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記事: 修理・補修で長く使う伝統工芸の技

修理・補修で長く使う伝統工芸の技
#工芸品を使う

修理・補修で長く使う伝統工芸の技

質のよい伝統工芸品が長く使い続けられているのは、丈夫に作られている、大切に使ってきた、というだけではありません。長く使うことを想定して作られている伝統工芸は、修理をしてさらに長く使えるよう、修復の技術も磨かれてきているのです。

中には、修復することで価値があがっていくものもあります。

「直せなくなるまで」が寿命と言われる伝統工芸品。今回は、その中でも漆器、陶磁器、南部鉄器の修理についてご紹介します。

色もデザインも新しく生まれ変われる、漆器の修復

「日常使いの丈夫な器づくり」から始まった漆器の歴史。特に輪島塗は、使い、痛み、修復し、さらに使い続けるというサイクルを想定して作られている、とも言われています。漆器の修復では、薄くなった漆も欠けた木地もそれぞれの場合に適した修復方法で元通りにできます。

新品同様の輝きを取り戻す「塗り直し」

丈夫な漆器でも、使っていくうちに少しずつ漆は擦り減っていきます。毎日使っていれば、擦り減り具合が目に見えて感じられることもあるかもしれません。

そんなときに行うのが「塗り直し」です。表面の漆塗装を少しだけ削り落とし、新しい漆を塗っていきます。色漆を使い、色を変えることも可能。漆を盛り上げてデザインを付け、全く違うイメージの器にもできます。もちろん、蒔絵が入っていても上から透明な漆を使えば、修理できます。

塗り直した漆器は、まさに新品同様の輝き。漆が剥げてしまった状態のものも、塗り直しならきれいにできます。漆は残っているけれど、艶だけが失われた、という場合は、艶層だけを落として再度艶だしを行う、という方法をとる場合もあります。

割れ、欠けの修理

漆器は木製品なので、落としてしまうと割れてしまったり、細かいヒビが入ってしまうこともあります。ヒビが入ったり、欠けたりした漆器は、漆で埋める方法で修理を行います。大きくかけたり、割れたりしたものも、漆で接着し、上から漆で塗り直せば、きれいに修理できます。

割れた部分や欠けた部分に異なる色の漆や金、銀を混ぜた漆を塗ることで、器の新しいアクセントにする人もいます。

漆器が欠けた場合は、かけらも必ず保存しておくようにしましょう。修理の仕上がり方がちがいます。

漆器の修理期間

修理とはいえ、漆や木地の状態や現状の色合いなどを見極めたうえで、一つひとつ試行錯誤しながら手作業で行う修理作業には時間がかかります。通常3カ月程度、長くて半年以上かかる、ということもあるそうです。

大切な思い出がよみがえる期間として気長に待つのも、楽しみの一つかもしれません。

 

新たなデザインで魅力を増す陶磁器の修復

割れた器をつなぎ、修復して使う習慣は、なんと、縄文時代から見られるものです。大切な器を使い続けたいという気持ちは、人の変わらぬ思いなのかもしれません。時代は流れ、使えるようにするだけでなく、美しさを取り戻し、より楽しく使えるような修復を求める心が、修復に特化した伝統技術も生み出しました。

金継ぎとは

陶磁器の修復手法である金継ぎは、それ自体が一つの伝統工芸でもあります。真っ二つに割れた器でも、漆で接着し、金粉を塗ることで、新たなデザインとして生まれ変わらせる、という技術は、織田信長の茶の湯好きから生まれたといわれています。

自由に茶会を開くことを禁じた信長は、功績があった家臣だけを茶会に呼び、自慢の茶道具を与えました。茶道具は富と権力の象徴になり、たとえ壊れても、使い続けたいという思いから高い修復技術が求められたといわれています。

さらに、壊れても壊れた部分を隠すのではなく、あえて目立つように装飾するというアイデアは、日本の美意識の表れであるともいいます。壊れた姿も含め、ありままを受入れ、賞賛しようという心は茶の湯の精神にもつながり、広まっていきました。

金継ぎの手順

金継ぎの基本的な技法は、それほど難しくはありません。最近では金継ぎに必要なものを揃えたキットも販売されており、各地で金継ぎ講座が開かれています。

<金継ぎの手順>

  1. 割れた部分に生漆をしみこませる
  2. 小麦粉と水、生漆を混ぜた接着剤「麦漆」で割れた部分を接着する
  3. 砥の粉と水、生漆を混ぜたもので接着面の溝や欠けた部分を埋める
  4. 継いだ部分に漆を塗り、金粉を蒔く

それぞれの段階の間には漆を乾かす時間が必要です。1と2の間で1~2日、2と3の間は2週間程度かかります。より滑らかに仕上げるためにはやすりがけなどを行うことも。最後の金粉を蒔く際には、職人ならではのセンスで、ヒビや欠けを埋めるにとどまらないデザインが施されることもあります。

一つのアート作品を新たに作ることでもある金継。偶然できた傷をどのようにデザインとして活かすのかは、職人技の一つです。昔も今も、どのような仕上がりになるのかを楽しみに待つ気持ちは、同じかもしれません。

*明治42年(1909)創業、漆樹液(荒味漆)の仕入れから塗漆精製、調合、調色を一貫して自社で行う漆のメーカー、堤淺吉漆店。堤淺吉漆店さんの金継ぎ体験キット | 金継ぎコフレ |のご紹介は以下です。
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金継ぎ以外の修復方法

陶磁器に新しい魅力を与える金継ぎですが、やはり、元のデザインを壊したくない、という方もいるかもしれません。

そんな方には、継いだ部分がわからないように色合いを合わせる直し方を提案してくれるところもあります。

また、汚れやシミが目立つようになった陶磁器を高温で焼き直し、一度釉薬を溶かして新たに固め直す「焼き直し」も注目されています。

世代を超えて使い続けられる南部鉄器

三代使える、とも言われる暮らしの道具、南部鉄器。毎日使うものだからこそ、使えば使うほど強くなるように作られていますが、それでも何らかの理由で錆びたり、穴が開いたりすることがあります。そんな場合も南部鉄器は修復ができるように作られています。
・南部鉄器取り扱い品、一覧はこちら

高温で焼き錆びを落とす「焼抜き」

南部鉄器で多いのは「錆びてしまった」というトラブル。毎日使っていれば湯膜ができて錆びにくくなるのですが、やはり鉄なので、使わなければ錆びてしまいます。

錆びのほかに異常がない鉄瓶は、中の錆びを落とした後、800度ほどの高温で焼き、再度表面に錆どめの酸化被膜を作る作業を行います。高温で焼くため、外側の色が落ちてしまうので、好みの色で仕上げることも可能です。

穴が開いても元通り「底入れ替え」

穴が開いてしまった場合、小さな穴は鉄を混ぜた漆で穴を埋めれば対応できます。

ただし、大きな穴が開いた、底が薄くなってしまった場合は、底の部分を抜いて入れ替える「底入れ替え」を行います。まったく同じ底を作り直すので時間も費用もかかりますが、丈夫さも水漏れも安心の鉄瓶になります。

*昭和12年(1937年)創業、代々伝統工芸技術を伝承し現在三代目が継承する老舗『薫山工房』。一品一品入念な手作業によって作られる、江戸時代より続く岩手県盛岡の伝統工芸品「南部鉄瓶」を生業とする。南部鉄瓶、薫山工房のご紹介はこちらからどうぞ

困ったときは産地の職人さん、工房へ

大切な思い出も残っている伝統工芸品だからこそ、長く、大切に使いたいものです。それでも、愛用しているからこそ、経年変化と共に、傷むこともあるのが、日常使いの道具です。捨てるしかない、とあきらめる前に、ぜひ、道具を購入した工房や職人さんに問い合わせてみてください。きっと、何等かの対応方法を考えてくれるはずです。

そして、生まれ変わった工芸品は、正しいお手入れで長く使っていただきたいと思います。

もし、代々受け継いだもので、どこで作ったかわからない場合は、産地にある組合や伝統工芸に詳しい工芸館などに問い合わせてみるのも方法の一つです。生まれ変わった伝統工芸は、また、新しい思い出を乗せて、次の世代へ受け継がれていくことでしょう。

※商品の状態などによっては、修理が難しい場合もあります。必ず、工房や職人さんへご確認の上、修理を依頼してください。

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