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記事: 九谷焼、虚空蔵窯の挑戦と可能性【日本工芸コラボトークvol.15】

九谷焼、虚空蔵窯の挑戦と可能性【日本工芸コラボトークvol.15】
#取り組み

九谷焼、虚空蔵窯の挑戦と可能性【日本工芸コラボトークvol.15】

日本工芸コラボトーク第15回目は、石川県能美市の九谷焼の窯元である虚空蔵窯の市田さんをゲストにお迎えして、九谷焼の今とこれからのこと、そして、いっぷく碗の制作秘話などを伺いました!日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。

 

九谷焼の特徴とは?


松澤:九谷焼がどんな焼き物か、教えていただけますか?

市田さん:九谷焼は色絵の技術が発達してる産地です。元々のルーツは「九谷五彩」というものです。今、松澤さんのところに並べていただいているうちの主力商品もそうですけども、色味が多いので同じデザインでも色々な展開が可能になります。見栄えもして食卓を明るくするようなテイストが魅力です。

松澤:多様な色味があって豊かな気持ちにさせてくれるところは、九谷焼の特徴な感じがしますね。

市田さん:このデザインだとブルーの部分に注目していただきたいです。盛り絵の具をしっかり塗り込んで焼いたところは、ガラス質の綺麗な、透明感のあるツヤができます。これが九谷焼の特徴だと僕は思っていますね。

→九谷焼 | マグカップ | トルコ花うらら のページはこちら

松澤:他の産地でこれだけカラフルな色味を出せるところもそんなに多くはないのでは?それぞれ技術は異なりますが、この色味の多様さは九谷焼の特徴なのかな、と思います。

歴史や文化的な影響もあるんですかね?

市田さん:九谷には360 年歴史があると言われていますが、九谷焼の発祥は京都から職人を招聘したことから始まっています。「加賀100万石」と呼ばれてるように、伝統工芸の推進したいという意向があったとは思うんですね。

松澤:京都の影響も受けながらきらびやかな文化をそのまま受け継いでいるっていうところに非常に特色があるのではないか、と思います。

市田さん:実は九谷焼は1回無くなってしまいます。そこから復活して「再興九谷」といった形で色々な流派が出てきます。時代ごとで形を変えながら、現在の九谷焼を形成していったのでその辺の歴史はすごく深いと思います。

 
→特集/伝統工芸の魅力「九谷焼とは?九谷焼の歴史と特徴を知る」はこちら


創業の歴史

松澤:御社の特徴や創業についてお聞かせください。

市田さん:虚空蔵窯として窯を持ったのが今から約28年ぐらい前になります。もともと父は、ずっと九谷焼の商社で営業マンとして働いていました。当時から「手作り」と「手描き」にこだわった楽しい九谷焼きがあってもいいんじゃないかっていう思いを持っていたようです。窯を開いたときからそういったテーマを意識していました。

今でも、スローガンである「見て美しく 使って楽しく」「持ってるだけでも心が豊かになる器を作り続けていきたい」っていう想いは、根底にあります。

松澤:その部分は最初見た時からとても伝わってきていました。そして今でもそれを大切されてることを感じています。

現在はお父様から引き継がれて、ご兄弟で営まれているんでしたよね。

市田さん:僕の弟がろくろ成形の方と工場長として切り盛りしてくれて、僕は企画だったり営業だったり経営的なところを担っております。他にも職人が5名在籍しています。それぞれ得意な技法があるので、そこをデザインに活かすような形で取り組んでいます。

 

コロナ禍後の変化

松澤:30年近く経営されていている中で、どういう変化がありましたか?コロナの影響もあると思うのですがいかがでしょうか?

市田さん:以前はよく展示会にも出店してましたし、百貨店や専門店さんでもイベントをよく開催させてもらっていました。コロナ禍ではなかなかそういった機会が恵まれなくなりました。ですので、2年ぐらい前からはネットショッピングだったり、クラウドファンディングにも挑戦しています。少しでも多くの個人のお客様にうちの商品を見ていただきたいという思いで取り組んでいます。

松澤:以前は小売店、百貨とか、雑貨店などに卸すのがメインだったんですか。

市田さん:もともと個人を対象に販売もしていたんですが、割合的には少なくて1割 ぐらいだと思うんですけども、それが今だと3割4割近くまで増えてきています。

松澤:クラウドファンディングは、どんな感じでやられているんですか?

市田さん:今ちょうど作ってるのが、後ろに写っているんですが、このトルコブルーの器です。

虚空蔵窯様クラウドファウンディング「トルコブルーのうつわ」


松澤:その色味、めっちゃ好きです!

市田さん:九谷焼とはちょっと違ってくるんですけども、本窯一発で釉薬だけで表現している作品になります。この色を安定させて出すには、2年以上かかりました。通常の焼き方とは、温度も違うので最初はなかなか色がムラで出てきたりとか、釉薬自体が流れてしまって間にくっついたりとか、いろんなトラブルがありました。ようやくそれらを乗り越えてこういう形で販売させてもらっています。

 

新しいアイデアが生まれる場所

松澤:こうした新しい挑戦は、社内でどういう風に立てているんでしょうか。議論して決めるのか、市田さんが「こうしよう!」と声をかけるのか…

市田さん:色々なパターンがあります。「こういうデザインを作ってもらえないか」というお客様からの声をきっかけにシリーズ化したものもありますし、テーマを設定してそれに沿って雑談をするところから始めたものもあります。春だったら「桜」の柄をモチーフに新しいデザインで展開してみようか….など。

松澤:我々も商品のカタログを最初に拝見したときに色の種類とデザインがたくさんあって驚きました(笑)

お客様の要望に合わせて少しずつ増やしていく感じなんですか?

市田さん:松澤さんに並べてもらってるような「花うらら」シリーズは、定番のロングセラーの商品になりますが、このデザインから派生した物もあります。
あとは客層的に女性が大半なので、花柄などの可愛らしい色合いやデザインが多いです。

松澤:工芸は、全般的に少し落ち着いた感じの物が人気があるのかなとは思っていました。

 

人気のいっぷく碗

松澤:いっぷく碗について、制作の背景や用途などについてお聞きしたいです。
普通のマグカップと比べると少し大ぶりですか?

市田さん:そうですね。僕らが持っても両手で包み込んでしまえるようなフォルムになっています。抹茶碗でもなくお湯飲みでもない中間のサイズを狙いました。コロンとした丸いフォルムが可愛らしいですよね。
また、縁の部分の、緩やかなカーブもこだわった点です。忙しい毎日の中でホッと一息、お茶とかコーヒーを飲んで、自分の時間を取り戻してもらうというのを意識してデザインしました。

松澤:実は、私も母親に御社の商品をプレゼントしたのですが、「高いものを買ってくれたからなかなか使えない」と言われてしまいました(笑)実家に帰ると毎度、「あんた来たから使う」と言って、「いやいや毎日、使ってください。割れたらまた買うから。」というやりとりをしています。



市田さん:やっぱり普段使いしてほしいですね(笑)毎日、使っているとだんだん馴染んでくるんです。土物なので吸水性もあるし、そのうちしっとりしていきます。
僕は毎日コーヒーを飲むのでスタンダードなフォルムのマグカップは日常的に使っています。



松澤:この器で飲むコーヒーから朝が1日が始まるっていうのがいいですね。

虚空蔵窯さんのファンになられるのはどのような方々でしょうか?

市田さん:もともとは50代 50代40代から60代の方に人気がありました。
ここ最近はcreemaのクラウドファンディングに挑戦したり、1年ぐらい前にモデルの梨花さんがインスタグラムで「愛用してますよ」と投稿を上げてくださったりしたことをきっかけに20代とか30代のお客さんも増えています。さらに当時、梨花さんがプロデュースされていた代官山のセレクトショップがありましたが、ポップアップ的な感じで販売させてもらいました。

松澤:ちなみに梨花さんはどのお椀を使用されていたんですか?

市田さん:重厚感のあるいっぷく碗の色絵無双椿(いろえむそうつばき)です。

市田さん:当時、僕もInstagramなどやっていなかったんですけども、そこから火がつきました。すごく刺激的な体験でしたね。

 

いっぷく碗の作り方


松澤:いっぷく碗の作り方を詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか。

市田さん:僕らは窯元として生産から販売まで一貫してやっています。粘土を仕入れてきたらまず中の空気を抜く作業をします。管に通して筒状の粘土がドーンとできます。そこからろくろ引きをして成形します。ろくろ引きをした後にちょっとだけ乾燥させて、底の高台の部分を削ります。




松澤:どれぐらい乾燥させますか?



市田さん:季節によって変わるんですけども、大体、1日とか冬場だったら2日です。削ってから本乾燥させます。そうしてしっかり乾燥させたら素焼きをします。素焼きの前の段階で釉薬をかけます。さらに本焼きする前にもう一回釉薬をかけます。素焼き・本焼きを終わらせたら上絵付けして最後にまた焼く作業をします。全部で、最低でも3回焼きます。

 



松澤:窯の温度は高いんですか?

市田さん:本焼きで1200度ちょっとです。素焼きの場合もだいたい800度前後なので、本焼きが最も温度も高いですし、時間もかかります。

松澤:どれぐらいかかるんですか?

市田さん:12時間、半日前後です。

松澤:結構な頻度で火入れしてるんですかね?

市田さん:本焼きは10日に1回ぐらいですかね。窯に物を詰めるのに時間がかかります。また、最近こういった細かいものが多いので、窯がいっぱいになるまでそれなりの時間が必要なんです。



松澤:ちなみに歩留まりはどうですか?

市田さん:そんなに悪くないですよ。一般のものであれば、全くゼロではありませんがそのままいける感じです。ただ、トルコブルーの器だとどうしても歩留まりが悪くなります。釉薬が流れやすいのと、ピンホールというスポットみたいなものが出てしまいます。そこがちょっと課題です。


今後の展望


松澤:今後の野望はありますか?

市田さん:もっと多くの人に虚空蔵窯という窯元を知っていただきたいです。「こういう焼き物があるんだ」「こういうデザイン面白いな」という風により多くの人に感じていただきたいです。

松澤:新しい売り方で、今気になっているのは、ライブコマースです。今はこのやりとりは動画で撮っていますけど、リアルタイム配信形式で、お客様の意見もその場で共有できるインタラクティブな空間は面白いかなと思っています。そうすることで、私たちもお客様側もお互いに工芸に対する認識を高めることができると考えているのですが、どうでしょうか。

市田さん:僕の中ではまだ詳しくはわからないんですけども、ちょっとずつ近づきつつある感覚はあります。先日も東京でイベントを出展させてもらった時に、横のお店がライブコマースで中国に配信していてそこからたくさん注文が入っているっていうのを目の当たりにしました。ポテンシャルはすごく高いと思います。

松澤:ちなみにですが、九谷焼の他社さん状況はどんな感じなんですか。

市田さん:話を聞くと2極化しているみたいです。オンラインにしっかりと力を入れて 販売されてる方もいれば、未だに卸をメインでやってらっしゃっる方もいます。また二刀流で卸をやりながらもネットショップのチャンネルもしっかりと築いているところをあります。
僕は自分からネットショッピングとかたくさん何でも買い物したりする方でもないので、まだまだ仕上がってないところはあると感じています。また「卸」はしっかりと残していかなきゃいけないと思っている部分もあります。

松澤:できれば、新しいチャレンジもしつつこれまでのやり方も残していきたいという感じですね。

市田さん:はい、でもやっぱりこの2年間ぐらいでシフトはしてますね。

松澤:そういうお話は全国各所でいっぱい聞きます。コロナで経営が難しくなった、というところもあればネットショップを一生懸命やってるうちに気がついたらバズっちゃってめちゃめちゃ売れた窯元さんも知っています。

市田さん:あやかりたいですね(笑)

 

新しい展望 ライブコマース

松澤:若い方にも認知がちょっとずつも広まっているとのことで、そういった方々が未来の長年のファンになってくれたらいいですね。

市田さん:その点はもっと意識して、これからも商品を提案していかなきゃいけないと思っています。色の展開もあるし、柄の展開も非常に多いので、一つ、気に入って見てもらえるとどんどん好きになってもらえるのかなと思います。

松澤:つながりができると強いですよね。
他の産地でも、ネットでファンが広まっていったっていう話を最近聞きました。

市田さん:「ボーダーレス」ですよね。百貨店とか専門店に行かないと手に入らなかった物でも、今ではリアルタイム配信やクラウドファンディングなどのインターネット配信を通して目にすることができます。発信する側もしっかりとPRしていくことが課題かなと思います。

松澤:なかなか簡単じゃないですけど、トライした人が勝ち残る感じなのかもしれないですね。

廣田さん(日本工芸スタッフ):ところで、いっぷく碗の使用例があれば、教えていただけますか?日本工芸のアンバサダーの方が、このお椀に一人分のちらし寿司を乗せて楽しむっていうことををされていて面白いなと思いまして。

市田さん:近くの飲食店に虚空蔵パフェというメニューがあります。このお椀にソフトクリームやスイーツなどを載せて提供されています。あとは、野点のようなイメージで抹茶をカジュアルに楽しまれる方もいらっしゃいます。

松澤:工芸品好きな方たちにより深いファンになってもらうために(商品の)使用シーンなどをどんどん紹介していきたいと思っています。何かの形でご一緒できたらいいですね。

市田さん:その時は画面越しじゃなくて一緒に僕と松澤さんが並んで紹介したいですね。

松澤:窯の目の前で、地元の食べ物を食べたり地酒を呑んだりしながら、使用シーンを実演する形でお客様にその魅力をお伝えしていくのは、いずれやりましょう。こんなに大きいお椀で呑んだら酔っ払っちゃうか(笑)

市田さん:はい、またご案内しますよ!ぜひやりましょう。

松澤:改めてお時間いただきましてありがとうございました。

市田さん:こちらこそありがとうございました。

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上記の原稿は以下インタビューをもとに作成しています。

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