記事: 石川の工芸を訪ねて|輪島塗・能登島ガラス・山中漆器

石川の工芸を訪ねて|輪島塗・能登島ガラス・山中漆器
石川県産業創出支援機構(ISICO)のバイヤー招聘事業により、7月上旬の二日間、石川県内の工房や企業を訪ねました。輪島塗、山中漆器、ガラス、和紙、木工。異なる素材と技から生まれる、多彩なものづくりに触れた旅です。
今回は、新たな取引へつながった八井漆器本店と能登島ガラス工房、そして、すでに取引を重ねているウチキへの訪問を中心にお届けします。
ものづくりを訪ねる二日間

(写真:石川県七尾湾)今回の訪問では、ISICOの担当者にご同行いただきながら、石川県内の工房や企業を巡りました。日本工芸堂では、これまでも石川県を訪れ、珠洲焼や輪島塗、加賀友禅、九谷焼の作り手と対話を重ねてきました。
前回の旅については「石川に息づく技と人─珠洲焼・輪島塗・加賀友禅・九谷焼をめぐって」で紹介しています。今回の旅は、その続きにあたります。
工房や店舗では、商品を手に取るだけでなく、その背景や制作工程、継続してつくり続けるための体制についても話を伺いました。実際に器を使い、ガラスづくりの一部を体験するなかで、完成した品を見るだけではわからない、素材の特性や作り手の工夫にも触れることができました。
八井漆器本店|受け継いだ品を、これからどう届けるか

金沢に店を構える八井浄漆器本店を訪ね、八井浄さんにお話を伺いました。1845年(弘化2年)の創業から、五代にわたって輪島塗の製造・販売を続けてきた塗師屋です。2024年1月の能登半島地震で輪島の店舗は全壊しましたが、土蔵に収められていた約3,000点の品々は残り、現在は金沢を拠点に、受け継いだ品と仕事を次へつなごうとされています。
店舗で商品を見せていただきながら、地震のこと、輪島の店舗から品々を運び出したときのこと、そしてこれまでの仕事について伺いました。八井さんは、大きな出来事をことさらに強調することなく、一つずつ事実を確かめるように、淡々と話されました。その語り口が、印象に残っています。
仕入れた瓢箪形のぐい呑みがオフィスに届いてから、実際に水を注いでみました。水が満ちると、内側に施された図案がふっと浮かび上がるように見えます。手にすると漆器らしい温かみがあり、容量も日本酒をゆっくり味わうのにちょうどよく感じられました。
気に入った酒を少しずつ注ぎ、内側の図案の変化を眺めながら飲む。そんな時間まで含めて届けられる酒器だと思います。日本工芸堂では、この瓢箪形のぐい呑みを中心に、酒を大切に味わう方への本格的な贈り物としてもご提案していきます。

(商談中輪島塗ぐい呑みの説明をいただく)
今回の取り組みは、八井漆器本店にとっても、これまでとは異なる品の届け方への試みでした。最初から話が決まっていたわけではありません。日本工芸堂をどのようなお客様が利用し、私たちが商品をどのように紹介しているのか。話を重ねるうちに、少しずつ取り組みの方向が見えてきました。最後にご了承いただいたときは、私たちの仕事にも、いくらか信頼を寄せていただけたのではないか。そう感じたことを覚えています。
能登島ガラス工房|橋を渡って素材の現場へ

和倉温泉を越え、橋を渡って能登島へ向かいました。橋の上から見えた海は穏やかで、その明るさが印象に残っています。
最初に展示販売所で商品を見ながら商談をし、その後、制作の現場を案内していただきました。展示販売所では商品を一つずつ手に取り、色や形の違い、現地の素材が使われていることを確かめました。日々使う器としてだけでなく、能登の背景まで伝えられる贈り物になるか。そんな視点から品を見ていきました。

工房に入ると、炉の熱を感じました。暑さのなかでも工房内は清潔に整えられ、職人の方がグラスを成形していました。色をどのようにつけるのか、ガラスのなかに泡をどう入れるのか。説明を受けながら実演を見ると、店頭に並ぶ一つのグラスが、いくつもの工程と細かな判断を経て生まれていることがわかります。

職人の方に丁寧に支えていただきながら、私自身もガラスづくりの一部を体験しました(上記写真)。実際に制作に触れることで、素材の状態を見ながら、一つひとつの動きを重ねていく仕事であることが、より具体的に伝わってきます。商品の背景を理解するうえでも、制作に触れられたことは大きな経験になりました。今回の旅のなかでも、特に印象に残っている時間です。

工房では、能登の珪藻土をガラス原料の一部に取り入れた器について説明を受けました。橋の上から見た海を思い出しながら、青の器を選びました。土地にある素材をものづくりへ生かし、その背景までお客様へ伝えられること。そして、実際に工房を訪ね、工程に触れたことで、自分の言葉でその魅力をお伝えできること。それが、日本工芸堂でご紹介したいと思った理由です。
ウチキ|カフェの席から見えた、山中漆器のいま
山中漆器のウチキとは、すでに多くの商品でお取引をいただいています。今回は、新商品の紹介を兼ねて、改めて訪問しました。
案内いただいたのは、会議室ではなく、ウチキが山中温泉で運営するカフェでした。ウチキの器でコーヒーをいただきながら、話を伺います。手に取って説明を聞くだけでなく、実際に使われている場所で飲み物をいただくと、器の重さや口当たり、手に持ったときの感覚がよくわかります。

コーヒーを飲みながら話したのは、すでに日本工芸堂でご紹介している品と、新たに加えたい品が、暮らしのなかでどのように選ばれているのかということでした。カフェでは、どんな形や質感の器に自然と手が伸びるのか。手に取った方は、何を決め手に購入されるのか。実際に器が使われ、販売されている場所だからこそ、お客様の感覚に近いお話を伺うことができました。
ウチキの品は、毎日の食卓になじみながら、贈り物としても選びやすいものです。今回の訪問を通して、使う場面や選ばれる理由を改めて確かめることができました。ご自宅で長く使いたい方にも、大切な方へ工芸品を贈りたい方にも、その魅力をより具体的にお伝えしていきたいと思います。

(写真 ウチキ、打出さんと)
石川に輪島塗や山中漆器をはじめ、これほど多様な工芸が根づいた背景には、豊かな自然素材だけでなく、加賀藩による工芸振興や雪国の暮らし、日本海交易など、いくつもの要素が重なっています。詳しくは「なぜ北陸には工芸品が多いのか?─自然・歴史・文化が紡いだものづくり」で紹介しています。
結び|石川の工芸、層の厚さ
いずれの訪問でも、商品の背景だけでなく、継続して制作できる体制や、どのような用途と相手に向くのかについて話を伺いました。
今回の旅で改めて感じたのは、石川の工芸の層の厚さです。漆、ガラス、木。素材も、工程も、使われる場面も異なります。長く受け継いだ品を新しい届け方へつなごうとする作り手がいて、土地にある素材をガラスづくりへ取り入れる工房があり、カフェという実際の使用の場から市場を捉える会社がある。それぞれの向き合い方の違いが、この土地のものづくりの厚みなのだと思います。
たくさんの輪島塗を拝見し、そのなかから、このぐい呑みを仕入れようと決めたこと。能登島でガラスづくりに触れたこと。山中温泉のカフェで、器からコーヒーをいただいたこと。現地での一つひとつの体験が、ご紹介するときの言葉の土台になります。
作り手から聞いたことと、自分の手で確かめたことを、品とともにお客様へ届けていきたいと思います。
※記事内の写真は、記念写真を除き、すべて日本工芸堂・松澤撮影

