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記事: 薩摩切子で色によって値段が違うのはなぜ?

薩摩切子で色によって値段が違うのはなぜ?
#工芸を知る

薩摩切子で色によって値段が違うのはなぜ?

薩摩切子の伝統色は、紅・藍・緑・黄・金赤・島津紫の全6色。最近新しく開発された色で、瑠璃金・瑠璃緑・蒼黄緑などもありますが、江戸時代に作られたのは最初の6色のみです。

同じく江戸時代に作られた江戸切子は、これに対して色がつかない透明なガラスでした。なぜ薩摩切子でいち早く着色ガラスが作られるようになったのでしょうか?また、同じサイズのカップなどであっても色によって値段が違うのはなぜでしょう。その理由を探ってみましょう。

薩摩切子の特徴は色にあり

そもそも薩摩切子とは?

古くは薩摩切子とは、幕末から明治初期にかけて島津・薩摩藩で作られた切子ガラスのことを指していました。その後に衰退してしまい、歴史から一時期消えてしまった薩摩切子ですが1980年代に復刻。以降、現代作られているものも薩摩切子と名乗ることを認められています。

薩摩切子は鉛を含むクリスタルガラスで、透明なガラスの上に着色ガラスを被せた「色被せガラス」にカットを行い、磨いて輝きを出すという手法で作られています。江戸時代に花開いたもう一つの切子、江戸切子が江戸時代を通して無色透明だったのに対し、薩摩切子のほとんどは着色ガラスを用いたカラフルなガラスが特徴といえます。

なぜ当時、日本文化の中心ともいえる江戸でなく、日本の最南端・鹿児島でより高い技術が求められる着色ガラスが生まれたのでしょうか。

島津斉彬と職人の執念で生まれた着色ガラス

薩摩切子は、幕末の島津藩第28代藩主、島津斉彬 (しまづ・なりあきら) に作られたといえます。斉彬が藩主になった1851年の約2年後に黒船が来航。諸外国との技術の差を感じた頃でもありました。

そのため斉彬は諸外国の技術に追いつくため、「集成館事業」という近代工業化事業をスタート。紡績づくりや大砲・造船に必要な製鉄に取り組み、集成館という名の工業群を建設。一気に近代化が進みました。

これらの技術は後の2015年、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として世界遺産にも認定されています。

薩摩切子もそんな事業のひとつ。当時は着色ガラスの技術はなかったものの、もし色のついたガラスができれば海外との貿易において、美術工芸品として収益を上げる可能性があると考えたのです。藍や緑、黄色などのガラス作りを目指す中、最もこだわったのは世界でも珍しい赤いガラスでした。

斉彬が赤いガラス=紅ガラスの製造を命じたのは、1848年のこと。着色ガラスはすべて鉱物をガラスに溶かして色をつけますが、量が変わっても、温度が変わっても同じ色にはなりません。外国の書物を訳すことからはじまり、試行錯誤を重ね、数百回の試験を経て紅ガラスができたと伝えられています。

赤銅色に輝く赤いガラス。日本初の赤いガラスは斉彬としても自慢だったようで、水戸徳川家など親交の深かった大名へも贈り物として使われました。

薩摩切子の色を知る

薩摩切子の伝統色は6色

藍・緑・黄・島津紫・紅・金赤、これらの発色はすべて原料である鉱物と、温度の管理によって生まれます。それぞれの特徴を見てみましょう。


藍は薩摩切子伝統の色。篤姫がお輿入れの際、持参したのもこの色の切子でした。落ち着いた深い藍色で、海外でも人気の高い色となっています。


初夏の若葉を思わせるような鮮やかな緑。江戸時代に作られたものとしては、現在2点しか発見されていません。復刻された薩摩切子でも人気の色です。

黄色
レモンイエローのような澄んだ黄色の薩摩切子。この発色に2年かかったと伝えられており。現在でも発色が難しい色として知られています。江戸時代には黄金色といわれていたようです。

島津紫
各色の中でも唯一「島津」がついた紫。斉彬は紫色が好きでこだわりがあったことから、その名がつけられました。鮮やかな発色のために純金が用いられています。


斉彬の肝いりで作られた紅色の切子は、「薩摩の紅ガラス」と呼ばれ注目を集めました。銅を使って発色させた赤銅色の重厚な色合いは、薩摩切子を代表とする色です。

金赤
落ち着いた紅に対し、金赤は華やかで透明な赤。純金を用いることで鮮やかな発色に成功しました。しかし江戸時代の文献に記載はあるものの、当時のものはひとつも現存していません。

 

復刻された薩摩切子の新しい色、二色被せの器

薩摩切子は江戸切子や西欧のカットグラスに比べて分厚く、切り込みの角度や深さによって色合いのグラデーションを楽しむことができます。その淡いグラデーションのことを「ボカシ」といい、薩摩切子の特徴のひとつといえます。

その「ボカシ」を存分に楽しめるのが、二色被せのガラスを使った「二色衣」と名付けられたシリーズ。昔ながらの薩摩切子は透明なガラスと着色ガラスの二層となっていますが、「二色衣」はさらにもう1枚着色ガラスを被せた三層になっているのです。

2001年から瑠璃金赤・瑠璃緑・蒼黄緑の3つが作られていますが、例えば瑠璃緑なら、藍と緑のガラスをもちいたもの。深いカットから、藍色から緑に変わっていくグラデーションを楽しむことができます。

独特な風合いの黒と古式

色鮮やかな薩摩切子ですが、黒や古式(透明)のシリーズも作られています。黒はカットが困難とされる色です。光を通さない黒色のガラス生地に切子を施すことができるのは、限られた熟練の職人のみ。シックで大人な雰囲気を感じさせます。「古式」は、幕末の薩摩藩で作られていた透明な生地を再現。酸化鉄等を加えることで薄く淡い琥珀色に調合して表現されています。色ガラスを被せていないシンプルな色合いですが、その中に無限の色味を感じさせます。

> 薩摩切子グラスの一覧はこちら

薩摩切子が色によって値段が異なる理由とは?

原料や製造に求められる技術の高さで値段が変わる

色によって値段が変わる理由を簡単にいうと、発色に必要な原材料である鉱物の違い、製造にかかる手間ひまの違いにあります。

同じデザインの薩摩切子のグラスでも値段がやや高いのは、島津紫、金赤、紅、黄色など。黒はカットに高度な技術が必要なため価格が高くなります。

島津紫や金赤などは原材料に純金を用いるため、値段が高くなる傾向にあります。また、紅や黄色は発色が難しい色。特に紅は、奥深い色を出すのに銅を使っているだけでなく、高い技術が必要であり「職人泣かせの色」ともいわれています。値段にして2000円〜3000円くらいの差なので、どうせ薩摩切子を買うのなら、お気に入りの色がおすすめです。

二色被せの薩摩切子は、通常2枚のところ3枚のガラスになっているため、少し値段は高めになっています。


薩摩切子と江戸切子どちらが高い?

江戸切子と薩摩切子は両方を手に取って見比べてみると、その違いがはっきりとします。シャープで明快、光をあてるとキラキラと輝く江戸切子、緩やかなカット、光をあてると幻想的な輝きを帯びる薩摩切子。どちらも江戸時代の和ガラスの歴史や伝統を感じさせてくれます。

ただ、単純に値段だけの違いを比較するのは難しいでしょう。なぜなら日本で生まれた二大カットガラス、江戸切子と薩摩切子の歴史や誕生の背景の違いが大きいからです。その関係詳細は以下のブログに譲ります。

> 薩摩切子と江戸切子はどう違うの?そもそも切子って何?

> 江戸切子の色、値段の一覧はこちら

カラフルな薩摩切子グラスの楽しみ方

飲み物に合わせて器の色を変えてみよう

現代の薩摩切子の多くは、酒器やグラスなど飲み物を楽しむもの。飲み物そのものの色を楽しみたい場合には、クリア(透明)な薩摩切子がよいでしょう。

赤ワインなら紅や金赤、瑠璃金、白ワインなら島津紫や黄色、紅や赤金などどんな色とでも合うと思います。ビールならば、藍や緑はいかがしょうか。

美食家で名高い魯山人は貧しかった若い頃、赤い切子の鉢(薩摩切子でない)に冷奴を入れ、安い豆腐も豪華に見えるよう味わっていたエピソードが知られています。時間をかけて作られた薩摩切子はそれだけで高級品。使い方次第でどんなふうにも演出することができるので、自分だけの楽しみ方を見つけてみましょう。

幻といわれた薩摩切子グラス でお酒を楽しむ

日本工芸堂で扱っている薩摩切子は鹿児島県にある「薩摩びーどろ工芸」。現在も、斉彬のガラス工房を同様、クリスタルガラスを作るところから薩摩切子の製造を行っています。最近では二枚被せや切り込みが難しい黒の切子にも取り組むなど、製造の技術はますます向上しています。

一時は幻の切子ともいわれた薩摩切子。決して値段が安いものではありませんが、クリスタルという高級素材を使い、高い技術を持つ職人が一つひとつ手間をかけて手作りされた一点ものであることをを考えれば、そのお値段も納得です。

好きな色の薩摩切子のグラスを自分へのご褒美にして、いつもと違うお酒の味を楽しんでみませんか。きっと格別な味がするはずです。もちろん、大切な方へのプレゼントもおすすめです。

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