伝統が続いてきた理由について考えることがあります。長い歴史を持つ工芸にも、暮らしや需要の変化に合わせて、形や用途を工夫してきたものがあります。

職人の方々にとって、ものづくりは日々の暮らしを支える仕事でもあります。つくられた品がお客様に選ばれ、仕事が続くことで、技術も受け継がれていく。その一方で、素材の扱い方や製作技術など、大切に守られてきたものもあります。

何を変えず、何を変えていくのか。この記事では、不易流行の意味と松尾芭蕉の考え方を紹介しながら、伝統工芸における変わらぬ価値と、時代に応じた新しい取り組みについて考えます。

はじめに:不易流行とは何か?

「不易流行」とは、時代が変わっても変わらない本質的な価値である「不易」と、時代や状況に応じて変化する「流行」を、互いに関わり合うものとして捉える考え方です。

この言葉は、江戸時代の俳人・松尾芭蕉の俳諧の理念として知られています。古くから受け継がれてきたものを大切にしながら、新しい表現を求める姿勢を示しています。

ここでいう「流行」には、世の中で一時的に人気を集めるものという意味に加え、時代とともに生まれる新しい表現や試みも含まれます。「不易」は、そうした変化の中でも大切にされる本質的な価値を指します。

現在では、伝統と革新の関係を考える際にも用いられる言葉です。工芸に目を向けると、受け継がれてきた技術を使いながら、現代の暮らしに合う品をつくるなど、不易流行の視点から考えられる例が見られます。

 

松尾芭蕉における不易流行の考え

松尾芭蕉(1644〜1694)は、江戸時代前期の俳人です。芭蕉の俳諧では、古典に学ぶこととともに、新しい表現を追求する姿勢が重視されました。

不易流行の考え方は、芭蕉の門人である向井去来が残した『去来抄』などの俳論を通じて伝えられています。

俳諧における「不易」は、時代が変わっても失われない詩の本質に関わるものです。一方の「流行」は、その時代に生まれる新しい表現や変化に関わります。両者は、俳諧の本質と新しさを考えるうえで、ともに大切にされたものです。

例えば、芭蕉の有名な句に「古池や蛙飛びこむ水の音」があります。古池という静かな情景に、蛙が水へ飛び込む一瞬の音を取り入れた句です。身近な自然の出来事を、新鮮な表現によって捉えた作品として知られています。

工芸と俳諧は異なる分野ですが、受け継いできたものを大切にしながら、新しい表現を探るという視点には、共通する部分があります。

 

日本の伝統工芸における「不易」:変わらない価値

日本の伝統工芸には、長い時間をかけて受け継がれてきた技術があります。陶芸、漆芸、金工、織物など、それぞれの分野で素材の性質を理解し、道具を扱い、品を仕上げる技術が磨かれてきました。

例えば、陶芸では土の状態や焼成の方法によって仕上がりが変わります。漆芸では、木地づくりや下地、塗りなどの工程が、器の丈夫さや美しさを支えています。金工でも、金属を加工する技術や表面を仕上げる方法が受け継がれています。

こうした仕事には、完成した品を見るだけでは分かりにくい部分があります。各地の工房を訪ね、製作工程について話を伺うと、一つの品ができあがるまでに、さまざまな技術や判断が関わっていることを知ります。

日本各地には、その土地の歴史や風土と結びついて発展してきた工芸品があります。

京都の陶磁器、金沢の金箔、石川県の輪島塗なども、その一例です。

金沢箔では、金を薄く延ばす技術が受け継がれ、工芸品の装飾などに用いられてきました。輪島塗では、木地や下地づくりを含む多くの工程によって、丈夫で美しい漆器がつくられています。

産地ごとに材料や製法は異なりますが、長年培われてきた技術が、現在のものづくりを支えている点には共通性があります。

何を大切に受け継いでいくかは、工芸や工房によって異なります。技法を重視する場合もあれば、素材や品質、使い心地に重きを置く場合もあります。

工芸を商う立場から見ると、品の形や用途が変わっても、受け継がれてきた技術や品質が、お客様に選ばれる理由になっていることがあります。

こうした変わらぬ価値を知ることが、伝統工芸の魅力を理解するうえで大切だと考えています。

 

「流行」の側面:時代に合わせた変化

伝統工芸には、暮らしの変化に合わせて、品の形や用途、販売方法などを工夫してきた例があります。かつて日常的に使われていた道具も、生活様式が変われば需要が変化します。住まいの広さや食生活、贈り物の習慣などが変わることで、求められる品も変わってきました。

例えば、昔ながらの器の技法を活かして、現代の食卓に合う形や大きさの品をつくる。金属加工や漆塗りの技術を、従来とは異なる生活用品に応用する。こうした取り組みは、各地の工芸産地で見られます。

品づくりを支える道具や設備にも変化があります。設計にデジタル技術を利用したり、製作工程の一部に新しい機械を取り入れたりする例もあります。技術の導入方法や、手仕事との組み合わせ方には、それぞれの工房の工夫が表れています。

また、工芸品を届ける方法も変わっています。産地の問屋や小売店を通じた従来の流通に加え、現在ではECサイトやSNS、展示会などを通じて、つくり手が使い手に直接紹介する機会も生まれています。

日本工芸堂でも、工芸品を贈り物として探されるお客様や、海外の方への贈答品を求めるお客様に接する機会があります。昔からある技術が、現在のさまざまな場面で求められていることを感じます。

職人の方々にとって、ものづくりは生活を支える仕事でもあります。つくられた品が売れることは、次の仕事につながり、工房を続けていくためにも大切です。

時代に合わせて品や届け方を変えることには、新しい使い手に選んでもらい、仕事を続けていくための工夫という側面もあるのでしょう。

何を変え、何を受け継ぐか。それぞれの工房の選択を、具体的な工芸品の事例から見ていきます。

 

考察・不易流行の工芸品とは?

伝統工芸における「不易流行」を考える際、受け継がれてきた技術と、現在の暮らしに合わせた品づくりの関係が参考になります。

ここでは、高岡銅器の着色技術を活かしたモメンタムファクトリー・ORII、江戸切子、肥前吉田焼の副久製陶所という3つの事例を紹介します。

モメンタムファクトリー・ORII|伝統的な着色技術を現代の暮らしへ

富山県高岡市のモメンタムファクトリー・ORIIは、金属の伝統着色技術を活かした品づくりを行っています。

高岡銅器の着色技術は、金属の表面に薬品などを作用させ、独特の色合いや風合いを生み出すものです。ORIIは、こうした技術を銅や真鍮の薄い板にも応用し、時計や花器、インテリア用品などを展開しています。

受け継がれてきた金属着色の技術を、現代の住まいで使う品へと広げていることが特徴です。

従来とは異なる用途に技術を活かすことで、新しい使い手との接点が生まれています。

何を受け継ぎ、何を変えていくのか。ORIIの品づくりには、不易流行を考えるうえで参考になる取り組みが見られます。

江戸切子|技術と文様を受け継ぎながら広がる表現

次に、江戸切子の事例です。

江戸切子は、ガラスの表面を削り、さまざまな文様を施す技術です。江戸時代に始まったとされ、当初の透明なガラスへの加工から、色被せガラスを使った表現などへと展開してきました。

菊つなぎや麻の葉など、伝統的な文様を受け継ぐ一方で、現代的な色彩や形を取り入れたグラスもつくられています。

酒器として使われるだけでなく、結婚祝いや長寿祝い、法人の記念品など、贈り物として選ばれる機会もあります。

日本工芸堂でも江戸切子を扱っていますが、同じ江戸切子でも、職人や工房によってカットの表現や色使いには違いがあります。

伝統的な技術や文様を受け継ぎながら、それぞれのつくり手が新しい表現を試みている。その多様さも、江戸切子の魅力の一つです。

江戸切子の名称をめぐっては、海外製の類似品や表示について注意が必要な場合もあります。選ぶ際には、製造元や産地を確認することが大切です。

関連ブログ記事:中国製”江戸切子”を購入しないために注意したい5つのポイント

副久製陶所|呉須の技術を活かした新しい器づくり

最後に、佐賀県の肥前吉田焼の窯元、副久製陶所を紹介します。

副久製陶所が展開するGOSUシリーズは、伝統的な呉須(ごす)による青の表現を活かした器です。

呉須は磁器の絵付けに使われる顔料で、焼成によって青色を表します。GOSUシリーズでは、濃淡の異なる青を用いることで、器の表面にさまざまな表情を生み出しています。

伝統的な絵付け技術を活かしながら、現代の食卓にも取り入れやすい器を展開していることが特徴です。

また、品そのものだけでなく、包装や見せ方、販売の場にも工夫が見られます。工芸品の魅力を伝えるには、技術や品質に加え、使い手にどのように届けるかも重要になります。

受け継いできた技術を活かした品づくりと、その魅力を新しいお客様に伝える取り組み。副久製陶所の事例には、その両方が見られます。

3つの事例に見る、変わらないものと変わるもの

これらの事例では、受け継がれてきた技術を活かしながら、品の用途やデザイン、届け方に新しい工夫が見られます。

ORIIでは金属の着色技術が現代のインテリア用品へ、江戸切子では伝統的なカット技術や文様が多様な色彩や形へ、副久製陶所では呉須の技術が現代の器づくりへとつながっています。

それぞれの工房には、独自の考え方や経営上の判断があることでしょう。ここでは、現在の品づくりに見られる変化に注目しました。

工芸を商う立場から見ると、使い手の暮らしが変化する中で、品づくりや届け方を工夫することの大切さを感じます。伝統的な技術を活かして新しい品をつくることが、新しい使い手に選ばれるきっかけとなり、次の仕事につながっていく。工芸の継続には、そうした積み重ねも関わっているのではないでしょうか。

不易流行という視点から見ると、工芸品の変化は、技術と暮らしの関係を考える手がかりになります。

関連ブログ記事:不易流行の工芸品特集

 

まとめ:不易流行の意義と伝統工芸の可能性

不易流行とは、変わらない本質を大切にしながら、時代に応じた新しい変化を取り入れていくという考え方です。日本の伝統工芸にも、長い時間をかけて受け継がれてきた技術がある一方で、暮らしや需要の変化に合わせて、形や用途を変えてきた品があります。

各地の産地を訪ね、職人の方々と話をし、工芸品を商う中で、伝統が続いてきた背景には、こうした日々の仕事の積み重ねがあるのではないかと感じています。

職人の方々にとって、ものづくりは暮らしを支える仕事でもあります。つくられた品を選び、使ってきたお客様の存在も、工芸が続いてきた理由の一つでしょう。

何を変えず、何を変えていくのか。その答えは、工芸や産地、職人によって異なります。

伝統を受け継ぐことは、昔の形をそのまま残すことだけではない。時代に合わせて変わることで、結果として大切な技術が受け継がれていくこともある。工芸の現場に接する中で、そんなことを感じています。

不易流行という言葉は、工芸がこれまでどのように続いてきたのか、そしてこれからどのように使われていくのかを考える、一つの手がかりになると思います。

著者:松澤斉之(日本工芸堂代表)

日本各地の工芸産地を訪ね、職人の方々との対話を重ねながら、日本の工芸品を紹介・販売しています。現場で伺った話を自ら調べ、ほかの産地で得た知見とも照らし合わせながら、工芸への理解を深めています。「つくり手に会いに行く」はこちら

 

【あわせて読みたい】