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記事: 伝統工芸、南部鉄器の作り方。手づくりの技法、焼型とは?

伝統工芸、南部鉄器の作り方。手づくりの技法、焼型とは?
#工芸を知る

伝統工芸、南部鉄器の作り方。手づくりの技法、焼型とは?

南部鉄瓶をつくるには、まずデザインを考えることから始まります。デザインが決まると鋳型を作り、中に溶かした鉄を注ぎ込み、冷めたら鋳型から取り出し、釜焼きの後着色し、鉉(つる)をつけて完成します。こう書くとシンプルではありますが、製造にはゆうに100を超える工程があるそうです。そしてそのほとんどの作業が熟練の技を必要としています。

製造過程や工法は工房によって異なる進化を遂げているためあまり公開されていませんが、今回は、「焼型」での南部鉄器の作り方をご紹介してまいります。南部鉄器を焼型(手づくり)で製作する薫山工房さんからご提供いただいた資料と、訪問した際に伺った点、撮影分をもとにまとめています。

南部鉄器、工法の違い。焼型とは?生型とは?

一般的に鋳物とは溶解炉から溶けた金属を、製品の型となる鋳型に鋳込む技術(溶解、鋳込み)のことをいいます。南部鉄器も鋳物ですが、特に、鉄を溶かし製造されるので鋳鉄(ちゅうてつ)ともいいます。南部鉄器の製造技法は、2つの鋳鉄のタイプがあります。「焼型」といわれる古来より伝わる技法をとりいれた手づくりの技法と、「生型」といわれる大量生産型の技法です。

それぞれ見ていきましょう。

「焼型」

南部鉄瓶の製作に用いられる伝統的な鋳型です。川砂に水と粘土を混ぜ、これに文様を押したあと高温で焼いて使用することから、焼型と呼ばれます。細かい模様を刻めるというメリットがありますが、鋳型は壊れやすく、そのたびに新たに制作し直す必要があります。

その造型には長い時間がかかりますので、最終製品として数多くは供給できない面もあります。それだけ貴重な品であるとも言え、価格が比較的高額になります。

「生型」

砂に粘結材として膨潤性を有する粘土やベントナイトを加え、これに水を添加して成型性をもたせた型砂で鋳型をつくる鋳造法(砂型)をいいます。その都度鋳型を壊して製品を取り出しますが、鋳型の製作は機械造型も可能で容易なため、量産性に長けています。

細かいデザインを施すのにはどちらかというと向いていないです。伝統の技と現代の鋳造技術がマッチした手法といえます。

 

伝統工芸、南部鉄器ができるまで。手づくりの工程。

では次に、南部鉄器ができるまでの大まかな手順をご紹介いたします。

  1. 原寸大で詳細なデザインをつくり、その断面を木型(型板)にする。
  2. 実型(さねがた)という煉瓦と同じ材料で作られた“さや”の中に木型を入れ、中心点を軸に回転させながら川砂と粘土で鋳型を作る(型挽き)。
  3. 霰(アラレ)や桜などの模様を鋳型に押していく。
  4. 鋳型を完全に乾かし、1200度前後で焼く。
  5. 鋳型より少し小さい型(中子)を組み込む(空洞を作るため)。
  6. 1400~1500度に熱した鉄を鋳型に流し込む。
  7. 鋳型から鉄器を外し、中子を取り除いたら、800~900度で焼く(釜焼き)。
  8. 表面を磨き、鋳ばりを取り除いたら、本漆を焼き付け、おはぐろを塗り馴染ませる。


詳細について写真ととも順にご紹介いたします。


デザインの決定

鉄瓶をつくるには、まずデザインを考えることから始まります。独自の伝統形状や時代にマッチしたデザインなど、工房それぞれの主張はここから始まります。特に肌(鉄瓶の外側部分)は最も目に触れる面となるのでこだわりが垣間見れます。


型挽(かたひき)

デザインした形に木型を制作します。木型とは中心点を軸に回転させる道具のことです。現代では鉄板などの金属を使用しますが、昔は木を使用しており、その流れで現代でも木型と呼びます。実型(煉瓦素材)に、荒い型砂、中挽き、仕上げ挽きと、砂の荒さを3段階に分けて入れいきます。最後に絹真土(きぬまね)で挽き上げます。

紋様押し/肌打ち

型挽で挽き上げた鋳型が完全に乾く前に、霰・亀甲・松・桜や、雲龍・山水などの紋様を、アラレ棒やヘラを使って押していきます。鉄瓶の表面に浮き出る紋様を1つ1つ手作業で押す作業です。

紋様押しの道具は、工房ごとに異なり、自作しています。同じ製品の模様を表現する場合は、同じ道具で作業を進めます。新製品をつくる際や特徴あるデザインを施す場合は、職人ごとに工夫をこらし、自作の道具を用いています。

次は肌打ちです。肌打ちとは川砂に少量の粘土を水で溶いたもの混ぜて丸め、鋳型に軽く押していく作業です。布を丸めた道具などを用いて粒度の異なる砂を置いていく方法もあります。これにより、鉄瓶の表面に独特な味わいのある表情があらわれてきます。


型焼き

紋様押し/肌打ちが終わった鋳型を、完全に乾かした後、約1200度の炭火で焼きます。鋳型の形状、大きさによって焼く時間、炭火の調整など微妙に異なります。

まさに長年の経験に裏打ちされた勘による作業といえます。(この鋳型は数度使って壊します。利用されていた砂は再利用され、新しい砂を追加して鋳型として再活用されていきます)


中子(なかご)

外側の型である鋳型とは別に、内側の型である中子を作ります。中子とは中子用の木型で挽きあげた型(鋳型用の木型より2mmほど小さく制作)に、川砂と粘土を混ぜたものを詰めて型をとったものです。

中子は焼かずに乾燥させ、型から外しやすくするための炭の粉を塗っておきます。この中子と鋳型の隙間の厚さが鉄瓶の厚みになります(製品によって異なりますが、当該文面の場合、完成する鉄瓶の厚さは2mmほど)。

鋳込みの準備

型焼きまで終えた鋳型が完全に乾いた状態になったら、すす(油煙)をいぶし、コーティングします。すすが熱に強い性質を利用して鋳型の表面を覆うのです。鋳込んだ鉄の表面に、鋳型の表面の砂が焼付くのを防ぐためです。


フキ(溶解作業)

一連の鋳込み作業を南部鉄器の工房では「フキ」といいます。製造工程の中で一番華やかな作業といわれるのが「フキ」で、緊張と高揚が交わる瞬間でもあります。

「フキ」はコークス(石炭を蒸し焼きにして作られる燃料)と鋳鉄を交互に入れて、こしき(溶解炉)の温度を約1400~1500度まで上げ、鉄を溶かしていきます。鉄の溶け具合(湯加減という)は長年の経験により判断します。

次に溶けた鉄を運ぶための“とりべ”にくみ取り、用意していた鋳型に流し込みます。この際、鋳型に板を渡して人が乗ることで重しになり、鉄の圧力で鋳型が浮き上がるのを防ぎます。


釜焼き

鋳込みを終えた鉄瓶を鋳型から取りはずし、中子を壊して取り除きます。次に約800度の炭火で30~40分程度蒸し焼きにして、酸化皮膜をつけます。酸化被膜をつけることにより鉄器を腐敗から守り、錆を防ぐ効果をもたらします。

これが南部鉄瓶、南部釜特有の錆び止め処理加工です。

炭火で焼いて真っ赤になった鉄瓶がチラッと見えているところ

釜焼きを終えたばかりの鉄瓶のゆがみを、専用の器具で矯正しているところ

釜焼きに使う炭火が真っ赤に燃えている様子(中に鉄瓶が埋まっています)


着色/仕上げ

釜焼きを終えた鉄瓶の表面や、注ぎ口などの鋳ばりをヤスリや砥石等で細部に渡り手入れします。その後、着色していきます。鉄瓶を約300度程度に熱し、本漆(漆の木の樹液だけを使用した合成でない漆)を手作業で塗っていきます。高熱の鉄瓶に刷毛で均等に素早く焼き付ける作業は特に高度な技術が要求されます。

その後、おはぐろ(鉄片を漬けた酢酸鉄溶液に茶汁を混ぜ合わせた汁)を塗って仕上げていきます。おはぐろは混ぜる茶汁の量によって、黒や茶の微妙な色の違いを表現できます。

最後に鉉(つる)を取り付け完成となります。鉉は鉄瓶本体とは別に、鉉師という鉉を専門に作る職人が作ります。鉉にも本体と同じ着色を施して、本体に取り付けたら鉄瓶の完成です。



まとめ

南部鉄器は、経済産業大臣の第一号の指定を受けた伝統的工芸品です。高岡銅器、土佐打刃物などとともに「金工品」のカテゴリーに属します。伝統的工芸品の中の知名度で、必ず上位に属する産地・産品であり、国内外問わず多くのファンの憧れの品でもあります。“祖母の時代から使っていて…”という南部鉄器ファンもいらっしゃいます。それほど長く使えますし、丁寧に扱えば100年以上使い続けることも可能です。

そして、南部鉄瓶はおよそ400年もの間、絶え間なく作り続け技術を向上させてきた、職人の技が受け継がれている製品なのです。職人として一人前になるには最低でも10年はかかるともいわれています。長年の経験による職人の手作業による数多くの工程と勘を経て作られる鉄瓶を製品としてのみならず文化としても残していきたいものです。


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