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記事: 【伝統工芸の旅】小鹿田焼の里を訪ねる

【伝統工芸の旅】小鹿田焼の里を訪ねる
#伝統工芸の旅

【伝統工芸の旅】小鹿田焼の里を訪ねる

山の奥に、小さな焼き物の里があります。

集落に入ると、川のせせらぎの中から「コン、コン」という音が聞こえてきます。
陶土を砕く唐臼の音です。
この音とともに、三百年続く器づくりが今も続いています。小鹿田焼の里を歩いてみましょう。

時間を凝縮した場所

小鹿田焼(おんたやき)は、大分県日田市の山あいにある、約300年続く焼き物の産地です。
▶ 小鹿田焼の特徴や歴史についてはこちら

山に囲まれた小さな集落では、川の水力を利用した唐臼(からうす)や薪で焼く登り窯など、昔ながらの器づくりの風景が今も残っています。

日田の市街地から車で山道を進み、小さなカーブを曲がると、その集落の入口が見えてきます。
私は初めて訪れたとき、その入口の手前に車を停めました。
なぜか、すぐに中へ入るのではなく、一度立ち止まりたくなったのです。

初めて訪れる場所なのに、どこか懐かしい。
そんな感覚がありました。

山の静かな空気の中で、遠くから「コン、コン」という音が聞こえてきます。
最初は、その音が何なのか分かりませんでした。

川の流れる音と重なって聞こえるその音は、陶土を砕く唐臼(からうす)の音でした。

小鹿田焼 唐臼


音でわかる産地

小鹿田焼の里では、向かいの山から採れる土を器の原料にしています。
その土を砕くために使われるのが、川の水力を利用した唐臼です。

ししおどしのような仕組みで、一定のリズムで土を打ち続けます。
私が訪れた工房では、三台ほどの唐臼が動いていました。

山の静かな空気の中で、その音だけが淡々と響いています。
川のせせらぎと唐臼の音。
この二つの音が重なった風景は、この里を象徴するものです。

小鹿田焼の里は、大分県日田市の北部、英彦山系の山あいにある小さな集落です。
谷川の水を利用した唐臼や薪で焼く登り窯など、昔ながらの器づくりの風景が今も残っています。

こうした暮らしと仕事が一体となった景観は「重要文化的景観」に選定され、唐臼の音は「残したい日本の音風景100選」にも選ばれています。

しかし実際にその場に立つと、それは単なる文化財の説明ではありません。
この里の暮らしそのものの音なのだと感じます。

小鹿田焼 唐臼


三百年続く焼き物の里

小鹿田焼の里には、現在十軒の窯元があります。
江戸時代から続く窯元で、技術は親から子へと受け継がれる一子相伝の世襲制です。

この里の焼き物が全国に知られるようになったのは、民藝運動の思想家・柳宗悦によるものです。

柳宗悦は、この焼き物を
「世界一の民陶」
と称しました。

小鹿田焼は、作家の名前ではなく産地の名前で語られる焼き物です。
個人の作家性よりも、暮らしの中で使われる器の美しさを大切にしてきました。

小袋定雄窯 坂本さんと

小袋定雄窯さんに商談で伺った際に、坂本さんから小鹿田焼についていろいろとお話を伺いました。
作り手の方から直接話を聞くと、この土地の自然や暮らしと焼き物がどれほど深く結びついているのかを実感します。

最後に記念に一枚撮影させていただきました。(右、筆者)

小鹿田焼の器については、日本工芸堂でもいくつかの作品をご紹介しています。
小鹿田焼の取り扱い作品を見る


山の土から生まれる器

ある窯元の方が、器づくりの工程を説明してくれました。

「この山の土を砕いて粘土にして、器を作るんです」

山の土を使い、川の力で砕き、
ろくろで形を作り、薪で焼く。

その説明を聞きながら、私はふと疑問が浮かびました。

「その土って、いつか無くならないんですか?」

少し間の抜けた質問だったかもしれません。

すると窯元の方は、笑いながらこう答えました。

「まあ、あと数百年は大丈夫でしょう」

その言葉を聞いたとき、この産地の時間の感覚が少し理解できた気がしました。

小鹿田焼 作陶
小鹿田焼 作陶 道具


観光地ではない焼き物の里

小鹿田焼の里は、いわゆる観光地とは少し違います。
交通の便も決して良いとは言えません。

山道を進んでようやくたどり着く場所です。
しかしその不便さが、この里の空気を守っているようにも感じます。

器を見て、
少し歩き、
作業風景を眺め、
また休む。

そんな時間の過ごし方が自然にできる場所です。

小鹿田焼 作陶


登り窯の話

私が訪れたとき、窯元の方が登り窯を作ったときの苦労を話してくれました。

登り窯は山の斜面に沿って作られる階段状の窯です。

一度火を入れると、数日間にわたって火を絶やさずに焼き続けます。

薪をくべながら、温度を見ながら、火の流れを観察し、その火を守り続ける。
その作業は想像以上に大変なものです。

窯元の方は、その苦労を淡々と話してくれました。

小鹿田焼 登り窯


見せてもらった大きな皿

そのとき、まだ販売には至っていない大きな皿を見せてもらいました。
何年も前に作られたものだそうです。

焼き物は、作ればすぐ売れるわけではありません。
器は、時に長い時間をかけて、ようやく人の手に渡ります。

その皿を見ながら、焼き物という仕事の時間の長さを感じました。


三度訪れても変わらない景色

私はこれまで、この里を三度訪れています。
しかし不思議なことに、印象はほとんど変わりませんでした。

山の風景
唐臼の音
窯元の仕事

どれも急いでいない。
むしろ時間がゆっくりと積み重なっている場所のように感じます。

小鹿田焼 登り窯


時間を凝縮した場所

小鹿田焼の里に立っていると、三百年という時間が一つの場所に凝縮されているように感じます。

山から土を取り
水の力で砕き
手で器を作り
薪で焼く

その営みが、何世代にもわたって続いてきました。

小鹿田焼の魅力は、器の形や模様だけではありません。
その背景にある風景や時間も含めて、焼き物に宿っているようだとも思えます。

小鹿田焼の里は、単なる焼き物の産地ではありません。
長い時間を重ねながら続いてきた、人の営みそのものの場所です。

器を手にするとき、その背景にあるこの風景を、少し思い出していただけたらと思います。



小鹿田焼の器については、こちらのページでも詳しく紹介しています。

小鹿田焼の取り扱い作品一覧
▶ 小鹿田焼とは?特徴や歴史について