伝統工芸とSDGsの関係とは?

伝統工芸とSDGsの関係とは?

近年、メディアやお店などでよく耳にする「SDGs」や「サステナビリティ」という言葉。今回はそんなSDGsと日本の伝統工芸の繋がりについて紹介していきます。

SDGsとは

SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、「Sustainable Development Goals(サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の略称で、「持続可能な開発目標」のことです。2015年9月の国連サミットにて全会一致で採決され、2016年から2030年の15年間で達成する目標として掲げられました。

SDGsは、持続可能な社会を実現するための17のゴールと169のターゲットで構成されています。例えば、17のゴールには、2番の「飢餓をゼロに」や5番の「ジェンダー平等を実現しよう」、13番の「気候変動に具体的な対策を」など、先進国・途上国どちらもが抱えている世界的な問題が多く含まれています。

多角的な目標を通じて、国連加盟国193カ国は持続可能な未来を目指し、「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」ことを誓っています。

 

 

SDGsと日本の伝統文化、工芸

一見関わりのないSDGsと日本の伝統工芸ですが、伝統工芸の在り方は SDGsの掲げる目標と深い繋がりがあります。

伝統工芸品とは、伝統的な技術や材料を用いて、主に手作業で一定の地域の職人に製造される品のことであり、日常生活で使われていること、そして、長い歴史や伝統も必要不可欠です。そんな伝統工芸ですが、近年その環境へのやさしさや持続可能性などのSDGsとの関連性にも注目が集まっています。

 

伝統工芸において使われ続けている材料は、昔ながらの伝統的なもの且つ地域に適したものであることが多く、環境にやさしいと考えられています。
また、伝統工芸の特徴の一つである手作業も、工芸品のエコな生産と綿密に関わっています。

大部分の工程が手作業で行われることから、電気などのエネルギーの消費はごくわずかです。それに加え、手間暇のかかる手作業の品々だからこそ、大量生産による余分な品々やそれに伴う多大な環境への負荷が発生しづらくなっていなります。その為、伝統工芸品は環境に優しい生産として受け継がれているのです。

 

伝統工芸における持続可能性は、生産・消費のどちらの過程でも観察できます。生産地域にあった資源を必要なだけ活用・保存し、それを基に技術や製法を発展・継承している伝統工芸の在り方は、まさに持続可能な生産といえるでしょう。

消費・実際に使う過程においても、サステイナブル(持続可能な)活動が受け継がれています。日本の多くの伝統工芸では、「新しいものを買う」より「壊れたものを直して使い続ける」ことが良しとされてきました。つまり、伝統工芸品の在り方はSDGsで掲げられている目標と共鳴する部分が多くあるのです。

 

 

なぜ伝統工芸はSDGsなのか

日本の伝統工芸品はSDGsと深い繋がりがあるだけではなく、工芸品自体がSDGsの多くの目標を体現しています。

中でも、伝統工芸品の「ものを大切にする」精神や文化から生じた生産者・消費者の取り組みが、SDGsの様々な目標に該当していると考えられます。

日本では、高度経済成長に伴い、消費文化や機械による大量生産・大量消費が普及しました。21世紀の現在にもその潮流は受け継がれており、多くの物を消費することが当たり前の世の中になりました。

しかし、そんな世の中の大量生産・大量消費の仕組みにも限界が見えてきています。資源やエネルギーは決して永遠でなく、徐々に枯渇している現在の状況を受け、「持続可能性」や「ものを大切にすること」に注目が集まっています。

一方で、日本の伝統的な文化の中では「ものを大切にする」ということが当たり前に行われてきていました。大規模な大量生産ではなく、手作業で一つ一つ丁寧に選ばれた少ない資源から作りあげられる伝統工芸品は、品質が高く、長い間使い続けることができます

また「ものを大切にする」日本の文化は、年月を経て見た目に独特の「味」が出た品々に価値を見出します。そのため、破損した工芸品も金継ぎなどの修復を加えて使い続けることが一般的です。

伝統工芸品のそのような側面は、SDGsの12番の目標「つくる責任つかう責任」とまさに合致しています。また、伝統工芸はこの12番の目標以外にも、環境に関連する様々な目標に取り組み、達成していると考えられています。

SDGsが設定される遥か前から存在している日本の伝統工芸品ですが、現代にも活きる大切な価値観を含んでいたのですね。

 

 

伝統工芸が当てはまる「SDGsの目標」とは

日本の伝統工芸品は、その伝統的な文化からSDGsの様々な目標に当てはまっています。それに加え、近年の環境問題や持続可能性への注目の高まりにより、SDGsの目標に対して積極的に取り組む伝統工芸が増えてきました。

そんな日本の伝統工芸が該当するSDGsの目標の事例に関してご説明します。

 

3 「すべての人に健康と福祉を」の取り組み事例

日本の社会、そして伝統工芸においては、性別や年齢によって活躍の幅が限られており、労働環境が優れない会社・工房も少なくはありません。そんな中で、3の目標である「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」ことを実践している事例があります。
株式会社能作では、性別・国籍・年齢問わず健康に働くことのできる環境を目指し、有休制度や産休、雇用条件の見直し等を積極的に行なっています(詳細はこちら)。

 

8, 11 「働きがいも経済成長も」「住み続けられるまちづくりを」の取り組み事例

8の目標は「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」こと、そして、11の目標は「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」こととされています。

伝統工芸の主な材料となる森林や陸の豊かさを育てる活動が、周りに巡って人にも優しい住環境や雇用の創出、経済成長にまでつながることがあります。


上記の例に挙げた6つの目標以外にも、目標9や13のなど伝統工芸品の別の側面と関連している目標は数多くあります。環境にやさしく、持続可能性のある日本の伝統工芸品は、「持続可能な社会」をつくる沢山の可能性を秘めているのですね。

 

12「つくる責任つかう責任」の取り組み事例

SDGsの17個の目標のうち、日本伝統工芸と一番深く関わっている目標は12番だと考えられるのではないでしょうか。12の目標である「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」ことは、「ものを大切にする」それぞれの伝統工芸の歴史の中で徐々に培われてきているといえます。

それと同時に、最近のSDGsの注目により、伝統工芸の生産・消費の両過程において「持続可能性」を促進する積極的な活動が行われています。

例えば、蒔絵作品のメーカーであるHARIYA(詳細はこちら)は、12番の目標のうちの「つくる責任」を三つの要素に分けてSDGsに取り組んでいます。その三つとは「Reduce(減らす)」「Reuse(再利用)」「Recycle(再資源化)」です。

この3つのRに則して、素材や創りだす製品、不要とされるようなものまで全てを大切にし、工夫をすることで付加価値をつけ、長く無駄なく使ってもらえる品を生み出しているのです。

このように、伝統工芸における「つくる側」の責任を持った行動が進んでおり、12番の目標が積極的に果たされていることが伺えます。


14 「海の豊かさを守ろう」の取り組み事例

伝統工芸品を消費する利点として、現在の日用品に比べ、長持ちしやすいという点があります。これは、伝統工芸品ならではの品質の良さと修理が可能だという点が影響しています。

長持ちしやすい伝統工芸品を使用することで廃棄物が少なくなり、海を含めた環境の保全や整備が行われやすくなると考えられます。
また、伝統工芸品で使用する天然の素材を使用することで、海に流入しても環境を汚染し続けることはなくなります。

例えば、漆製造のURUSHI NEXTで原材料として使われている漆は、紫外線と海水によって分解されるといわれています。現在主流であるプラスチックと異なり、伝統工芸品は環境への負荷が少ないとされています。(詳細はこちら

このような、伝統工芸品ならではの品質や自然な素材へのこだわりが、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向け保全し、持続可能な形で利用する」という目標を達成する一助となっているのです。

15「陸の豊かさも守ろう」 の取り組み事例

日本の伝統工芸品の多くの材料は陸から採られています。そのため、陸の豊かさが損なわれれば、当然伝統工芸の生産も不可能になります。

つまり、SDGsの15番の「陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、並びに生物多様性損失の阻止を図る」という目標は、伝統工芸の生産にも深く関わっているのです。

実際に数多くのメーカーが、陸の豊かさを守るための活動などを行なっています。漆製品の製造を行うURUSHI NEXTは、漆の持続可能性について啓蒙しています。

漆はウルシノキと呼ばれる木から採取されており、木々を植え適切に育てることで、豊かな陸環境の維持が可能です。また、漆製品は修理をしながら長く使うことが可能なため、ゴミやプラスチックの使用を減らすことから環境への負荷が軽いとされています。

このように、伝統工芸は陸の豊かさと深く結びついており、数多くのメーカーが陸の環境保全を日々意識していると考えられます。

会津漆器協同組合ご提供:丸物木地製作シーン

 

 

工芸関連メーカーのSDGsに関する取り組み事例5社

山下工芸の取り組みと SDGs の関連性

竹細工を中心とする九州の民芸や工芸品を多数取り扱う山下工芸では、3・12・14・15の目標を中心に様々な取り組みをおこなっています。

例えば、障がい者の方々の働く機会を作業委託によって設け、選び抜いた原料を使用することによる安全な商品開発は目標3に繋がっています。また、現在問題となっている放牧竹林などの活用や自然素材由来の商品開発、プラスチックの削減なども積極的に取り組んでいます。
(詳細はこちら

能作の事例

能作は富山県高岡市にて錫器の製造をおこなっている会社です。「誰もが住みやすくなれる」を目標に5つの軸を基に、 SDGsの問題に多角的にアプローチしています。

5つの軸とは、「1. 自然環境・社会に配慮したものづくり2. 地域への恩返し・住み続けられるまち 高岡に3. 地域の未来を担う子どもたちへ4. 100年先も続く伝統工芸に5. 社員の笑顔を大切に 働き続けられる環境づくり」です。

それらの軸を通じ、環境問題への配慮だけでなく、地元との連携や支援、地域社会での次の世代との関わり、広い世界や未来への発信と伝承、そして自社内での平等な働く環境づくりなど、日本社会や伝統工芸産業が抱える大きな問題の解決を目指しています。

 

特定非営利活動法人ウルシネクストの取り組み

漆製品に使用される漆は、原料そのものがサステイナブルな資源だと考えられています。漆の活用によって、陸・水環境の整備、街や社会、産業の活性化、そして環境問題の改善を促進ができると言われています。

漆製品を製造しているウルシネクストでは、そんな漆の利用を促進すべく、特定の商品の売上を、ウルシの森づくりのための活動に使用しています。
(詳細はこちら


蒔絵、HARIYAの取り組み

HARIYAは、蒔絵の製造を行なっており、つくる側としての責任を「3R」に照らし合わせて考え、取り組んでいます。そのうちのReduce(減らす)側面では、「素材を大切にする」ことが核とされていると考えられます。

例えば、蒔絵は作業過程で木の筋やヒビが見えてしまうことがありますが、その素材を捨ててしまうのではなく、新たに蒔絵を加えることで、新しい命を吹き込むのです。また、蒔絵に使う道具自身も自然の素材から作られることがあります。

熊野筆、晃祐堂の取り組み

熊野筆の製造を行う晃祐堂は、主に4つのポイントからSDGsにアプローチしています。その4つとは、伝統工芸士による筆づくりやアップサイクル、環境への配慮、働く環境の整備と地域社会との連携です。

そのそれぞれの軸にSDGsの多くの目標が関わっています。例えば、地域社会への貢献として、地元の間伐材を利用した商品の開発や熊野筆のセミナーや体験会を行なっています。(詳細はこちら


その他にも、小樽の深川硝子工芸(詳細はこちら)、越前和紙の山田兄弟製紙株式会社など(詳細はこちら)多数の取り組みが見受けられます。

 

 

伝統工芸士のSDGsに関する発信

SDGsは、メーカーによって取り組まれているだけでなく、伝統工芸士個人が発信・取り組んでいる場合もあります。

 

伊勢根付職人の梶浦さん

伊勢根付職人の梶浦さんは、自身のブログでSDGsに関して発信をしています。
その中で、根付をはじめとした伝統工芸は、職人によって完成されるものではなく、使う人よって長く使われることによって価値を増すものだと述べています。

日本の風土の中で育まれてきた伝統や考え方自身が、現在の消費文化中心の社会の中で「持続可能な社会」を目指す上で必要だと考えられます。(詳細はこちら


ミミズプロジェクト

ジェレミーパレジュリアンさんによって考案されたプロジェクトです。このプロジェクトで有田焼の幸楽窯の中で忘れられてきた多くの焼き物を復活させました。放置されていた焼き物は、外気の湿気によってミミズのような筋ができることから、ミミズプロジェクトと呼ばれました。この忘れられていた素材を大切にする精神は、SDGsや持続可能性に沿っているものがあります。(関連記事はこちら

 

 

環境負荷の少ない商品、伝統工芸品5選

日本工芸堂では、「つかう」側として持続可能な消費やSDGsに貢献することのできる、様々な商品を取り揃えております。今回おすすめする5点の伝統工芸品は、高品質で長く使うことができるだけでなく、修復することが可能であり、実際に修復の作業などが体験できる製品です。
伝統工芸品そのものの良さを感じながら、一消費者として伝統工芸を通じて「持続可能な社会」に貢献して見るのはいかがでしょうか。

山中漆器 お椀

山中漆器 お椀 | サブロク椀 漆茶 | 仙才 | 白鷺木工

山中漆器のお椀の中でも、伝統的なサイズ感で持ちやすく重ねやすいお椀がこの「サブロク椀・仙才」。昔から伝わってきている三寸六分(13.6cm)のサブロク椀は、汁物を盛る際にピッタリのサイズとなっています。仙人のように様々な才能がある形、といわれる仙才のこの椀は欅でできており、漆茶で仕上げられています。

この上品な山中漆器のお椀は、その質の高さから長く使い続けることができるだけでなく、漆が剥がれた際の修理まで可能になっています。同じものを長く使い続けることのできる山中漆器の漆器は、消費者としてもSDGs実現への一歩となることでしょう。

また、この山中漆器の中で、白鷺木工は「丸物(円形の器のこと)」を3代に渡ってつくり続けています。そんな白鷺木工は森を守り、未来へと受け継ぐためのクラウドファンディングも実施するなど、伝統工芸を超えた「持続可能な社会」づくりにも貢献しています。

山中漆器 お椀 | しらさぎボウル 漆⾚ | 栗 | 白鷺木工

上記漆器と同じ、白鷺木工による山中漆器の木製ボウルです。サブロク椀同様に、高い品質を誇ると同時に、長い年月の経過による漆の剥がれの修復も行われています。

何を盛っても良し!なこのボウルは、手に沿うカーブとなっており使い勝手は抜群です。また、原材料としては栗が使われていて、その圧倒的な耐水性の強さと木目が、美しい赤い漆によって際立っています。


山形鋳物 ケトル

山形鋳物 ケトル | ティケトルM 1.7L | 鉄ハンドル | 鋳心ノ工房

お湯を沸かす際に、中の飲み物を美味しくする作用のある鉄瓶が、丸みを帯びたケトルとなり、現在の日常に溶け込みやすくなったものがこちらの商品です。
鉄瓶は「三代使える道具」と言われるくらい丈夫と言われており、長く使えることから、その環境へのやさしさや持続可能性が窺えます。一方、鉄瓶に比べ、耐用年数が短い木製のつまみ部分ですが、付属品によって簡単に取り外し・交換ができるようになっています。そのため、長く同じ伝統工芸品を受け継いでいくことが可能になっています。
3代に渡ってこのモダンな鉄瓶を受け継いでみてはいかがでしょうか。

 

体験キット 金継ぎ

体験キット | 金継ぎ | 金継ぎコフレ | 堤淺吉漆店

割れてしまった食器を修理し、使い続けることができるようになる金継ぎ体験キットです。大切なものを長く使い続ける工夫をご自身で体験できることから、SDGsやサステナビリティへの貢献にもなります。

また説明書や動画がセットになっているため、腕に自身のない方でも楽しんでお気に入りの品々を再生することができます。「つかう」側としてだけではなく「つくる」側に寄った体験をすることで、SDGsや伝統工芸への理解をより深められるのではないでしょうか。


体験キット 拭き漆 箸二膳付き

体験キット | 拭き漆 | ふきうるしキット 箸2膳付き | 堤淺吉漆店
漆の製法の中で、最も手が届きやすいのが「拭き漆」の技法と言われています。拭き漆とは、製品に生漆を刷り込み、拭きあげる作業を繰り返す技法の子です。この体験キットでは、そんな拭き漆の技法が、二膳のお箸で体験することができます。

普段とは異なる「つくる」側に回ってみることで、今まで得ることのなかった伝統工芸に対する視点、環境や持続可能性に関する視点が発見できるかもしれません。

 

 

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