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記事: 輪島塗とは?丈夫さと美しさを生み出す職人の技

輪島塗とは?丈夫さと美しさを生み出す職人の技

輪島塗とは?丈夫さと美しさを生み出す職人の技

輪島塗は、石川県輪島市でつくられている漆器です。艶のある塗りや、沈金・蒔絵による装飾がよく知られていますが、もう一つの大きな特徴は、毎日使っても傷みにくい丈夫さにあります。

その丈夫さを支えているのは、完成した器の表面には現れない下地の仕事です。木地の弱い部分に布を貼って補強し、輪島で採れる「地の粉」を混ぜた漆を塗っては研ぐ。こうした工程を、それぞれ専門の職人が受け持って一つの器に仕上げていきます。

この記事では、輪島塗の歴史と製造工程をたどりながら、丈夫さと美しさを生む技、そして直しながら使い続けられる漆器としての魅力をご紹介します。

1. 輪島塗とは|能登で育まれた漆器

能登半島の北部に位置する輪島市は、日本有数の漆器産地です。輪島塗は日々の食卓で使われてきた一方、祝いの席や茶の湯の道具、贈答品としても重用されてきました。

起源には諸説あり、はっきりとはわかっていません。輪島市の重蔵神社には、室町時代の大永4年(1524年)にさかのぼると伝えられる朱塗扉があります。また、1476年の棟札には塗師の名前が記されており、室町時代には輪島で漆器づくりが行われていたことがうかがえます。

漆器は日本各地でつくられていますが、輪島塗が高く評価されてきた理由の一つに、堅牢な下地の技術があります。輪島で採れる「地の粉」を用い、傷みやすい箇所を布で補強する「布着本堅地(ぬのきせほんかたじ)」は、輪島塗を特徴づける製法として知られています。

輪島塗は1975年に国の伝統的工芸品に指定され、1977年にはその製作技術が国の重要無形文化財に指定されました。輪島塗の高度な技術は、文化財としても保護・継承されています。

 

2. 輪島塗はなぜ丈夫なのか

輪島塗は「堅牢優美」、丈夫で美しい漆器と評されてきました。

丈夫さの理由は、漆の厚みよりも、その下にある工程の積み重ねにあります。木地のつくり方、傷みやすい部分の補強、何層にも重ねる下地。それぞれに、長く使うための工夫があります。

木地づくり|木材の選定と乾燥

漆器の土台となるのが「木地(きじ)」です。

輪島塗では、ケヤキ、アテ(ヒバ)、ホオ、カツラなどを、器の形や用途に合わせて使い分けます。

木は伐採した後も、水分の出入りによって縮んだり反ったりします。そのため、時間をかけて乾燥させ、木の状態を見極めてから加工に入ります。

ろくろで椀などを挽く「椀木地」、板を組み合わせて箱や膳をつくる「指物木地」、薄い板を曲げて丸盆などをつくる「曲物木地」、ホオの木を刳って脚や複雑な形をつくる「朴木地」。輪島では、器に応じてこうした木地の技術が使い分けられてきました。

塗り上がった器から木目は見えませんが、手に取ったときの軽さや形の確かさは、木地職人の仕事によるところが大きいといえます。

布着せ|傷みやすい部分を補強する

輪島塗を特徴づける技法の一つが「布着せ(ぬのきせ)」です。

椀の縁や底、器の接合部など、欠けやすく割れやすい部分に、麻布や寒冷紗(かんれいしゃ)を漆で貼り付けて補強します。

食器は、置く、持ち上げる、洗うといった動作を日々繰り返します。その負荷がかかりやすい部分を、あらかじめ布で守っておくという考え方です。

地の粉|輪島ならではの堅牢な下地

もう一つの特徴が、輪島特有の「地の粉(じのこ)」です。

地の粉は、輪島で採れる珪藻土を焼いて粉にしたものです。これを生漆や米糊と混ぜて木地に塗り重ね、丈夫な下地をつくります。

下地は、粒子の粗いものから細かいものへと段階を変えながら、塗りと研ぎを繰り返して整えていきます。一度に厚く塗るのではなく、塗り重ねては乾燥させ、研いで状態を確かめる。その繰り返しが、割れにくく剥がれにくい下地になります。

輪島塗の価格には、こうした下地に費やされる材料、時間、職人の技術も含まれています。

 

3. 木地から仕上げまで|輪島塗の製造工程

輪島塗は、工程ごとに専門の職人が仕事を受け持つ分業によって発展してきました。

加飾までを含めると124の工程があるといわれます。ただし、数え方や器の種類によって実際の工程数は異なります。

ここでは、製造の流れを大きく4つに分けてご紹介します。

① 木地づくり

乾燥させた木材を、椀や皿、箱などの形に加工します。木の性質を読み、使いやすさと形の美しさを両立させるのが木地職人の仕事です。

② 下地・塗り

木地に布着せを施した後、地の粉を使った下地を塗っては研ぎ、器の土台をつくります。

その後、中塗り、上塗りへと進みます。上塗りは器の表情を決める工程で、刷毛目や埃を残さないよう、漆を均一に塗り上げます。

③ 沈金

塗り上げた器の表面に、ノミで文様を彫り込み、金箔や金粉を埋め込んで仕上げる加飾です。

④ 蒔絵

漆で文様を描き、その上に金粉や銀粉を蒔いて仕上げる加飾です。

一つの輪島塗は、こうして何人もの職人の手を経て完成します。

 

4. 輪島塗の美しさを生む、沈金と蒔絵

艶やかな塗りに加えて、輪島塗の美しさを形づくっているのが、沈金と蒔絵という二つの加飾技法です。

沈金|彫ることで生まれる繊細な文様

沈金は、漆を塗った表面に専用のノミで文様を彫り、その溝に漆を摺り込んで金箔や金粉を押し込む技法です。輪島で大きく発展した技法として知られています。

線の太さや深さ、彫りの密度によって、同じ文様でも表情が変わります。細い線を重ねることで、羽毛や花びらのような繊細な表現も可能になります。

彫った線は、後から消すことができません。ノミを入れる角度や力の加減には、職人の経験と判断が求められます。

日本工芸堂では、輪島の田谷漆器店を訪ね、沈金を体験させていただいたことがあります。実際にノミを持つと、思った通りの線を一本刻むことさえ難しく、職人の手の確かさをあらためて知りました。

蒔絵|漆と金銀粉による豊かな表現

蒔絵は、漆で文様を描き、漆が乾く前に金粉や銀粉を蒔いて定着させる技法です。

代表的なものに、平蒔絵、高蒔絵、研出蒔絵があります。平蒔絵は平面的に文様を表し、高蒔絵は漆や炭粉などで文様を盛り上げて立体感を出します。研出蒔絵は、粉を蒔いた上から全体に漆を塗り、乾いた後に研いで文様を浮かび上がらせる技法です。

沈金が漆の面を「彫る」技法だとすれば、蒔絵は漆で「描く」技法といえます。

>関連記事:【伝統工芸の旅】輪島塗と、売り続けるという関わり方

 

5. 直しながら長く使う輪島塗

丁寧に下地をつくり、漆を重ねた輪島塗は、日々の使用に耐える丈夫さを備えています。

それでも、長く使えば傷がつくこともありますし、落として欠けることもあるでしょう。

漆器のよいところは、状態によっては職人の手で塗り直しや補修ができることです。輪島では、こうした修理を「なおしもん」と呼んできました。傷みの程度や器のつくりによって修理できるかどうかは異なりますが、使い込んだ器を手入れして、もう一度食卓に戻すことができます。

親の代から使ってきた椀を直して、また使う。輪島塗に重ねられてきた手間は、そうした長く使い続ける暮らしを支えてきたとも考えられます。

震災を越えて、輪島のものづくりを未来へ

2024年1月の能登半島地震、さらに同年9月の豪雨は、輪島塗の産地に大きな被害をもたらしました。工房や道具が失われ、職人の暮らしや、分業で成り立つ生産の仕組みにも影響が及んでいます。

そうしたなかでも、仮設工房などを活用しながら、仕事を続けている職人たちがいます。

日本工芸堂では「1% for 日本の工芸育成」プロジェクトの一環として、2024年の売上の1%を輪島塗産地の復興支援に充て、2025年6月に輪島漆器商工業協同組合へ寄附金をお届けしました。

産地とのつながりを保ち、輪島塗を紹介し、販売を続けていくことも、私たちにできることの一つだと考えています。

>関連記事:伝統と未来をつなぐ支援|日本工芸堂、輪島塗の地に寄附金を届ける

 

6. 暮らしの中で輪島塗を楽しむ

輪島塗は特別な席の器という印象を持たれがちですが、もともとは日々の食卓で使われてきた器です。

使い心地を感じやすいのは、汁椀でしょう。

木の器は軽く、手に持ったときの感触がやわらかです。熱い汁物を入れても手に熱が伝わりにくく、毎日の食事に無理なくなじみます。

ほかにも、箸やぐい呑み、皿など、さまざまな品があります。黒や朱の無地の器から、沈金や蒔絵を施したものまで、用途や好みに合わせて選ぶことができます。

長く使うためのお手入れ

日常で使う際に、気をつけたいことがいくつかあります。

使った後は、やわらかいスポンジで洗い、水気を拭き取ります。食器洗い乾燥機や電子レンジは使わず、直射日光や、長時間水に浸けておくことも避けてください。

手入れの方法は品によって異なるため、それぞれの製造元が案内している使い方もご確認ください。

棚にしまっておくより、日々使うほうが漆器は手になじんでいきます。

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おわりに

輪島塗の丈夫さは、木地、布着せ、地の粉の下地といった、完成後には見えなくなる工程から生まれています。その上に漆を塗り重ね、沈金や蒔絵の文様が施されます。

日々使い、傷んだら直して、また使う。輪島塗はそうした付き合い方を支えてきた器です。

日本工芸堂では、これからも輪島のつくり手との関係を大切にしながら、その技と器を届けていきたいと考えています。

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