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記事: 漆器は高い?そもそも漆とは?漆塗りの制作工程や歴史を知る

漆器は高い?そもそも漆とは?漆塗りの制作工程や歴史を知る
#工芸を知る

漆器は高い?そもそも漆とは?漆塗りの制作工程や歴史を知る

お椀ひとつ数万円ということも珍しくない漆器。値段だけ見て「高くて買えない・・・」と思っていませんか。でも、伝統工芸品である漆器は、長い目で見ればコストパフォーマンスがかなり高いものなんです。

今回はなぜ漆器の価格が高くなるのか、またコスパが高いといえる理由などをご説明しましょう。値段が高くてもコスパがよければ、グッと身近に感じられるかもしれませんね。

 

漆とは?機能性を高めることから始まった漆器の歴史


お椀 汁碗 | 越前漆器 欅一文字大椀 | (黒/赤)溜 | 土直漆器

漆器はその艶やかな色合いから、華やかで高級なイメージがありますが、当初は、使いやすさや丈夫さなど機能性を求めることからスタートしました。なぜ漆を塗ると機能性が高まるのでしょう。まずは漆について解説します。

漆とは?日本の環境が漆器を生んだ

まず「漆」という漢字を見てみましょう。さんずいに、木と水。つまり「漆」は、水の木もしくは水が出る木であるということを表しています。漆は樹皮に傷をつけ、そこからにじみ出てくる樹液を採取したもの。その様子を見た当時の人々が漆の樹液を水に喩え、「漆」という漢字を考えたのかもしれません。

植物としての漆はウルシ科ウルシ属の落葉高木。生息はアジア圏のみ、日本では縄文時代からあったといわれています。湿気の多い日本は漆の生育や漆塗りに向いており、植樹が行われ、精製した漆を塗料として使うようになりました。

また、漆を塗る木の資源にも恵まれたことも、漆器が生まれた要素のひとつです。山に囲まれた日本では、近くの山から切り出してきた木に塗料として漆を塗るのは、ごく自然の流れだったように思われます。

 

漆の機能性が日本文化の一旦を担う

漆器は木の器に漆を塗り重ねたもののことです。漆の樹液の主成分はウルシオールラッカーというもので、名前の通り塗料として使え、酸化することで硬くなる性質があります。

漆は硬くなると、耐久性や耐水性、防腐性が高く、水にも酸にも、アルカリにも強くなるという特徴があります。さらに抗菌、殺菌作用、防虫効果もあり、一説によるとあらゆる塗料の中で日本の漆が最も丈夫だともいわれているそうです。生木のままでは腐ったりカビたり、シロアリが発生する木材も、漆を塗ることで丈夫で長持ちするようになるのです。

そのため漆は、器だけでなく木造建築の床、柱、天井などさまざまなものに用いられてきました。神社・仏閣、仏像などに艶やかな漆塗りが使われているのを、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。漆を塗ったものは数十年、長くて100年も持つといわれ、漆の高い機能性が日本の文化の一旦を担ってきたともいえます。

 

(写真:宗像大社)日本神話『日本書紀』『古事記』に登場する日本最古の神社の一つで、回廊や階段は漆で塗られている。

 

漆器の制作工程


お椀 汁碗 | 銘木椀 中 | くり | 薗部産業

木の切り出しから塗り、加飾まで一つひとつ職人の手によって作られる漆器には、数カ月から1年と、長い製造工程・期間があります。さまざまな製造工程がありますが、ここでは木地をつくるところから完成までを解説します。

形を整える木地づくり

漆器は器になる木を選ぶところからはじまります。木の素材はケヤキ、トチ、ヒノキ、ヒバなどで、各地域の漆器により使う木材が異なります。

  1. 材料を選ぶ
    材木や丸太の中から材料となる木を選びます。
  2. 木を切る、組み立てる
    割れや芯、虫食い部分などを取り除き、つくりたいもののサイズに木を切ります。お椀などはろくろを使って荒く形を整え、重箱などなら接着剤などを使って組み立てます。
  3. 木地を磨く
    形を整えた木地をていねいに磨きます。



木地を強くする下地づくり

毎日使う食器は丈夫であることが大切。木地を強くし、仕上がりが美しくなるために下地づくりは欠かせません。

  1. 木地固め
    生漆を薄めたものを刷毛塗りなどの方法により、木地の奥まで漆を染み込ませます。
  2. 木地を補強する
    木地を頑丈にするため、土や布などを使って補強します。各地の塗りによって異なりますが、土に漆などを混ぜたものを塗る、漆につけた麻布などを貼るといった方法があります。
  3. 木地を乾燥させる
    漆が乾燥してから、サンドペーパーや砥石などを使って滑らかにして、乾燥させます。

漆器のかなめ、漆塗りの作業

漆器の塗りの作業には、いろいろな工程があります。「ばか塗り」といわれる津軽塗などは、塗りの工程だけで20工程以上。詳細を書くにはスペースが足りませんが、大まかな工程だけ説明します。

  1. 下地塗り
    中塗の漆を下地に塗り、乾燥させます。その後、研磨作業を行い、表面をなめらかにします。
  2. 中塗り
    下地塗りと同じく、中塗の漆を塗り乾燥させ、研磨作業を行います。
  3. 仕上げ塗り
    中塗りして乾燥したものを拭き、上塗り漆などで仕上げ塗りを行います。最後の塗りになるため、ホコリがついたり刷毛目が残ったりしないよう、ていねいに塗ります。

>関連する注目記事はこちら→日本の漆器の産地とその違い


蒔絵や螺鈿などの加飾

仕上げ塗りをしたものに、蒔絵や沈金・螺鈿といった加飾を施します。加飾はいわば飾りなので必要なものではありませんが、漆器をより美しくしてくれるものです。加飾の種類は数多くありますが、加飾の中でも有名な蒔絵、中でも「平蒔絵」の工程を紹介しましょう。

平蒔絵は蒔絵の中で一般的な技法で、建築物などにも用いられています。まず漆で絵や文字などを描いてから色粉を蒔き、さらに漆で固めて乾燥させます。仕上げに蒔絵の上の部分だけに透明漆を塗って磨き、金色を輝かせて感性です。

 

 

なぜ漆器は高いのか

これまで漆器が生まれた背景やその性能、製造工程などをみてきました。その中で、漆器の値段が高くなる理由がぼんやりとわかってきたのではないでしょうか。最後に、さらに漆器の値段がなぜ高くなるかをまとめてみます。

大量生産・安定生産が難しい

伝統工芸品である漆器の製造工程は、各地方の漆器によって違いがありますが、全部で100以上の工程があるところも少なくありません。先述の通り、簡単に分けると木地づくり、下地づくり、塗り、加飾がありますが、木を選ぶところから出荷までは1年以上かかるものもあります。

関わる職人さんたちの技術向上に時間がかかるという現実もあります。一人前の職人になるには10年掛かるという人もいるほど、技術が必要とされる仕事です。工程が長いと人件費や材料代などのコストがかかり、漆器の値段も高くなるという訳です。さらに、金粉などをふんだん使った豪華な加飾の漆器などは、さらに多くの人手、材料が必要となるため、さらに価格が上がります。

スーパーなどで売られている安い価格の食器は、海外の工場で生産されたものがほとんど。人件費、材料費も抑えたものなので、当然価格は安くなります。

材料費が高い

漆器の主な材料は、漆と木の器。どちらもそれなりの価格がするものです。

現在、日本国内で漆を生産しているのは、岩手・新潟・茨城などで、漆器づくりに使われる漆のうち国産漆の割合はわずか1~2%ほど。国内で使われている漆のほとんどが外国からの輸入品です。国産の生漆の販売価格は1kgあたり10万円。1L=1kgのミネラルウォーターが100円くらいだということを考えれば、とても高価なものであることがわかります。ちなみに中国産の生漆は1万6000円/1kgほどです。

また、ケヤキ、トチ、ヒノキ、ヒバといった国産の天然の木も、生産数が少ないため価格が高いものばかりです。

国産の天然木の器に、国産の漆を塗ると価格が高くなる理由がわかりますね。ですが、日本の漆は外国産の漆より丈夫で長持ちするといわれています。何十年も使い続けられるという点を考えれば、コストパフォーマンスがよい、ともいえるかもしれません。

 
越前漆器 お椀 | 椀 日月| 木地呂内朱 | 土直漆器

越前漆器 、木曽漆器 、高岡漆器 、山中漆器など産地の値段差

漆器の値段が高いのは素材の価格に依存している点などこれまで述べてきましたがいかがだったでしょうか?さてでは産地による値段差はあるのでしょうか?こちらを一括りに定義するのは大変難しいところです。なぜなら各産地に多くの工房・メーカーが存在していて凌ぎを削っています。

あるところは高級ギフト路線で百貨店を中心とした市場を得意とし、あるところはファミリー層向けに商品づくりを展開しているからです。単純に産地で値段差を比較するのは一部しか語っていないことになり兼ねません。ユーザーが産地での比較をする際は、技法や素材、制作工程などによる値差をある程度の背景を理解し、そしてご自身の利用用途とニーズにマッチした品を選ぶのが良いかと思います。

 

質の違いは使い続ければ顕著にあらわれます

 

今回はなぜ漆器の値段が高くなってしまうのかについて、説明しました。確かにお椀ひとつの値段として考えると漆器は高く感じるかもしれませんが、仮に3万円のお椀を買ったとして四半世紀使い続けたとすると、1年あたり1200円。大切に使えば100年使うことも可能なことを考えれば、コスパはかなりいいはずです。

また、使うほどに風合いや艶が増していくのも漆器の魅力のひとつ。剥げたり欠けたりした場合には補修をすることもでき、補修跡さえもその漆器の歴史となります。奥が深い漆器、まずはひとつを手にとって、自分だけの個性を持った漆器へと成長させてみませんか。

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