富山
高岡銅器(たかおかどうき)とは
人類が最初に道具として利用した金属は「銅」とされています。その歴史は紀元前9000年頃までさかのぼり、最古の使用例は中東地域で確認されています。その後、銅に錫を加えて作られる青銅が発見され、武器や祭器、生活道具として広く用いられるようになり、人類の歴史に大きな影響を与えてきました。
日本でも、弥生時代から青銅器の製造が始まり、銅鐸や銅矛、銅鏡といった装飾品や祭器に利用されました。現在、日本最大の青銅器産地となっているのが富山県高岡です。
「高岡銅器」と呼ばれる製品は、江戸時代初期から400年以上続く伝統技術を活かし、美しい彫金を施した美術工芸品から、水回りで使える生活用品、さらには地域の誇りを象徴する野外の大型銅像まで、幅広い分野で人々の暮らしと文化に寄り添っています。
高岡銅器の歴史・技術
高岡銅器は、高岡の町を開いた加賀藩主・前田利長が、町の繁栄のために7人の鋳物師を高岡に招いたことに始まると伝えられています。これは1611年(慶長16年)のことです。河内国丹南の技術を持った職人たちは、当初は鍋や釜、農具といった実用的な鉄器を作っていました。
銅器の鋳造が盛んになったのは江戸中期の頃です。庶民の生活や文化水準が向上し、装飾性の高い青銅鋳物への需要が高まったことが背景にあります。特に需要が多かったのは仏具で、一般家庭にも仏壇が普及したことから、華やかな彩色や美しい彫金を施した仏具や花器、茶道具などが製造されるようになりました。
こうした高い技術は現代にも受け継がれ、高岡銅器は1975年に日本で最初の「国の伝統的工芸品」に指定されました。
製造は原型作りから始まり、鋳型を作って溶かした銅を流し込み、冷却後に型を外して鋳造品を取り出します。その後、研磨や彫金、着色といった仕上げ加工を施して完成します。これらの工程はそれぞれ専門の職人が担う分業制で行われており、精緻な技と美しさが磨かれていきます。
繊細で優美な彫金も大きな特徴のひとつです。刀装具に用いられていた彫金や象嵌といった精密な装飾技法が取り入れられたことで、高岡銅器は生活用品を超え、美術品としても高く評価されるようになりました。
明治期には輸出も盛んになり、パリ万国博覧会などで世界的な評価を得ました。さらに、着色の工程も高岡銅器の大きな魅力です。銅器は「錆を鑑賞する工芸」とも呼ばれ、素材や薬品を駆使して引き出された金属本来の色合いが、唯一無二の表情を生み出しています。

高岡大仏:高岡銅器の製造技術を集結させて造られ、技術力を象徴する存在。
高岡銅器のブランド一覧
喜泉 KISEN / 富山県高岡市
富山県高岡市金屋町で400年続く銅器製作の名門、四津川製作所によるブランド「喜泉 KISEN」。漆作家とのコラボレーションなどにより、洗練された暮らしの器を揃えています。
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松美堂/ 富山県高岡市
業界に先駆けてカタログ製作に参加し、地元の銅器卸販売を開始するなど、培った経験と実績を基盤に、お客様のニーズに応えてきたブランド。提携彫塑家とともに、高岡の伝統ある"ものづくり"を支え続けています。
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小泉製作所 / 富山県高岡市
明治22年の創業当時、ヨーロッパで注目され、ジャポニズムの流れとなった美術工芸品の鋳造を手がけてきたメーカー。現在は「快音」をテーマとした音響クラフト製品の開発が注目されています。
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モメンタムファクトリー・Orii / 富山県高岡市
昭和25年の創業以来、金属着色の技術を受け継ぎ、さまざまな金属素材に新たな表情を与えてきました。Oriiでは鋳造品でしか表現できなかった伝統着色技術を発展させ、1mm以下の薄い銅板への発色を成功させました。銅や真鍮から引き出される色彩にこだわり、可能性を追求し続けています。
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喜泉堂 / 富山県高岡市
喜泉堂は、高岡銅器の老舗・四津川製作所が展開するブランドです。創業時の屋号「喜泉」には、暮らしに喜びと潤いを添える想いが込められています。香炉をはじめ、伝統と現代の美意識を融合した製品を開発。心を整える香りのある時間を提案し続けています。
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能作 / 富山県高岡市
株式会社能作(のうさく)は、1916年に富山県高岡市で創業した鋳物メーカーです。伝統的な鋳造技術と現代のデザインを組み合わせつつ、革新的なアプローチも取り入れており、テーブルウェアや花器、風鈴などがその代表的なアイテムです。
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中村製作所 / 富山県高岡市
有限会社中村製作所は、ロストワックス精密鋳造の専門メーカーです。美術鋳物の技術を基盤に、工芸と工業をつなぐ高品質なものづくりを追求し、複雑で意匠性の高い造形を少量多品種で実現。アート作品からプロダクト製品まで幅広い分野に対応しています。
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