伝統工芸の値段が高い理由

伝統工芸の値段が高い理由

びいどろ、切子、漆器、曲げわっぱ、刺し子、焼き物・・・。伝統工芸と呼ばれるものは、どれも魅力的なものばかりですね。でも100円ショップに行けば1100円のコップだってあるのに、どうしてこんなに伝統工芸品になると高いんだろう、と思ったことはありませんか?

そこで今回は、伝統工芸品の値段がなぜ高いか?について探ってみましょう。

 

伝統工芸品の原材料が高価

伝統工芸品の原材料の多くは、木、土、漆、金など。どれもそれなりの価格がするものばかりです。これらの価格が高いことも、伝統工芸品が高価になる理由の一つです。それではなぜ、伝統工芸品の原材料価格が高いのかについてご説明します。

国産の木が高い

その昔、人々は裏山などから木を切り出してきては、木炭や薪として使っていました。木工品づくりも盛んで、お椀やわっぱ、寄木細工などいろいろな伝統工芸が生まれました。その理由は、森林資源が豊富で安かったから。山に行けば、スギやヒノキといった木が取れるのですから当たり前といえば当たり前です。

しかし近代になり、スギの木が戦後に植林されたものの、東南アジアの安い木材に押されて需要は低下。林業に携わる人も減ってしまいました。

そんな中で伝統工芸品の中には、それぞれの地元の木にこだわっているところもまだまだあります。例えば、大館曲げわっぱに使うのは天然の秋田スギのみ。限定された地域から質の高い木材のみを使っているため、値段が高くなってしまうのです。

金を使った伝統工芸が高い理由

金の価格相場は、2020年7月20日の時点で1gあたり6,937円。最近金の値段は世界の情勢のせいか、ずっと値上がりが続いています。そのため、金箔を貼った器などはどうしても値段が高くなってしまいます。

「そんなに高いのなら使わなくてもいいのでは」と思うかもしれませんが、もともと金は産出量が少なく、古代から希少な金属として多くの上級の武士や貴族に愛されてきました。ですから、金箔を貼って他の藩などに売っても高値で買われていたのです。金箔をふんだんに用いた器などは、古くは武士や貴族が使うものとして、今でも高級品として扱われています。

天然の漆が高い

100円ショップなどで販売されているお椀の多くは、合成樹脂。いわゆるプラスチックです。それに対し、伝統工芸品の多くが使っているのは天然の漆です。

天然の漆は、木の表面に傷をつけて、にじみ出てきた樹液をろ過してつくります。このろ過したものを生漆といい、このままでもすり漆として使われることもあります。この生漆をさらに精製しつくられるのが透明な琥珀色をした透き漆です。このほかにも色漆や黒漆など、いろいろな精製方法を経た漆があり、どれも手間がかかるものばかりです。

漆の木が少ないこと、そしてこの樹液を取り精製するのに時間がかかることなどから、日本製の天然漆の値段はとても高くなってしまいます。最近は海外の漆も増えてきてはいますが、やはり、天然漆はそれなりの価格のものばかり。

とはいっても、幾重にも塗り重ねた天然漆の漆器のしっとりとした輝きは、合成樹脂の漆器とは大きく異なります。また、合成樹脂の漆器より天然漆の漆器のほうが丈夫で、きちんとお手入れすれば何十年も使い続けることができます。

 

製造期間が2カ月以上かかるものもある伝統工芸品

伝統工芸品は、工場でつくる大量生産品と違い、すべて手づくり。時間も手間もかかり、大量生産ができません。これも伝統工芸品の価格が高くなる原因ですが、だからこそ、オンリーワンの製品として愛されているともいえます。

50もの工程を経てつくられる津軽塗

青森県の津軽平野でつくられている津軽塗。この津軽塗の伝統的な塗りの技法には、唐塗・七々子塗(ななこぬり)・紋紗塗(もんしゃぬり)・錦塗の4つがあります。中でも有名なのは、別名「津軽の馬鹿塗り」との異名を持つ唐塗です。

この唐塗の制作期間は約2カ月以上、製作工程は約50。仕掛けベラというヘラで漆模様を施した後に、色漆を塗っては磨くという作業を何十回も繰り返すことで、あの独特な斑点模様が特徴の色鮮やかな唐塗が生まれます。

これほど長い期間はかけないものの、ほかの地域の漆器も制作期間が1カ月以上かかるところは数多くあります。1つにこれだけの時間をかけているからこその漆器の価格。何重にも漆を塗り重ねることで、硬く堅牢な器となります。

完成まで約50日かかる南部鉄器

岩手県でつくられている鋳物、南部鉄器も長い制作期間がかかる工芸品の一つです。ステンレスのやかんに比べて価格は高くなりますが、半永久的に使え、熱の加わり方がよく、鉄分の取れる南部鉄器は海外にもファンが多い伝統工程品です。

その製法はデザインを描くことからはじまり、砂で作った鋳型をつくり、その鋳型に銑鉄を流し込んでいく焼型法という技法でつくられています。その製造工程は、型挽、紋様押し、型焼き、中子、鋳込みの準備、フキ(溶解作業)、釜焼き、着色、仕上げという工程を経てつくられており、製造期間はおよそ50日。ここにあげた工程も大まかなもので、細分化すると80にもなるといいます。

工房によっては一つのデザインに一つの製品しかつくらない、というところがあり、そのこだわりが見て取れます。お手入れさえすれば、100年でも使える丈夫さもあり、手にとってみたい伝統工芸品です。


「南部鉄器」について詳しく見る

 

高い技術が必要

伝統工芸をつくるには、それぞれの職人さんが欠かせません。一人の職人さんを育てるのに数年。そして、その一人前になった職人さんが一つずつ手間ひまかけてつくるのが伝統工芸品です。

高いカット技術が要求される薩摩切子

大量生産のガラスが機械のみでつくられるのに対し、切子などガラス類はほぼ人の手によってつくられます。そのガラス類の中でも高い技術が要求されるのが薩摩切子。

薩摩切子は成型にも型を用いず、竿に巻き取ったガラスの上に、別の色ガラスを被せ、カットしていくという手間のかかる方法で作られています。ガラスに厚みがあり、その厚いガラスの層から斜めにカットを入れると、下の透明なガラスへとつながるグラデーションが生まれます。このグラデーションを「ぼかし」といい、薩摩切子の特長の一つでもあります。最近では二色のガラスを重ねた二色被せという製品もでき、技法は複雑化しましたが、さらに彩り豊かなグラスが誕生することとなりました。

また、カット技法にも魚子文、亀甲文、流炎文などさまざまな伝統的な技法があり、複雑で繊細なカットには驚かされます。このように時間をかけて技術を学んで職人さんとなり、その職人さんがていねいにつくる伝統工芸品は価値あるものといえるのではないでしょうか。

「薩摩切子」について詳しく見る

一つひとつ手作りされる肥前びーどろ

テレビなどで、竿の先に熱いガラス種をつけて膨らましてグラスをつくる様子を見たことがある方も多いかと思います。あの製造方法は、吹きガラスといいます。

肥前びーどろは、この吹きガラス=宙吹きでつくられているガラスです。この肥前びーどろの特徴は、2本の竿を使って成型しする「ジャッパン吹き」という独自の技法でつくられていること。ほかの吹きガラスでは、1本の竿にガラス種をつけて膨らませますが、こちらでは2本の竿を吹きながら成型していきます。ガラスの竿を使っているので、空気以外のものに触れにくく、やわらかく滑らかな風合いとなります。

このように独自の高い技法や時間をかけてつくられる伝統工芸品に対し、100円ショップなどで売られているガラスの多くは、型にガラスを流すブロー法やプレス法などの方法による大量生産。だから安く販売することができるのです。


「肥前びーどろ」について詳しく見る

 

丈夫で長く使える伝統工芸品

今回は伝統工芸品がなぜ高いのか?について説明しました。が、伝統工芸品は本当に高いのでしょうか。安いから、手頃だからと思って買ったモノは、壊れたり無くしたりと、すぐに買い換えていませんか。

例えば100円のお椀と1万円のお椀。単純に比較すると、100円のお椀のほうが安いのですが、すぐに塗料が取れたり、ヒビが入ったりと使えなくなってしまいます。ですが、漆器はお手入れ次第では数十年も使え、風合いが変わっていく様子を楽しむこともできます。

本当に気に入って手に入れた伝統工芸品は、お手入れに気を使いながら大切に使っていくはず。だからこそ、ずっと使い続けることができ、かえって安くつくかもしれない、と思っています。

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