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記事: 日本の伝統工芸ガラス、今こそ知りたい全国各地のガラス工芸

日本の伝統工芸ガラス、今こそ知りたい全国各地のガラス工芸
#工芸を知る

日本の伝統工芸ガラス、今こそ知りたい全国各地のガラス工芸

日本伝統のガラス工芸、というと、少し違和感を覚える人もいるかもしれません。
バカラに代表されるクリスタルガラスや、鮮やかな色合いに世界でファンが多いベネチアングラスなど、海外のガラス製品を思い起こす人が多いのではないでしょうか。しかし、日本のガラス工芸も、今、世界に注目されているのです。

今回は、今だから知っておきたい、日本のガラス工芸をご紹介します。

日本のガラスの歴史は縄文時代にさかのぼる

日本最古のガラスは、縄文時代末期の青森県の亀ヶ岡遺跡から出土しています。発見された小さなガラス玉は、日本で作られたものかどうか、はっきりしていませんが、ガラスがなんらかの形で、当時の人々の暮らしに入っていたことは間違いないでしょう。

弥生時代の中期から後期になると、日本でもガラスが製造されるようになります。福岡県の三雲南少路遺跡からはガラスの勾玉が出土しています。勾玉は、中国や朝鮮などにはない日本独自の形状。ガラス炉も発掘されており、日本でガラス製造が始まっていたと考えられています。

日本全国のグラス・コップグラス特集

奈良時代以降も、ガラスは高級品として日本の上流階級を中心に利用されていました。有名な正倉院の「瑠璃杯(るりのつき)」など、高い技術で装飾を施したガラスもありますが、それらは海外からの輸入品。日本のガラス製造技術は、複雑な形状のものを作れるほどではなかったのでしょう。

その後、日本のガラスの歴史は、平安時代に途切れてしまいます。陶器の技術が高まり、薄く、丈夫な陶器が日本で作られるようになり、神事や祭事、暮らしの中から、ガラス製品は消えてしまいました。

次に、日本の歴史の表舞台にガラスが登場するのは16世紀。キリスト教の伝来と共に伝わったガラス製品は、領主など位が高い人への贈り物として普及していきました。それにつれ、ガラスの製造技術も日本に伝わり、17世紀にはガラス製造に取り組む職人がでてきました。「和ガラス」と呼ばれた国内産のガラスは、厚く脆いものではあったが、高級なギフトとして人気を集めたといわれています。

そして、日本のガラス工芸は、海外に開かれていた長崎に始まり、大阪、京都、江戸、薩摩へと広がっていきました。先人に学びつつ、少しずつ製造方法の改良を加え、その技術を磨く職人たち。そして、今につながるような、高い技術と、芸術性を誇る、さまざまなガラス製品を生み出すようになっていったのです。

日本工芸堂_薩摩切子

日本のガラス工芸を代表する技術「吹き」と「カット」

日本のガラスというと「ぎやまん」「びーどろ」の二つの言葉を思い起こす人多いのではないでしょうか。この二つの言葉は、江戸時代にガラス工芸品をさす言葉として使われており、吹きガラスの製法で作られた一般的なガラス製品を「びーどろ」、海外からの輸入品やカットを施したものを「ぎやまん」と呼んでいたともいわれています。

ちなみに、びーどろは、ポルトガル語でガラスを表す「Vidro」(ビードロ)から、ぎやまんは、同じくポルトガル語でダイヤモンドを表す「Diamante」(ディアマンテ)からきているらしいです。

2つの言葉が表すガラスの技術は、そのまま、日本のガラス工芸の特徴につながっています。日本を代表するガラス工芸は、「吹きガラス」の技法を使ったものと、「カット技術」を活かしたものに分かれます。

さまざまな形を生み出し、華やかな色合いで日本人の感性を表現する吹きガラスと、繊細なカット技術で光輝く世界を刻むカットガラス。それぞれの代表的な産地を紹介しながら、日本のガラス工芸の魅力を紐解いていきましょう。

日本工芸堂

ガラス工芸「切子」の代表産地

日本におけるガラスの伝統工芸品として、世界に知られているのが「切子」ではないでしょうか。色ガラスを被せ、カットを施した、芸術品ともいえる逸品に、古くはペリーも驚いたといわれます。削り出される繊細な紋様の組み合わせは、作家の感性によって異なる世界を生み出していきます。ガラスと光が織りなす思いもかけない美しさに、ファンが世界に広がっています。

切子の代表的なものは「江戸切子(東京)」「薩摩切子(鹿児島)」「天満切子(大阪)」です。

>切子特集で詳しく見る

 

○江戸切子

日本工芸堂

東京スカイツリーのエレベーターのうち、「夏」のエレベーターを彩る工芸品にも選ばれている江戸切子。江戸時代末期に始まったもので、曲線や花鳥風月のデザインで、柔らかな日本の美意識を表現します。最近では、細かい伝統紋様に、現代的な感性を加えたデザインのカットも多いです。2002年には国の伝統的工芸品にも指定されました。

> 「江戸切子」について詳しく見る

○薩摩切子

江戸切子と比べられることの多い薩摩切子は、薩摩藩の産業政策の一環として生まれ、発展した、という特徴を持ちます。江戸切子より厚く色ガラスをかぶせることで生まれる、繊細なグラデーションが特徴で、重厚感のある手触りのファンも多いです。

薩摩切子は、幕末に一度途絶えましたが、現在は復刻され、鮮やかな色合いに大胆なカットを施した新しい商品も生まれています。

> 「薩摩切子」について詳しく見る

○天満切子

大阪天満宮正面脇にひっそりと立つ「大阪ガラス発祥之地」の碑。長崎に伝わっていたガラス製法が持ち込まれ、大阪でガラス製造が始まったのは江戸中期の1700年代中頃といわれています。

江戸にガラス製造が伝わったのは、1800年代初期といわれているので、大阪の方が江戸より早くガラスを製造していたことになります。その後、昭和初期まで、大阪のガラス産業は発展を続け、ガラスのビー玉を最初に制作したのも大阪のガラス工場だったといわれています。

そんな歴史の中で生まれたのが、薩摩切子の流れを受け継ぐ「天満切子」。カットによって生まれる光の反射は、グラスに飲み物を注ぎ、口元に持ってきた時、最大限に美しさを感じさせます。

シンプルに見えるデザインが、実は計算されたものだったことに、驚く人も少なくないです。飾って美しいだけでなく、使いやすさを追求した、新しい切子として注目を集めています。(>天満切子はこちら

ガラス工芸「吹きガラス」の代表産地

日本の吹きガラスは、世界に注目されるほど高い技術を誇ります。江戸時代から続く技術を受け継いでいる代表的な産地が「肥前びーどろ」(佐賀)と「琉球ガラス」(沖縄)です。

○肥前びーどろ

日本工芸堂 肥前びーどろ

肥前びーどろの始まりは、佐賀(鍋島)藩主鍋島直政が設置した精錬方(たんれんがた)。薬瓶や酒瓶のほか、科学実験のためのビーカーやフラスコを作るガラス窯がありました。肥前びーどろの最大の特徴は、「ジャッパン吹き」と呼ばれる日本独特の宙吹き技法で作られていることです。

鉄ではなくガラスの吹き竿で作られるガラスは、空気以外のものに触れることがなく、よりなめらかに仕上がります。また、赤や青の鮮やかな色合いも特徴の一つ。最近では、金箔やピンクや黄色の色粒を使った華やかなグラスも作られています。

○琉球ガラス

長い歴史を持つ吹きガラスとして、もう一つあげておきたいのが琉球ガラスです。明治中期に始まったといわれる沖縄のガラスが注目を集めたのは、戦後。戦前から廃瓶を原料に作られていた沖縄のガラスは、戦後、アメリカから入ってくる色付き瓶で作られるようになりました。

これに興味を持ったのが、米軍兵士たち。帰国時のお土産に、琉球ガラスを選ぶようになったのです。琉球ガラスは、今も廃瓶を原料としているものが多いです。緑や淡青、茶色など、基の瓶を彷彿とさせる色合いの商品には、廃瓶を使っているからこそ生まれる、くすんだ色や気泡があり、それが琉球ガラスの大きな魅力の一つとなっています。

> 琉球ガラスのページへ

 

 

ガラス細工とガラス工芸

ガラス細工とは、和ガラスやガラス美術品などガラスで作られた作品の総称と言えます。ガラス工芸品ともほぼ同じ意味で使われています。時代背景の中で、生活に活用されるびいどろグラス、切子グラスなどの作品を主にガラス工芸品と区別される場合も見れます。

ガラスの放つ美しさや、加工された表面の神秘さが多くの人を魅了し、ガラス職人、ガラス作家たちは新しい作品を生み出し続けています。



江戸切子の工房、山田硝子での製造シーン(2分14秒)

「浮き玉づくり」から生まれた吹きガラス

日本のガラス製造の目的は、グラスや皿、花瓶や酒瓶など、庶民の暮らしに密着したものだけではありません。明治から昭和にかけ、日本では漁業の現場でガラスが活用されていました。それがガラスの浮き玉です。

それまで利用されていた木材に比べ、浮力があり、水圧に強く、加工しやすいガラスの浮き玉は、多くの漁業者に利用されるようになりました。しかし、壊れやすいという欠点もあったため、浮き玉は、その後プラスチック製に変わっていきます。

しかし、丸く、薄くガラスを形作る技術を活用し、なにか作れないか。そんな思いから生まれた新しいハンドメイドガラスが人気を集め始めました。「小樽ガラス」(北海道)と「津軽びいどろ」(青森)です。

○小樽ガラス

ガラスの浮き玉や石油ランプを盛んに製造し、北海道の産業発展に貢献したのが小樽。小樽が「ガラスの町」として知られるようになったのも、これら実用的なガラス製品が、全国に流通したことが理由です。

しかし、時代の移り変わりと共に、浮き玉やランプの需要は激減。グラスや皿、花瓶などの生活用品などを作るようになりました。浮き玉づくりで磨かれた、柔らかな曲線づくりは、ハンドメイドガラスの温かい雰囲気をより引き立て、安らぎを感じさせるガラス工芸品として、人気を集めています。

○津軽びいどろ

日本工芸堂 津軽びいどろ

津軽もまた、浮き玉づくりで名を馳せていた産地の一つ。その丈夫さで知られるメーカーもあり、国内トップの生産高を誇っていました。その技術に、青森の自然をイメージさせる色ガラスを組み合わせたのが津軽びいどろです。

日本ならではの色合いを表現するため、色ガラスも自社で生産するというこだわりは、鮮やかな色合いながら落ち着いた雰囲気を感じさせる製品を生み出します。

気軽に日常使いできる、ガラス工芸品として、若いファンも増えています。


まとめ

「日本のガラス工芸」といっても、一言ではくくれないほど、それぞれの産地がそれぞれに特色を持っています。それぞれの製品を見比べながら、自分好みの逸品を探すのも楽しいでしょう。もちろん、ガラスの輝きは、誰にも愛されるもの。こだわりのある方へのギフトにもぴったりです。

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