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記事: 工芸品に使われる木材の種類と特性|職人がその木を選ぶ理由

工芸品に使われる木材の種類と特性|職人がその木を選ぶ理由
#工芸を知る

工芸品に使われる木材の種類と特性|職人がその木を選ぶ理由

木のぬくもりにふれたとき、ふと心がやわらぐ。そんな経験はありませんか。
工芸品の世界では、木という素材が持つ力が、暮らしの中に静かなやさしさと強さを届けてくれます。

本記事では、「工芸品に使われる木材の種類と特性は?」「どんな工芸品に使われているの?」「針葉樹と広葉樹ではどんな違いがあるの?」といった疑問にお応えします。

欅(けやき)の堂々たる力強さ、桜(さくら)のやわらかな木肌、楓(かえで)のしっとりとした光沢、杉や檜の清らかな香り、栗の頼もしさ、そして銀杏(いちょう)の静かな柔らかさ──。木の物語と職人の選択理由を知ることで、工芸品がもっと身近に、もっと愛おしく感じられるはずです。

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欅(けやき)─耐久性と木目の美しさ

欅(けやき)は、日本の風景の中でひときわ堂々とした存在感を放つ木です。名前の由来は、「見事」「際立って美しい」という意味を持つ古語「けやけし」からとも言われています。その名の通り、まっすぐに力強く伸びる姿と美しい木目は、古来より人々に愛され、神社の御神木や大樹として崇められてきました。

欅の最大の特徴は、耐久性と木目の美しさです。しっかりと詰まった年輪が生み出す流れるような木目は、家具や工芸品に重厚感と品格を与えます。また、大きな幹から切り出される広い一枚板は、古民家の座卓や看板、寺社の建具などに重宝され、時を超えて使われ続けてきました。

さらに、欅は加工の際に立ち上る香りも特別です。甘くスパイシーで、どこか清々しいその香りは、木工職人にとって仕事への気持ちを引き締める「仕事始めの香り」ともいわれています。

<主な工芸品>
欅はその強さと美しさを生かし、次のような工芸品に用いられています。

  • 座卓:広い一枚板の存在感と木目の美しさを生かした逸品。
  • 看板:雨風にさらされても長く持つ耐久性。
  • 太鼓の胴:響きを支える堅牢な素材。
  • 神具・漆器木地:神聖さや格式を求められる品に選ばれる。

欅の木目を見つめ、香りにふれたとき、そこにはただの素材以上の物語が宿っていることに気づくでしょう。工芸品に込められた職人の思いは、この欅という木が持つ力そのものです。


桜(さくら)─木肌の細かさとなめらかさ

桜(さくら)は、日本人の心に深く根づいた木です。春の訪れを告げる花として知られるだけでなく、その木材は、工芸の世界でも古くから大切にされてきました。
桜の木肌は、細やかでなめらか。淡い紅色を帯びた木目は、どこか柔和で、手に取ったときのしっとりとした感触に心が和みます。堅く緻密な木質でありながら、刃当たりがやわらかく、削り出した面には美しい光沢が現れます。

桜の木が工芸品に選ばれる理由のひとつは、その扱いやすさと上品な美しさにあります。精緻な加工が求められる箸や印材、繊細な細工箱に用いられるのはそのためです。さらに、盆や皿といった日用品では、使うほどに手に馴染み、穏やかな艶が増していく過程もまた、桜ならではの魅力です。

<主な工芸品>
桜の特性は、次のような工芸品で生かされています。

  • 箸:手にやさしく、使うたびに艶が増す素材。
  • 盆・皿:食卓に上質な温かみを添える器。
  • 印材:緻密な木質が彫りの美しさを引き立てます。
  • 細工箱:精緻な組木や細工に耐える強さと美しさ。

桜の木肌には、花と同じく日本人の「はかなさ」と「たおやかさ」を感じさせる美しさがあります。そのやわらかな表情は、日々の暮らしの中で静かに寄り添い、長く使うほどに味わいを深めていきます。

桜といえば木材だけでなく、山桜の樹皮もまた、工芸の素材として特別な価値を持っています。
秋田・角館で生まれた樺細工(かばざいく)は、山桜の樹皮を巧みに剥ぎ、磨き、重ねて仕上げる伝統工芸です。樹皮の光沢と落ち着いた色合いは、使うほどにしっとりと艶を増し、湿度調整や防湿性に優れることから、煙草入れや茶筒、文箱といった日用品として長く親しまれてきました。
山桜の樹皮は、厳しい自然の中でゆっくりと育まれるため、丈夫で割れにくく、表面の美しさもまた唯一無二。職人たちは、一枚一枚の樹皮の表情に合わせて刃を入れ、細工を施し、使い手の暮らしにそっと寄り添う品を生み出しています。

<樺細工に関連する主な工芸品>
* 茶筒・煙草入れ
* 文箱・名刺入れ
* 箸箱・トレー

樺細工の一覧はこちら

 

楓(かえで/もみじ)─絹のような光沢とやさしい触感

楓(かえで)は、秋になると美しい紅葉で人々の心を惹きつける木です。けれど、その美しさは葉だけでなく、木材としての姿にも宿っています。
楓の木肌は緻密でなめらか、手に取ると絹のような光沢とやさしい触感が感じられます。木目は穏やかで、控えめながらも上品な佇まいを見せ、工芸品に静かな存在感を与えます。

木質は適度な硬さと粘りがあり、削りや彫りの加工に適した素材として、昔から職人たちに愛されてきました。楓はとりわけ精密さや均質さが求められる工芸品に選ばれ、手に取るほどにその心地よさが感じられる木です。

<主な工芸品>
楓の特徴は、次のような工芸品に生かされています。

  • お椀:しっとりと手に馴染み、使うほどに味わいが増す器。
  • 茶道具:落ち着いた光沢が茶席に静けさを添えます。
  • 彫刻細工:緻密な木肌が繊細な彫りの表現を支える。
  • 楽器部材:音の響きを美しく整える素材としても活用。

    楓は、その上品な手触りと控えめな美しさの中に、使い手の心を静かに満たす力を秘めています。工芸品に姿を変えたとき、その木の持つやさしさが、日々の暮らしにそっと寄り添うのです。


杉(すぎ)─軽く柔軟で、加工がしやすい

杉(すぎ)は、日本の風土に深く根づいた木で、古くから家屋や道具、そして工芸品に幅広く用いられてきました。その魅力は、軽やかで柔らかく、どこか素朴な温かみにあります。

木肌は淡い赤みを帯び、まっすぐにのびる木目が美しく、見る人の心を静かに癒やします。
杉の木材は軽く柔軟で、加工がしやすいのが特長です。また、杉ならではの清々しい香りが、使う人の暮らしにやさしい安らぎを添えます。

防湿性や抗菌性にも優れ、日用品としての機能性も兼ね備えていることから、さまざまな工芸品に選ばれてきました。

<主な工芸品>
杉の素材の良さは、次のような工芸品で生かされています。

  • 曲げわっぱ:しなやかさと香りを生かした弁当箱や器。
  • 木桶・酒樽:防湿性と通気性を活かし、味わいを引き立てる容器。
  • 建具:まっすぐで美しい木目が空間に凛とした表情を添えます。

杉の持つ自然な香りと温かみは、暮らしにそっと寄り添い、使うほどにその良さが感じられる素材です。素朴でありながら凛とした佇まいは、日本の工芸品の中に、杉という木が息づいている証です。

 

栗(くり)─高い耐水性と力強い木目

栗(くり)は、古くから日本の暮らしを支えてきた木のひとつです。その特長は、高い耐水性と力強い木目にあります。水に強く、腐りにくいため、家屋の土台や橋の杭といった構造材としても用いられてきました。その丈夫さは、道具や器としても頼もしさを感じさせます。

栗の木肌は、落ち着いた褐色で、力強くのびる木目が印象的です。工芸品では、その丈夫さだけでなく、使うほどに色味が深まり、味わいを増していくところもまた魅力とされています。職人たちは、この堅牢さを生かし、日々の暮らしに寄り添う品を作り上げてきました。

<主な工芸品>
栗は、その特性を生かして次のような工芸品に用いられています。

  • 家具:耐久性が高く、長く使い続けられる椅子やテーブル。
  • 木皿・器:食卓に力強く温かな表情を添える品。
  • 漆器木地:漆の塗りを引き立て、長持ちさせる丈夫な土台。
  • 建築材(梁・床板):伝統建築で重宝される強靭さ。

栗の工芸品は、しっかりとした存在感の中に、長い時間をともに過ごす安心感を宿しています。その堅牢さと美しさは、時を重ねるほどに、暮らしの中で深まっていくのです。

 

檜(ひのき)─木肌は白く、まっすぐで細やかな木目

檜(ひのき)は、古来より日本人にとって特別な存在であり、清らかさと神聖さを象徴する木です。その木肌は白く美しく、まっすぐで細やかな木目が特徴です。檜にふれるとき、誰もがまず感じるのは、ほのかで爽やかな香りではないでしょうか。

この香りには防虫・抗菌作用があり、古くから神社仏閣の建材や神具、生活道具に用いられてきました。

檜の木材は軽く、ほどよい硬さと粘りがあり、加工のしやすさも魅力のひとつです。湿気に強く、時を重ねるほどに落ち着いた色合いに変わり、使い込むほどに味わいが増していきます。職人たちは、この檜の清らかな佇まいと香りを生かし、暮らしの中に静けさと品格をもたらす工芸品を生み出してきました。



<主な工芸品>
檜の特性は、次のような工芸品に生かされています。

  • 神具:神聖さと清浄さが求められる場に選ばれる素材。
  • 風呂桶:水に強く、香りが湯気とともに広がる癒しの品。
  • まな板:抗菌性と香りの清々しさを生かした道具。
  • 建具:空間に清らかな空気感を添える建材。

檜は、その香りと白く美しい木肌の中に、清らかな時間と空間を届ける力を持っています。工芸品に姿を変えたとき、その品は日々の暮らしにやさしい静けさをそっと宿してくれるのです。

 

針葉樹と広葉樹─木の個性と工芸品

工芸品に用いられる木々の個性は、その木が針葉樹か広葉樹かという違いからも生まれます。それぞれの木の特徴を知ることで、職人がなぜその木を選び、どんな品に仕立てるのかが、より深く見えてきます。

針葉樹──軽やかでまっすぐ、素朴な温もり

針葉樹は、まっすぐにのびる幹と比較的柔らかな木質が特長です。軽く加工がしやすいため、日用品や建具、曲げ細工などに用いられ、木の香りや素朴さが暮らしに寄り添います。

これまでご紹介した木では:

  • 杉(すぎ):まっすぐな木目と軽さが、曲げわっぱや木桶、酒樽に活かされています。杉特有の香りが、品に清々しさを添えます。
  • 檜(ひのき):白く美しい木肌と清らかな香り、防虫性が神具や風呂桶、まな板に選ばれる理由です。

針葉樹の持つ軽やかさと素朴さは、暮らしの道具にやさしく寄り添い、日々の中に穏やかな空気を運びます。

広葉樹──堅牢で緻密、美しさと力強さを宿す

広葉樹は、硬く緻密な木質と豊かな木目の表情が特長です。強度があり、精緻な加工や彫刻、長く使う家具や器に選ばれます。使い込むほどに艶が増し、風合いが深まるのも魅力です。
これまでご紹介した木では:

  • 欅(けやき):耐久性と力強い木目で、座卓や看板、太鼓胴など存在感のある工芸品に
  • 桜(さくら):なめらかな木肌と緻密さが箸や細工箱、樺細工のように繊細さが求められる品に。
  • 楓(かえで/もみじ):控えめな木目としっとりした光沢が茶道具やお椀に静けさを添えます。
  • 栗(くり):高い耐水性と力強い木目で、家具や木皿、漆器木地に。
  • 銀杏(いちょう):柔らかさと刃当たりの良さがまな板や道具柄に。

広葉樹の持つ力強さと緻密さは、工芸品に静かな品格を与え、長く暮らしに寄り添う価値を生み出しています。

👉 木の物語を感じたら、暮らしの中で木を使う楽しみも。
木のお椀の選び方ガイド で詳しく。

 

まとめ─木材の種類と特性ガイド

工芸品に使われる木々には、それぞれに長い歴史と物語があります。欅の力強さ、桜のやさしさ、楓のしっとりとした光沢、杉や檜の清らかな香り、栗の頼もしさ、そして銀杏の静かな柔らかさ──。どの木も、ただの素材ではなく、職人たちが木の声に耳を澄ませ、手を加え、暮らしの道具や美しい品へと姿を変えてきた存在です。

針葉樹の軽やかで素朴な温もりは、日々の暮らしにやさしく寄り添い、広葉樹の堅牢で緻密な美しさは、使い手の心に深い安心感を届けてくれます。こうした木の個性が、工芸品という形に宿り、使うほどにその魅力は深まっていくのです。

これから工芸品を手に取るとき、ぜひその品がどんな木から生まれたのか、どんな物語をまとっているのかに想いを馳せてみてください。木のぬくもりと職人の心が、暮らしの中でそっと寄り添ってくれることでしょう。

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