コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

記事: メーカー必見「伝統工芸を海外展開するには」 KCmitF代表の大谷啓介さんに迫る【工芸イノベーターインタビュー】

メーカー必見「伝統工芸を海外展開するには」 KCmitF代表の大谷啓介さんに迫る【工芸イノベーターインタビュー】
#取り組み

メーカー必見「伝統工芸を海外展開するには」 KCmitF代表の大谷啓介さんに迫る【工芸イノベーターインタビュー】

Youtube配信で開催される「工芸イノベーターインタビュー」。今回は、「伝統工芸を海外展開する工夫と課題」というテーマで、KCmitF代表の大谷啓介さんをお迎えしました。日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。

KCmitF代表大谷啓介さん紹介:2012年7月独立。KCmitFとして真摯にものづくりを続ける産地企業の為の商品開発・マーケティング支援を開始。時流を予測し、当初から海外市場への販路開拓支援を積極的に推進する中で、2014年にシンガポール人クリエーターEdwin Lowと共にlo-op LLPを設立。2017年には産地と生活者を繋ぐ新なコミュニティが生まれる場を作るべく東京 久我山にてギャラリーショップSupermama mit tobuhiを開業し、自らも日々売り場に立つ。


仮説を立てて検証 伝統工芸を海外へ

日本工芸・松澤(以下、松澤):今後の伝統工芸業界において、商品を海外展開することも選択肢のひとつにあります。事業者として、職人としてどう向き合っていけばいいのでしょうか。

大谷氏:マクロ的な観点から言うと、(伝統工芸の)国内市場そのものが縮小してしまうのは避けられません。もちろん市場規模に合わせて展開の仕方を変えていく方法もあります。

海外は、同じカテゴリーの中でマーケットとしては空きがあります。その点で市場を拡大させていくという意味合いで海外展開するのは比較的大きな選択肢のひとつかと思います。

 

松澤:自分が持っている商材がどの市場にフィットするのかを見極めるにはどうすればいいでしょうか。

大谷氏:一言で海外といっても、国の数だけ市場があるので、どこが合うかというのは、探してみないとわからないと思います。自分の持っている商材や得意分野はどの地域に受けそうか、仮説を持って出ていってみることです。

一度、海外に出てみた結果、「やっぱり海外やめるわ。」となるのもけっこう大事な判断だと思うんですよね。国内市場に注力できるので。

 

松澤:海外進出するにあたって大切なことはなんですか。はじめは、どうすればいいのでしょうか。

大谷氏:仮説を立てて検証することの繰り返しではないでしょうか。仮説をできるだけ無駄にしないことが大切です。やり方はそれぞれの気質というかスタイルでいいと思います。行き当たりばったりでもとにかく量をこなしてそこから学ぶ人もいますし、しっかりと仮説構築をして打率を高めたい人もいます。仮説を立てて実行する、この繰り返しをどれだけ積み重ねられたかというところが1番大事なことですね。

 

松澤:海外に展開する際のデメリットはあると思いますか?

大谷氏:ひとつは経済コスト。あとは時間も基本的にはかかってくるでしょう。もうひとつは異文化を受け入れたり伝えたりする中でのコミュニケーションの難しさがあります。

ただ、この文化的な違いは、海外展開をする上での面白さでもあります。

日本だと誰も褒めてくれなかったところが絶賛されたり、日本で自信を持っていた技術が海外の人にも同様に評価を受けたりもします。そんな時は、周りにいる人間もモチベーションが高まっているなと感じます。

 

 

仮説と検証の積み重ねで「運」を引き寄せる


松澤:これまでいろんな国にご自身で展開されたと思いますが、これまでのメーカーさんとの出会いや、どのように彼らと海外展開されていったのか、印象的な事例をお伺いしてもいいですか。

大谷氏:一緒に成長していった事例だと「有田」の事例が1番わかりやすいです。

シンガポールの市場にテストマーケティングで「ポップ アップしませんか?」というのを作ったときに「一緒にやってみたいです。」と手を挙げてくださったところでした。その事業者さんは海外展開を10年ぐらい前からやってらっしゃった方でした。

商業見本市ではなくてポップアップの企画だったために現地のマーケットの反応をダイレクトに見ることができました。そのため仮説の検証がスムーズでした。

(海外展開をする)リスクもある中でこうした経営判断ができたのは、これまで積み重ねられたものがあったからでした。


松澤:どんなことに注意して取り組みましたか。

大谷氏:日本の器は、日本の食生活・食文化に最適化されて作られているので、現地の食文化にそのまま馴染むわけではありません。

自分たちの製造技術などを生かしながら一緒にローカライズした商品を作れるようなきっかけをつかみたいというのがひとつの仮説でした。そこは明確に持っていて、たまたまその機会が訪れた、それを試すことができる方と出会えたということです。


松澤:現地での繋がりをつくるにはどうすればいいでしょうか。

大谷氏:結論からいうと「運」だなと思います。

松澤:なるほど(笑)

大谷氏:でもその運をつめるかどうかは それぞれが積み重ねてきた仮説や経験だと思うんですね。

地元の人向けのマーケットで「Made in Japan」の商材を売っていたときがありました。そのときに「こんなところにどうしてこれが売ってるんだ」と声をかけてきたひとがいま一緒にやっているパートナーです。

彼は、現地の値段よりも低価格で販売されていたことにも驚いていました。カラクリとしては、運営事業が直接持っていき、そこにいろいろな手数料を乗っけて販売し、小売流通よりもマージンなどが適正に分配されているから販売価格も低くなるんだという話です。

「日本のものを売りたい」とは思いつつも、普通に仕入れると値段が張ることをネックに感じていた彼にとって、我々と出会ったことは大きなチャンスでした。(彼の目線に立つと)この機会をものにできたのは、彼の持っていた経験値のおかげです。


松澤:パートナーも「(日本には)いいものがあるんだ」ということはご存知だったんですね。

大谷氏:もともと日本の物が大好きで自分の店でも当時売っていたことも大きいです。(海外展開をする上で)「販売」をしてる人に直接リーチするっていうのは大事かもしれません。

 

 

まだ見ぬ「熱意」と出会うために、まずは打席に立つ。


松澤:他にはどんな話がありますか。

大谷氏:フランスで事業展開した例があります。

シンガポールの事例と同じビジネスモデルを横に広げられるんじゃないかと事業者さんも僕も思って海外に出ていったんですが、そうじゃなかった。ということで仮説を組み替えなければいけない状況でした。


松澤:どのように取り組んでいきましたか。

大谷氏:相手の持つパッションに注目しました。いろんな人と会う中で、この人とやったら色々うまくいくんじゃないかという方に出会いました。


松澤:小売業の方ですか?

大谷氏:起業する前みたいな人です。「これから僕独立するので、クラファンやるんです。」みたいな、やる気だけはあるという方でした。すぐに話は進まなかったのですが、後日彼のことを思い返したときに、突出したパッションがあったことを思い出し、話を持ちかけることにしました。

初めは、Web上でエージェント契約という関係でした。

ただ、コロナ禍とかぶってスケールを拡大させるのに難航したタイミングで、「むしろ今は店舗を出すのがいいんじゃないか(家賃も安くなっているし)」という提案を受けました。それから街中でポップアップショップを開くようになってから市場に大きな変化が生まれました。


松澤:どんな商品が売れたのでしょうか。

大谷氏:和風の商品が特に好評でした。アジアではなかなか売れなかった商品がここでは大きな反響を呼びました。「The有田焼」といったものよりは、土っぽい雰囲気をもつものが動きました。


松澤:パリで売れている商品を日本に逆輸入することは考えているのですか?

大谷氏:今はまだ大規模には展開していませんが、ショップで「フランスとのコラボレーション商品です」として展示することで、日本の市場に対してわかりやすくアピールすることはできるでしょうね。近い将来、日本で自分たちのクリエイティブを活用した商品を展開する予定です。


松澤:(異文化に触れることで)日本側の技術も向上するのでしょうね。

大谷氏:そうですね。

向こうから言われる無理難題が職人のクリエイティブ魂に火をつけていくじゃないですか。それがうまくいったときにこの技術と日本の商品を使っていこうと(先方に)選んでもらえたらうれしいですね。


松澤:シンガポールとフランス、2つの海外展開の事例をお聞きしてきました。ビジネスパートナーを選ぶときはどのように判断されていますか。

大谷氏:この人いいなと思うフィーリングは重要です。恋愛みたいなものかもしれないですね。言ってることは正しいんだけど、なんか心地よくないと感じる場合は、大概うまくいきません。

松澤:自分自身の感じ方や考え方が大きく関わってくるのですね。

大谷氏:あとは、行動してみることが必要ですね。結局、始めてみないとどんな相手が自分にとって心地よいかはわかりません。まずは打席に立つということでしょう。自分の場合は、長期的な視点でいかにお互いにウィンウィンな関係を築けるのかを重視しています。


松澤:伝統工芸のメーカーさんは長く続いている事業者さんが多いので「今日、儲かる」という話をするよりは、長期的な視点で、ともに新しいことに向けて語り合いながら取り組む姿勢が大切ですね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

大谷氏:こちらこそありがとうございました。

日本工芸コラボトーク一覧はこちらから