「日本の伝統と未来への挑戦」山下工芸代表の山下謙一郎さんと語る 産地コラボや海外展開について【工芸イノベーターインタビュー】
Youtube配信で開催される「工芸イノベーターインタビュー」。今回は、竹細工の老舗であり、産地のコラボレーション事業にも力を入れている山下工芸代表の山下謙一郎さんをお迎えし、「日本の伝統と未来への挑戦」というテーマで対談しました。今後の伝統工芸品の可能性とは?日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。
九州・山下工芸、海外へ
産地をリードし、異種間のコラボレーションをすすめる
日本工芸・松澤(以下、松澤):今回、ゲストとしてお迎えした山下工芸・山下さんは、竹細工はもちろん、産地同士のコラボレーションを多数手がけていらっしゃいます。今回は、「日本の伝統と未来への挑戦」という題を掲げてさまざまな話を伺っていきます。
現在の事業について、はじめにお伺いしてもいいですか。
山下氏::私の父が創業した当時は、竹を使ったものを中心に茶道具などをつくっていました。そのなかで職人さんとのつながりは築かれていきました。今は地元別府だけではなく、九州を中心として日本の各産地とのコラボレーションを強化しています。
松澤:竹細工の特徴や歴史について教えてください。
山下氏:別府の竹細工は、大分県で唯一の伝統的工芸品として経済産業省から指定されています。特徴は、竹を編む商材が非常に多いことです。もともとは、日用品として利用されていました。今は、海外に向けたものやアート作品のようなものも出てきました。
>別府竹細工 花六ツ目鉄鉢松澤:海外からのファンの方も多いと伺いました。
山下氏:ヨーロッパの方からみると、「竹」という素材自体に興味が惹かれるのでしょう。東洋のもの、東洋の文化であるというイメージが強いんだと思います。
2002年3月にヨーロッパの展示会に出たときにそんな実感がありました。
松澤:九州の工芸品への注目は高まっているのですね。
山下氏:九州には、長い歴史のなかでブラッシュアップされていった工芸品がいっぱい眠っているとおもいます。
大分の小鹿田焼きには、バーナード・リーチや柳宗悦が訪れた歴史があります。生活に使われているものに美意識を見出したのですね。熊本にも面白い焼き物はありますし、鹿児島には、独特な切子があるでしょう。
松澤:だからこそ、産地のコラボレーションに可能性が感じられるのですね。
個性豊かな工芸をつなぎ合わせる立場
海外に売っていくということ
松澤:山下さんは、既存のやり方と新しいマーケットをつなぎ合わせる役割を担っていますね。
山下氏:今は海外からのお客さんが多く、工芸品への注目も高まっています。一方で、十分にマッチングが行われていないのではないかとも感じています。そこにある種のマーケットチャンスを感じています。
例えば、外資系のホテルの経営層は外国の方が多いですよね。我々は、そういう方たちに対して地元の工芸品を使った客室内の備品やロビーの装飾品について総合的に提案ができます。
松澤:作り手と売り手をつなげるメッセンジャー的な役割ですね。
山下氏:はい。そのためには、「竹」だけに注目してればいいというわけではなくて、客観的に良さを理解しなければいけません。九州のいろいろな工芸をみて、歴史的背景を確認した上で各エリアの担い手とタッグを組みます。
松澤:伝統工芸品は、量産品ではありません。売価の高さに見合う価値があることを理解していただく必要があると思いますが、その点はどうですか。
山下氏:今、我々が取り組んでいるのは、アッパー層への働きかけです。ホテル業界では、規模が拡大してきていて、「体験」が求められています。そうなると、客単価がめちゃくちゃ高いですから、そういった方々向けに日本独特の技術を用いた繊細な工芸品が売れるようなシステムを作りあげることを考えています。
SDGsに向けた竹の活用とビジネス展開
松澤:SDGsへの取り組みもされていますね。
山下氏:まず、素材としての「竹」の話をさせていただきます。いわゆる「放置竹問題」です。「竹」って成長スピードが3年で、とても早い。海外からの商品が入ってくるなかで需要が減っていくと、原材料だけが山に残ってしまいます。そうすると、山全体が荒廃してしまいます。そこで、2015年から「自然で自然を支える箸プロジェクト」を立ち上げ、エコマークアワードをいただきました。
竹は、成長すると二酸化炭素を出します。それらを貯める「カーボンストック」という考え方をつかって商品開発もしています。最近でいうと、東京の芝パークホテルさんに客室の備品として竹の消臭剤を採用していただきました。
松澤:世界の流れが脱炭素や脱プラスチックの方向に向かっているので、天然素材にとって面白いビジネスチャンスがありそうです。
山下氏:ほかにも、工芸品としてはなかなか価値が生み出しにくい3年から7年目の竹に注目し、着色料をつくりました。合成着色料にかわる自然由来の着色料です。
伝統工芸の動向を考える 発信力とファンの存在
松澤:伝統工芸分野の動向についてどのように考えられてますか。
山下氏:今はチャンスだととらえています。円安で、インバウンドも復活しました。訪れる機会が増えれば、(工芸品が)目に留まる機会も増えていきます。
SNSなどを通して海外の方たちが日本の伝統文化を評価し出しましたよね。そこに注目した自動車メーカーや銀行などの日本の大手企業がやっぱりもう一度「工芸品」を見つめなおしてみようというアクションを起こしています。
松澤:これからの伝統工芸分野を担う職人を育成する学校の存在も大きいですよね。さまざまな産地で、創作意欲のある若い方が(地域に)根を張って面白いものを作り出している印象があります。このことについてはどう思いますか。
山下氏:そうですね。ただ、重要なのが職人たちがつくったものの「出口」を整備することです。いいものをつくれても売り先を見いだせなければもったいないです。発信力が大事ですね。
情報の発信者が売り手とうまく結び付けられると生産側にもちゃんとお金が回るようになります。また、それらの発信をみたお客さんに、現地に来てもらってファンを生み出せれば、地元にお金を落とすこともできます。
そういうチャンスは積極的に掴んでいきたいですね。
松澤:当社もその流れにちょっとでも貢献したいと考えています。
一緒に産地に伺ったこともありますが、九州のように特徴的な産地はなかなかないと感じています。奥深いというか、変わらない歴史がある。たくさん人がくればいいというわけでもないけど、もっともっとファンを増やすことはできるのかなと思っています。
山下氏: コロナの時ってどこの産地も大打撃を受けました。すぐに生産ができなくても、ファンの方は待ってくれました。そういう工芸品の特性に対して理解のある状態は素晴らしいと思います。
伝統工芸品の新たな可能性
松澤:これからの伝統工芸品についてお伺いします。
山下氏: 伝統工芸品の多くは、もともと日常的に使われる生活用品でした。時代の流れによってさまざまな技術が伝わってきましたが、はじめは手作りでした。ただ、いまでも機械化していない産地もあります。そういった工芸品をみつけてきて、現代のライフスタイルに合わせた展開を考えるのはおもしろい作業です。
松澤:スタイルが異なるものをコラボレーションさせることで新しい発想が生まれたり、マーケット自体が生まれるきっかけになりそうです。各地の状況はどうですか。
山下氏:現在は、伝統工芸士の担い手も多様化しています。異業種からこの世界に入ってきた人たちは、工芸を客観的にみることができ、新しい視点からのアプローチが生まれています。過去には考えられなかったことや否定されていたことが、環境の変化やアートの要素を取り入れることで、変化していっています。
松澤:アートとの結びつきも高まっているのですね。
山下氏:先ほど、外資系ホテルの例を挙げましたが、東洋と西洋の文化が融合することで新たな魅力が生まれることもあります。異種素材を使って編んだり、焼いたりする工芸品が増えてきています。
松澤:時代の変化に合わせて、さまざまな可能性が生まれているのですね。これからも産地のコラボレーションに注目していきたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
山下氏:こちらこそありがとうございました。
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