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記事: 『用の美』と日本人の美意識:ものづくりと自然との対話

『用の美』と日本人の美意識:ものづくりと自然との対話
#工芸を知る

『用の美』と日本人の美意識:ものづくりと自然との対話

「用の美」とは、日々の暮らしで使われる道具の中に美しさを見出す考え方です。民藝運動を提唱した柳宗悦は、名のある作家の作品だけでなく、普段使いの器や生活道具にも目を向けました。

日本各地の工芸産地を訪ね、職人の方々からものづくりについて話を伺ってきました。そこで聞いたことを自分でも調べ、ときには別の産地の方に尋ねてみる。そうした経験を重ねるうちに、素材や技法の違いだけでなく、ものづくりに共通する考え方にも気づくようになりました。

この記事では、工芸品を使い、届ける立場から、これまでに見聞きし、調べてきたことをもとに、日本のものづくりに見られる自然観や時間感覚、そして「用の美」について考えます。

小鹿田焼の窯元で受け継がれるものづくり

 

ものづくりと自然観─素材と向き合うことが、自分と向き合うこと

職人の手が伝える、自然との対話

工芸の材料となる土や木、漆、金属、紙は、それぞれ異なる性質を持っています。同じ種類の材料でも、産地や状態によって扱い方が変わることがあります。

各地の工房を訪ねる中で印象に残るのは、職人の方々が素材の状態をよく観察していることです。木目や土の状態を見ながら作業を進め、ときには道具の使い方や工程を調整する。自然素材を扱う仕事には、こうした判断が欠かせません。

ただし、素材への向き合い方は技法や産地によって異なります。木工で大切にされることが、そのまま陶芸に当てはまるわけではありません。共通する姿勢と、それぞれの仕事に固有の工夫。その両方に目を向けることが、工芸を理解する手がかりになります。

素材の声を聴く

陶芸では、土の種類や水分量、釉薬の掛かり方、窯の温度などが焼き上がりに影響します。焼成の仕組みを調べると、温度だけでなく、窯の中の雰囲気や冷却の過程も仕上がりに関わっています。

窯元の方々からは、経験を重ねても焼き上がりのすべてを予測するのは難しいという話を伺うことがあります。職人は窯の状態や過去の焼成結果を踏まえて調整を重ねますが、素材と火の反応には複数の条件が関わります。

木工では、木目や節、乾燥の状態が加工に影響します。漆芸では、漆が硬化する際の温度や湿度が重要です。それぞれの分野で必要とされる知識や経験は異なります。

陶芸、木工、漆芸では扱う素材も技法も異なりますが、材料の状態を読み取り、それに合わせて仕事を進める点には共通性が見られます。素材の性質を知り、その特徴を活かすことが、工芸の技術を支えています。

関連記事:100年以上愛される理由!日本の工芸品に隠された素材の魅力

制作のリズムが変える時間感覚

工芸の製作工程には、一定の時間を必要とする仕事があります。木材を乾燥させる時間、漆を硬化させる時間、陶器を焼成して冷ます時間などです。

これらは単に職人が時間をかけたいからではなく、素材の性質によって必要になる工程です。作業を急いでも、素材の状態が整わなければ次に進めないことがあります。

一方、伝統的な技法だからといって、必ずしも非効率な方法にこだわっているわけではありません。品質を保ちながら工程を工夫し、道具や設備を改良している工房もあります。

時間をかけること自体が目的ではなく、必要な工程を見極め、確実に仕事を進める。その積み重ねが、工芸品の品質を支えています。

自分自身と向き合うために

同じ器を繰り返しつくっていても、材料の状態や作業環境は毎回同じではありません。職人は、その違いを見極めながら仕事を進めます。

工芸の現場を訪ねると、熟練した職人が何げなく道具を動かしている姿に驚かされることがあります。一見すると簡単そうな作業でも、実際に体験してみると、思うようにいきません。

輪島塗の沈金を体験したときも、一本の線を思い通りに彫ることの難しさを感じました。漆を塗った面に刃物で文様を彫る沈金は、刃の角度や力加減が仕上がりを左右します。職人の自然な動作には、長年の経験が積み重なっています。

ものづくりは素材と向き合う仕事であると同時に、自らの技術や判断を確かめ、磨き続ける仕事でもあります。

小鹿田焼のものづくりと自然素材

 

日常に宿る“気配”を感じる力

余白・間・用の美に触れる

工芸品を見ていると、華やかな装飾がなくても、手に取ってみたくなる器があります。形のバランスがよいもの、素材の表情が美しいもの、食卓に置いたときに自然となじむものなどです。

そうした器の魅力を考えるとき、「余白」や「間」、そして「用の美」といった日本の美意識が手がかりになります。

これらはそれぞれ異なる背景を持つ言葉ですが、工芸品を鑑賞するだけでなく、実際に使う場面まで含めて考える視点を与えてくれます。

余白の力

絵画や書、器の絵付けなどでは、何も描かれていない部分が重要な役割を持つことがあります。

器の全面に模様を施すのではなく、一部に文様を置き、残りを無地にする。すると、文様だけでなく、器の形や素材そのものにも目が向きます。

料理を盛る器でも、余白の取り方によって印象が変わります。器いっぱいに料理を盛る場合と、周囲に空間を残す場合では、同じ料理でも違って見えます。

また、絵付けのない部分を残すことで、釉薬の色や質感、器の形そのものを引き立てることもできます。

余白は単に何もない部分ではなく、ほかの要素を引き立てる役割を持っています。

間(ま)の美しさ

日本建築や庭園、茶の湯などでは、「間(ま)」という考え方が大切にされてきました。物と物との距離だけでなく、動作の間合いや時間の取り方にも関わる言葉です。

茶の湯では、茶碗や茶入、花入などの道具を、季節や取り合わせを考えながら選びます。道具それぞれの美しさだけでなく、一緒に置いたときの調和にも目を向けます。

器を手に取り、茶をいただき、次の人へ渡すまでの所作にも、一定の間合いがあります。

道具そのものの美しさと、道具を使う場面で生まれる美しさは、必ずしも同じではありません。茶の湯に見られる道具の取り合わせや所作は、工芸品の価値を、使う場所や人との関係から考えるうえでも参考になります。

用の美──使われて初めて輝く美

「用の美」は、暮らしの中で使われる道具の美しさに目を向ける考え方です。

民藝運動を提唱した柳宗悦は、日常生活で使われる器や道具の中に美を見出しました。名のある作家の作品だけでなく、各地の職人によってつくられ、暮らしの中で使われてきたものにも価値があると考えたのです。

例えば、毎日使う湯呑みや茶碗。持ちやすさ、口当たり、洗いやすさ、食卓に置いたときの姿など、実際に使うことで気づくことがあります。

木の椀であれば、手に持ったときの軽さや温かみがあります。陶器の皿なら、料理を盛ることで釉薬の色や形の印象が変わることもあります。

日本工芸堂で工芸品を扱う中でも、見た目の美しさだけでは伝えきれない魅力があります。使い心地や手触りなど、実際に使うことで分かる価値を、どのようにお客様に伝えるか。それは販売する立場として大切にしていることの一つです。

使いやすさだけで美しさのすべてが決まるわけではありません。それでも、日々使うことを考えてつくられた形には、装飾とは違った魅力があります。

工芸品を鑑賞するだけでなく、暮らしの中で実際に使ってみる。「用の美」は、道具と使い手の関係から美しさを考える視点でもあります。

関連記事:日本の「用の美」を伝える伝統工芸品とその継承にむけて

福岡県の伝統的工芸品、上野焼

写真:伝統的工芸品、上野焼(関連記事:【伝統工芸の旅】上野焼の街 山肌に連なる茶陶の窯(福岡))

 

“手間”をかけるという価値観

時間・季節・経年とともにあるものづくり

工芸品には、完成までに多くの工程を必要とするものがあります。

例えば漆器は、木地をつくり、下地を整え、漆を塗り重ねて仕上げます。工程によっては乾燥や硬化のための時間が必要で、一度に作業を終わらせることはできません。

産地で製造工程について説明を受けると、完成した品からは見えない仕事の多さに驚くことがあります。

こうした手間は、単に時間をかけるためのものではありません。使いやすさや丈夫さ、美しい仕上がりを実現するために、必要な工程を積み重ねています。

工芸品の価格を考えるときにも、完成した姿だけでなく、そこに至る工程を知ることが重要です。

時間の蓄積が生む深み

輪島塗では、木地の傷みやすい部分を布で補強し、地の粉を使った下地を何度も塗り重ねます。完成した器からは見えなくなる部分ですが、丈夫さを支える重要な仕事です。

漆の塗りも、温度や湿度に合わせて進められます。下地を整え、塗りと研ぎを繰り返すことで、表面の美しさが生まれます。

輪島の工房を訪ね、製造工程について調べる中で、こうした見えない部分の仕事が、輪島塗の品質を支えていることを知りました。

完成した器の美しさだけでなく、その形や品質がどのような工程によって生まれたのか。製作の背景を知ることで、一つの器への理解が深まります。

関連記事:漆器は高い?そもそも漆とは?漆塗りの制作工程や歴史を知る

四季を織り込むものづくり

日本の工芸には、四季の移ろいを取り入れたものが数多くあります。桜や紅葉、雪などの自然を題材にした文様は、器や着物、漆器など、さまざまな品に使われてきました。

また、季節によって使う道具を変える楽しみもあります。夏には涼やかなガラス器、冬には温かみのある木の椀。素材の性質だけでなく、見た目や手触りから季節を感じることもできます。

茶の湯でも、季節に合わせて茶碗や菓子器、花入などを選びます。道具の選び方や組み合わせによって、季節を表現する文化があります。

工芸品は単独で存在するだけでなく、使う季節や場所、ほかの道具との関係によっても、その魅力が変わります。季節に合わせた道具選びも、工芸を暮らしの中で楽しむ方法の一つです。

経年変化を受け入れる美意識

工芸品の中には、長く使うことで少しずつ表情が変わっていくものがあります。木の器は色合いが深まり、金属の道具には落ち着いた風合いが生まれることがあります。漆器も使い方や手入れによって、表面の印象が変わっていきます。

こうした経年変化については、産地によって考え方が異なることもあります。変化を楽しむものもあれば、できるだけ元の状態を保つために手入れを重視するものもあります。

傷みや劣化まですべて美しいと考えるのではなく、素材の特性を知り、適切に手入れをしながら使い続けることが大切です。

新品のときの美しさだけでなく、長く使ってきたからこそ生まれる愛着もあります。使い手とともに時間を重ねることも、工芸品ならではの魅力の一つです。

関連記事:伝統工芸の良さって何?よさがわかる工芸品5選、良さを伝えよう

伝統的工芸品、会津塗の漆器

写真:伝統的工芸品、会津塗(関連記事:歴史から紐解く会津塗の特徴と魅力とは。技術が光る作り方をご紹介)

 

手で感じ、手で考える

身体性と創造性

工芸の技術には、言葉や図面だけでは伝えきれないものがあります。道具を握る力加減、素材に触れたときの感触、作業を進める速さ。こうした技術は、実際の仕事を繰り返す中で身につけていくものです。

工房で作業を見せてもらうと、職人は手を動かしながら形を確かめ、必要に応じて調整しています。

長年同じ仕事を続けている職人の動きは、驚くほど自然に見えます。しかし、実際に体験してみると、同じように手を動かすことは簡単ではありません。

熟練した職人の動作には、材料の状態を見極め、道具を適切に扱うための経験が積み重なっています。言葉だけでは伝えにくい、身体を通じて身につける技術の重要性がうかがえます。

五感を通じた気づきの積み重ね

陶芸では、ろくろを回しながら指先で土の厚みを確かめます。木工では、鉋をかけるときの手応えや削れる音が、木の状態を知る手がかりになります。

金工では、金槌を打つ位置や力加減を変えながら、少しずつ金属の形を整えていきます。

こうした作業では、目で見ることだけでなく、音や手触りも判断に関わっています。ただし、どの感覚を重視するかは、素材や技法によって異なります。

ある産地で聞いた話を別の産地の職人に尋ねてみると、共通する点がある一方で、違った考え方や方法に出会うこともあります。

それぞれの技術を比較することで、ものづくりに共通する部分と、産地や職人に固有の工夫が見えてきます。

工芸の現場で受け継がれる職人の手仕事

 

ローカルから始まる価値創造─土地と人とものづくり

工芸品には、その土地の自然環境や歴史、暮らしと深く結びついて生まれたものが数多くあります。同じ陶器でも、使われる土や焼き方は産地によって異なります。木工や漆器も、地域で手に入る材料や、長年培われてきた技術によって特徴が生まれてきました。

工芸品を理解するには、技術だけでなく、その土地の歴史や人々の暮らしについて知ることも大切です。

地域の特性を活かしたものづくり

地域ごとに異なる自然環境は、ものづくりにも影響してきました。

焼き物の産地には、陶土の採れる場所や燃料となる木材、水など、製作に必要な条件が関わっています。木工では、地域で育つ木の種類が、つくられる道具の特徴につながることもあります。

産地の歴史を調べると、そこで工芸が発展した理由に、材料の入手しやすさや交通の便、地域の産業などが関係していることがあります。

現在では産地の外から材料を調達することも珍しくありません。昔からの材料や製法を守る工房もあれば、新しい素材や技術を取り入れる工房もあります。

伝統的な技法を受け継ぐ一方で、新しい素材や設備を取り入れながら製作を続ける工房もあります。産地のものづくりは、地域の歴史を背景にしながら、現在も変化を続けています。

関連記事:川が育てた工芸|三つの川と産地のものづくり

人と土地との関係

工芸の技術は、職人個人の仕事だけで成り立っているわけではありません。原材料を用意する人、道具をつくる人、製作を担う人、完成した品を届ける人。多くの人が関わることで、一つの産地が成り立っています。

工房を訪ねると、材料の調達や道具の修理、後継者の育成について話を伺うこともあります。完成した品を見るだけでは、なかなか分からない部分です。

技術を次の世代へ伝えるには、職人が仕事を続けられる環境も必要です。原材料の確保や技術の継承に加え、つくられた品が使われ、次の仕事につながっていくことも欠かせません。

工芸品には、素材を育てる人、道具をつくる人、製作する人、そして使う人まで、多くの人々の仕事が関わっています。

関連記事:伝統工芸とSDGsの関係とは?

大分県日田市、小鹿田焼の陶土を砕く唐臼

写真:小鹿田焼の唐臼。集落周辺の山から運び出された土は、川の水力を利用した唐臼で20〜30日ほどかけて細かく砕かれ、陶土づくりに使われます。

関連記事:小鹿田焼とは。「世界一の民陶」と称された”日田の焼き物”特徴と歴史

 

まとめ

この記事を書きながら、小鹿田焼(おんたやき)の窯元で伺った話を思い出しました。

小鹿田焼では、飛び鉋や打ち刷毛目などの技法が受け継がれ、現在も日常の器がつくられています。窯元では、技術を次の世代へ伝えるためにも、つくられた器を暮らしの中で使ってもらうことが大切だというお話を伺いました。

秋田県大館市で、曲げわっぱの職人から聞いた話も印象に残っています。

曲げわっぱに使われてきた秋田杉は、長い年月をかけて育った木です。職人からは、約300年前に植えられた木が現在のものづくりに使われているというお話を伺いました。今の工芸品が、何世代も前に山を育てた人々の仕事の上に成り立っていることを考えさせられます。

工芸品には、完成した姿からは見えない技術や時間が重なっています。素材を育てる人、道具をつくる人、製作する人。それぞれの仕事を経て、器や道具は使い手のもとへ届きます。

「用の美」は、特別な美術品だけでなく、日々使う道具にも美しさを見出す考え方です。

産地で職人の話を聞き、製作工程を知ることで、器の見方が変わることがあります。そして実際に使ってみると、手触りや使い心地など、見ているだけでは分からなかった魅力にも気づきます。

工芸品を知り、使い続けること。その積み重ねの中に、「用の美」を感じ取る楽しさがあるのだと思います。

著者:松澤斉之(日本工芸堂代表)

日本各地の工芸産地を訪ね、職人の方々との対話を重ねながら、日本の工芸品を紹介・販売しています。現場で伺った話を自ら調べ、ほかの産地で得た知見とも照らし合わせながら、工芸への理解を深めています。”つくり手に会いに行く”はこちら