常滑焼の特徴とは？千年の歴史とともに暮らしに息づく焼き物の魅力

「焼き物」と聞いて、どんなものを思い浮かべますか？信楽焼、備前焼、有田焼、益子焼……日本にはさまざまな焼き物の産地があります。その中でも「常滑焼（とこなめやき）」は、千年以上の歴史を誇る伝統的な焼き物のひとつです。赤褐色の素朴で温かみのある土肌、そしてお茶文化に欠かせない「常滑焼の急須」は特に有名です。今回は、常滑焼の特徴や魅力、歴史、お茶文化との関わり、さらには焼き物の町・常滑の風土について詳しくご紹介します。

常滑焼の誕生と歴史

常滑焼は、愛知県知多半島に位置する常滑市で誕生した、日本最古の焼き物のひとつです。その起源は奈良時代に遡るとされ、平安時代後期の12世紀前半に本格的に発展しました。常滑の土は鉄分を豊富に含み、粒子が細かいため、高温でなくても硬く焼き締まる特性があり、これが常滑焼の独自性を生みました。この地域には良質な土壌と豊かな自然環境が揃っており、陶器の生産地として注目されるようになりました。

平安時代から鎌倉時代にかけて作られた常滑焼は、「古常滑（ことこなめ）」として知られています。特に鎌倉時代には、常滑の甕や壺が全国に広まり、常滑は日本一の陶器生産地として名を馳せました。また、伊勢湾に面した地の利を活かし、海上輸送によって全国各地への販路を広げることが常滑焼の発展を支えました。

常滑焼は、「六古窯（ろっこよう）」のひとつに数えられ、日本を代表する古窯の一つです。六古窯とは、瀬戸（愛知）、越前（福井）、信楽（滋賀）、丹波（兵庫）、備前（岡山）、そして常滑（愛知）を指し、これらの地域では1,000年以上にわたって焼き物の製作が行われてきました。常滑焼はその発展の早さと広範囲な流通により、他の窯場にも大きな影響を与えました。

戦国時代には、常滑焼が武士や大名の間で広まり、茶道文化の影響を受けた陶芸が盛んになりました。特に茶道具や日常使いの食器としての需要が高まり、常滑焼の技術は次第に洗練されていきました。

江戸時代に入ると、常滑では「赤物（あかもの）」と呼ばれる日用品の焼き物として広まり、昭和に入ると常滑市は焼き物の町として観光名所となり、地元作家による招き猫や土管型の陶器が生まれ、観光名物となりました。

今日では、常滑焼は急須で有名ですが、そのほかにもその温かみのある風合いやデザインが広く愛され、商売繁盛を願う招き猫などの縁起物としても親しまれています。常滑市を歩けば、焼き物の歴史と文化が至る所に息づき、陶器が日常の一部として生活に溶け込んでいることを実感することができます。

常滑焼の特徴とは？

常滑焼の最も顕著な特徴は、赤褐色の素朴で温かみのある土肌です。常滑地域特有の粘土を使用しており、自然な色合いが製品に温もりを与え、手に取るとその温もりを感じることができます。この土肌の色は、他の陶器と比較しても特に際立っており、常滑焼の大きな魅力となっています。

次に注目すべきは、常滑焼の機能美に優れたシンプルな造形です。常滑焼の製品は、デザインが非常にシンプルでありながら、実用性を兼ね備えています。特に急須の形状は、茶葉が広がりやすく、淹れやすさを重視した設計がされており、無駄のない造形が魅力的です。そのシンプルさの中に、使いやすさと美しさを兼ね備えた「機能美」が息づいています。

さらに、常滑焼は無釉焼成という技法を特徴としています。釉薬を使用せずに焼き上げることにより、陶器自体が呼吸し、独特の風合いが生まれます。この無釉焼成による自然な質感と色合いは、常滑焼ならではの魅力で、使うほどに味わい深さが増します。

また、常滑焼と言えば急須の名産地としての技術の高さも見逃せません。常滑市は急須の生産地として全国的に知られ、その技術は長い歴史を有しています。職人たちは、細部にわたる技術を駆使して、機能性だけでなく美しい形状を追求しています。常滑焼の急須は、茶道の道具としても重宝されており、その使いやすさとデザインの美しさが高く評価されています。

特徴のひとつであるセラメッシュ（急須内の陶製の茶こし）の取り付け作業シーン

常滑焼の朱泥急須──焼き締めが育むまろやかな一杯

江戸時代には、日用品の陶器「赤物（あかもの）」が盛んに作られるようになり、幕末には常滑焼を代表する朱泥急須（しゅでいきゅうす）が誕生しました。朱泥急須は、常滑の土による「焼き締め」効果で渋みや苦みをほどよく吸収し、お茶をまろやかに仕上げます。さらに、蓋と胴体をぴたりと合わせる高度な「蓋すり」技術によって香りと旨味を閉じ込め、日本茶本来の繊細な風味を最大限に引き出します。

急須を選ぶ際は、持ちやすい取っ手、注ぎ口のキレ、蓋の合い具合、茶こしの目の細かさなどを確認すると良いでしょう。職人の手による常滑焼の急須は、実用性と美しさを兼ね備え、日々のお茶時間をより豊かにしてくれます。

おすすめの急須

常滑焼 急須 | 丸線段 | 朱泥 | 玉光陶園

常滑焼ならではの上質な朱泥で成形した丸形急須。茶葉が均等に開く設計と、金属臭のない一体型陶製フィルター〈セラメッシュ〉により、旨みだけを余さず抽出します。鉄分豊富な陶土がタンニンをまろやかに整え、味わい深い一杯に。段を刻んだ柔らかなフォルムは手に馴染み、茶時間を豊かな儀式へ格上げ。千年の技を受け継ぐ窯元〈玉光陶園〉が40以上の工程で仕上げた逸品は、自宅用はもちろん、贈り物にも最適です。

常滑焼 急須 | 丸型筋引き | 黒泥 | 玉光陶園

丸型の本体は茶葉がまんべんなく広がる設計で、旨みを余すことなく抽出できます。金属の茶こしを使わず、土の素材を生かした陶製フィルター「セラメッシュ」を採用。茶こし一体型構造により、余計な金属臭や雑味を感じさせず、お茶本来の自然な風味を楽しめます。同じ朱泥土から作られる朱泥急須との違いは焼成方法――酸化焼成で朱色、還元焼成（窯の中で酸素不足の状態で焼くことで、焼き物の色や質感を変化させる方法）で黒色へ。しっとり滑らかな質感と落ち着いた佇まいは現代の空間にも調和します。

＜玉光陶園の工房に伺った際に撮影させてもらいました＞

焼き物の町を歩く「やきもの散歩道」

現在、常滑市内には、「やきもの散歩道」と呼ばれる観光地があります。この散歩道は、常滑焼の歴史や技術を学びながら、町の中を歩くことができるルートです。散歩道沿いには、多くの陶芸ショップやギャラリーが点在しており、常滑焼の魅力を存分に感じることができます。

また、散歩道には、常滑焼を製造する窯元も多く、実際に製作過程を見ることができる工房もあります。町を歩きながら、職人の技を見学したり、実際に作品を購入したりすることができ、常滑焼を身近に感じることができる場所です。散歩道を歩くことで、常滑焼の魅力をより深く理解し、地域の文化とともにその歴史に触れることができるでしょう。

招き猫から建築資材まで

常滑焼は食器や急須にとどまらず、明治時代以降は日本最大の土管生産地としても知られるようになります。常滑の土は水を通さず丈夫に焼き上がるため、排水用土管に最適でした。その後、大正時代には機械化が進み、タイルや建材、さらには住宅設備機器まで、多様な用途の陶器製品が生産されるようになりました。建築分野においても常滑焼は大きな役割を果たしており、その技術は現代の建材にも生かされています。

また、常滑は日本一の招き猫の産地としても有名です。地元の作家による陶製の招き猫が並ぶ「とこなめ招き猫通り」では、39体もの招き猫が展示され、訪れる人々を楽しませています。招き猫は元々、各地で郷土玩具として作られていましたが、需要が高まったことにより明治後期に大量生産が始まりました。

昭和初頭には特徴的な大きな耳、丸い顔、ずんぐりした体型で親しまれるようになり、商売繁盛や縁起物として広く愛される存在となりました。

以下、写真は筆者、イオンモール常滑にて撮影。地元に方曰く、最大の招き猫とのこと)

まとめ

常滑焼には、伝統を大切にしながらも時代の変化に柔軟に対応し、新しい技術やデザインを取り入れてきた歴史があります。地元の土を活かした製法を守りつつ、社会のニーズに合わせて作るものを変化させてきた結果、常滑焼は常に進化を続けてきました。

職人たちは、土地に根ざした素材を用いながらも時代の流れを敏感にとらえ、伝統と革新のバランスを保って新しい挑戦を続けています。その柔軟な対応力と未来を見据えた姿勢が、常滑焼の可能性をさらに広げていくでしょう。


【おすすめ動画】「自由という土」（株式会社ヤマキイカイ、転載許可済）