
信楽焼とは?六古窯に数えられる“土もの”の魅力
信楽焼(しがらきやき)という焼き物をご存知ですか。日本の伝統的な焼き物の中でも、素朴であたたかな風合いが特徴の信楽焼は、暮らしにやさしく寄り添う“土のうつわ”です。
滋賀県甲賀市信楽町を中心に生産される六古窯(ろっこよう)の一つとして、長い歴史を誇る信楽焼。どこか懐かしく、でも今の暮らしにも不思議としっくりくる。この記事では、そんな信楽焼の特徴、歴史、そして街の魅力まで、焼き物好きの方や、文化・ライフスタイルに関心のある方に向けてわかりやすくご紹介します。
目次
信楽焼とは?
信楽焼は、滋賀県甲賀市信楽町を中心に作られてきた陶器です。この地域は琵琶湖からみて南側に位置し、周囲の山々から豊かな原料を手に入れることができたことに加え、京都や奈良からも近く古くから交通の要衝として栄えてきました。
信楽焼は日本の「六古窯(越前、瀬戸、常滑、丹波、備前、信楽)」の一つで、13世紀の鎌倉時代から800年以上生産が続く、非常に長い歴史を持つ焼き物です。
信楽焼は「土もの」と呼ばれる陶器特有の温かみを持つジャンルに属します。焼きしめる際、釉薬(うわぐすり)をかけず、自然釉や焼成中の変化によって現れる模様や色味が、焼き物ファンの間でも高く評価されています。
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信楽焼の主な特徴|風合い・実用性・美しさ
信楽焼の特徴は大きく3つあります。
1つ目が「土の質感と自然釉が生むあたたかみ」です。信楽焼の最大の魅力は、ざらりとした手触り、土の粒子感が残る自然な表情です。自然釉とは、窯の中で薪の灰が器に降り掛かり、1300度近い高温で、自然と釉薬状になったもののことです。
窯の火加減によって部分的に赤く焼き締まる「火色(ひいろ)」は、信楽の白味のある土質によく映える色合いとして珍重されています。どれくらいの火加減なのか、外はどれほどの風が吹いているか、さまざまな要素が重なり、同じものが二つとない“景色”が楽しめます。
2つ目が「暮らしになじむ実用性」です。分厚すぎず、軽すぎず、しっかりとした作りでありながら、普段使いにも適した使いやすさも魅力の信楽焼。湯呑みやマグカップ、鉢やプレートなど、幅広いアイテムに応用されています。
特にごはん茶碗は、素朴な土の風合いと日常使いに適した丈夫さもあり、人気があります。また、酒器もお酒好きに人気があり、信楽焼の粗土と火色(ひいろ)を活かした渋い風合いは他の陶器にはない独特の魅力を放っています。
3つ目が「素朴なのに美しい、和の美意識」です。信楽焼には、完璧ではない形や色合いの中に移ろいゆくものへの美を見出す「わび・さび」の精神が宿っています。粗めの陶土を使っているため、焼きしめると土の粒子や質感がそのまま表情になります。
また、薪の灰が自然に器に降りかかって釉薬となり流れたりたまったりしてつくられる独特の模様はひとつとして同じものはありません。日々の暮らしの中に取り入れることで、ささやかな癒しや豊かさを感じることができます。
信楽焼の歴史をたどる|鎌倉から現代まで
信楽焼の始まりは、鎌倉時代初期、建築用瓦の生産にあったとされています。当時、瓦は寺院や大名家の屋根に使用される重要な建材でした。その後、壺や甕などの保存容器、茶の湯の道具、そして狸の置物など、時代とともに用途を変えながら、暮らしに寄り添ってきました。
室町時代〜江戸時代にかけて、信楽焼は茶道具としての評価を高め、名だたる茶人たちに愛されるようになります。茶道の大成者として広く知られる千利休や古田織部などが好んで使っていたと言われています。特に古田織部が使用した信楽焼は通常とは異なり、自由で個性的な形状を持つものが多く、織部好みの風合いを引き立てました。
江戸時代には日常生活用品として茶人だけでなく多くの人の手に広がっていきました。ちなみに、信楽焼の象徴とも言える「たぬきの置物」。つくられたのは明治初期。陶芸家の藤原銕造(ふじわらてつぞう)が京都で修行中、たぬきが腹鼓を打つ夢を見たことがきっかけだとされています。
全国に広まったのは、1951年(昭和26年)に昭和天皇が信楽を訪れたことがきっかけでした。地元の人々が歓迎の意を込めて、たくさんの信楽焼のたぬきに日の丸の小旗を持たせ、沿道に並べました。この光景を見た天皇が幼少期に集めていた信楽焼のたぬきをみて懐かしさを感じて、「幼なとき 集めしからに 懐かしも しがらき焼の狸をみれば」といううたを詠まれました。この出来事が新聞で報道されたことで、信楽焼のたぬきは一躍有名になったということです。
近年では「たぬき=信楽焼」というイメージに留まらず、素朴な風合いで暮らしを彩るデザイン性の高い器も多く、信楽焼は再び注目を集めています。

信楽焼のたぬきに込められた八つの縁起
たぬきは「他を抜く」として商売繁盛の縁起物として愛されており、「信楽焼=たぬきの置物」を思い浮かべる方も多いかもしれません。昭和天皇の信楽訪問以来、観光地での縁起物として人気を博し、全国の商店の軒先で見かけるようになりました。
大小さまざまなサイズのたぬきの置物を作っている窯元さんを訪ねた際に伺った話では、たぬきの置物は「八相縁起(はっそうえんぎ)」を表す縁起物なのだそうです。八つの特徴それぞれに願いが込められており、幸福や繁栄をもたらす象徴とされています。
笠は「災難を避ける」力を、大きな目は「四方八方を見通す」洞察力を意味します。愛嬌ある笑顔は「人を引きつける」魅力を表し、徳利は「人徳を身につけ、飲食に困らない」豊かさを示します。大福帳や通い帳は「商売繁盛」の願いを込め、大きなお腹は「決断力と度量の大きさ」を象徴。
金袋は「金運」を招き、太く立派なしっぽは「繁盛の象徴」として、末永い繁栄を願うものです。こうした意味を一つに込めたたぬきの置物は、古くから多くの人に親しまれ、福を呼び込む存在として大切にされています。
暮らしに寄り添う、進化する信楽焼
たぬきの置物で知られる信楽焼は、現在では新しいライフスタイルに寄り添う形で、その魅力を広げています。単なる縁起物としてではなく、現代の暮らしに自然と溶け込む器やインテリアとして注目を集めています。
たとえば、厚みのある信楽の土を活かしたコーヒーカップや酒器、グラス、ランプシェード、多肉植物に人気の植木鉢など、実用性とデザイン性を兼ね備えたさまざまなアイテムが生まれています。手仕事ならではの温もりと、現代的な感性に基づいた造形が融合し、暮らしの中にやさしく溶け込んでくれるのが特長です。
マットな土の質感を活かしたプレートや、ろくろの跡をあえて残した素朴なマグカップなどは、シンプルな料理やお茶の時間をより豊かに演出してくれます。ナチュラルなインテリアや和モダンスタイルとも相性がよく、使い込むほどに風合いが深まっていくのも、信楽焼ならではの楽しみです。
このように信楽焼は、伝統を受け継ぎながらも時代に合わせて進化を続け、日々の食卓や暮らしに、自然体の美しさと心地よさをそっと添えてくれる器として、多くの人々に親しまれています。
光が透過されている信楽焼のランプシェード@信楽窯業技術試験場
かわいい信楽焼、人気の贈り物
深く、ゆったりと息を吸い込むような心地よさを食卓に。信楽焼「ディープブレス」シリーズは、自然の温もりを感じさせる質感と、シンプルながらも洗練されたフォルムが魅力のペアセットです。大皿料理にも使いやすいプレートペア、毎日の食卓に重宝するボウルペア、手にしっくりと馴染むマグペア。それぞれが、日々の食事のひとときを、より深く、豊かなものにしてくれます。贈り物にもぴったりな3つのセットです。
信楽焼 | ディープブレス | プレートペア
プレート(直径約23cm × 高さ2cm)× 2枚セット
信楽焼 | ディープブレス | ボウルペア
ボウル(約高さ4×径16.5cm)×2
信楽焼 | ディープブレス | マグペア(以下写真)
マグ(口径約9.5×高さ8cm)×2
信楽の街を訪ねて
文化の香りと自然の調和
滋賀県甲賀市・信楽町は町全体に漂う土と窯の香りを感じられます。かつて100基以上あった登り窯の面影が残る風景や、住宅の庭先に並ぶ狸の置物など、町のいたるところに信楽焼の文化が息づいています。
町の中心部には、四季折々の自然と調和する「滋賀県立陶芸の森」が広がり、緑豊かな山並みに包まれた静かな空間で陶芸文化に触れることができます。
長野地区に整備された「窯元散策路」では、ろくろ坂、ひいろ壺坂、窯場坂という三つの坂道を中心に、窯元やギャラリーが点在。歩くほどに、手作りの温もりを感じる町並みに心が和みます。
また、地域文化を未来へつなぐ新たな取り組みも進められています。たとえば、明山窯と滋賀県立大学の学生グループ「信・楽・人」が再生させた「Ogama」では、陶芸体験や信楽焼を使った料理を楽しむことができ、土に触れる喜びと焼き物の温かさを体感できます。
春には「信楽陶器市」や「作家市」といったイベントが開催され、全国から陶器ファンが集まります。作り手と直接対話できる場も設けられ、信楽焼の魅力をより深く知ることができる貴重な機会となっています。
信楽窯業技術試験場の取り組み
こうした文化的な魅力と並んで、技術面から信楽焼を支える重要な役割を担っているのが「信楽窯業技術試験場」です。訪問した際、ここが単なる研究施設ではなく、産地の未来を見据えて地道な活動を続けていることを強く感じました。
試験場では、窯業技術を基盤に、製品の品質・機能・デザイン性向上を支援する「モノづくり支援」、企画開発や販路開拓までを担える人材を育成する「ヒトづくり支援」、さらに、地域連携と信楽焼の魅力発信を推進する「コトづくり支援」という三つの柱を掲げています。
特に印象的だったのは、試験場が持つ高度な設備を地域に開放し、試作工場的な役割も果たしている点です。伝統を大切に守りながらも、技術革新を通じて新たな価値を創出しようとする姿勢に、産地全体で未来を育てようとする熱意を感じました。
文化を支え、技術で磨き、そして次代へとつなぐ。信楽の町には、そんな静かで力強い情熱が流れています。自然とやきものが織りなすこの土地で、古き良きものを感じるだけでなく、未来への希望にも触れることができるでしょう。
まとめ|信楽焼を暮らしに迎えるということ
素朴で力強く、ひとつひとつに異なる表情を持つ信楽焼は、日々の暮らしに“余白”とぬくもりをもたらしてくれる焼き物です。土と炎が生み出す自然な風合いは、完璧ではないからこそ心地よく、使う人の感性にそっと寄り添います。
はじめて取り入れるなら、湯呑みやお茶碗、料理が映えるプレートや鉢、酒器や一輪挿しなど、日常使いしやすいアイテムから始めるのがおすすめです。毎日の中で、信楽焼ならではの質感や色合いを感じることで、食卓や空間が少し豊かに変わっていくはずです。
信楽焼は、あなたの暮らしの中に、自分だけの“お気に入り”を見つける楽しみと、静かな温もりを運んできてくれる存在です。
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