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記事: 【伝統工芸の旅】石川に息づく技と人─珠州焼・輪島塗・加賀友禅・九谷焼をめぐって

【伝統工芸の旅】石川に息づく技と人─珠州焼・輪島塗・加賀友禅・九谷焼をめぐって
#伝統工芸の旅

【伝統工芸の旅】石川に息づく技と人─珠州焼・輪島塗・加賀友禅・九谷焼をめぐって

日本各地には、その土地ならではの伝統工芸が根づき、職人たちの手によって受け継がれてきました。日本工芸堂の代表・バイヤーである松澤が作り手をたずねる「伝統工芸の旅」。今回は石川県の珠洲、輪島、金沢を巡り、珠洲焼、輪島塗、加賀友禅、九谷焼といった代表的な工芸の産地を訪ねました。

旅のきっかけは、公益財団法人石川県産業創出支援機構(ISICO)のバイヤー招聘事業に参加したこと。複数の工房を一度に巡る貴重な機会をいただきました。また別の機会には、すでにお取引のある作り手のもとを再訪することもでき、あらためて石川の地に息づく手しごとの多様性と奥行きに触れる旅となりました。


土と火に寄り添う器たち──珠州焼・木澤工作所にて

石川県最北端の地・珠洲市を訪ね、珠洲焼の窯元「木澤工作所」を訪れました。木澤工作所の木澤孝則さんは、土と自然体で向き合いながら、コーヒーマグや一輪挿しといった日々の暮らしに寄り添う器を作陶されています。黒のマグカップは無駄のない美しさで手になじみ、一輪挿しは花の気品をそっと引き立ててくれるようでした。


写真:”一輪挿しいいでしょう”といって工房前からどくだみ草をとって花をさし見せていただきました。)

令和6年の能登半島地震で珠洲市は甚大な被害を受けたものの、木澤さんは制作を止めることなく、静かに、力強く、土と向き合い続けておられます。ものづくりの誇りと底力に胸を打たれ、いまもLINEで新作の窯出しを楽しみにやりとりを続けています。

【珠州焼とは】
石川県珠洲市を中心に中世に栄えた焼き物で、12世紀から15世紀にかけて日本海沿岸一帯で広く使用されていたとされます。無釉の灰黒色が特徴で、長らく“幻の古陶”と呼ばれていましたが、昭和に入り復興が始まりました。詳しくは珠州焼コレクションページをご覧ください。

 

漆黒の艶に込められた誇り─輪島塗の再生と挑戦

珠洲市から輪島市に移動。輪島塗の工房「日南彩漆堂」日南さんと商談。漆芸額やボールペンといった新しいかたちで漆を現代の暮らしに届ける取り組みがなされています。氏は輪島漆器商工業協同組合理事長も務められており、震災復興にも尽力されています。

「応援いただけるのはありがたい。ビジネスとしても輪島塗を加速させたい」

静かに、しかし力強く語られるその姿に、漆にかける想いと次世代への希望がにじんでいました。

また当社・日本工芸堂では、売上の1%を寄付する取り組み(詳細:1%for日本の工芸育成プロジェクト)を続けており、このたび輪島での訪問時には、これまでの支援の一環として寄付目録をお渡しいたしました。そのときの笑顔と握手のあたたかさが、今も心に残っています。

(写真:帰京後すぐに届いたお礼状)

【輪島塗とは】
石川県輪島市で生まれた漆器の最高峰と称される伝統工芸。漆を幾重にも塗り重ね、布着せや蒔絵などの工程を経て作られます。その丈夫さと艶やかな仕上がりが特長です。詳細は輪島塗コレクションページをご覧ください。


静けさの中に咲く、彩りの革新─加賀友禅のいま

金沢市にある「友禅空間工房久恒」では、職人・久恒俊治さんの工房を訪ねました。第5回「三井ゴールデン匠賞」を受賞された久恒さんは、大学と連携して開発された新たな植物染料を用いた染色など、伝統の中に新風を吹き込む革新者でもあります。

「最初の頃は色々批判もあったけれど、徐々に評価いただけるようになった」と、物静かに語る久恒さん。作品には、内に秘めた情熱と誠実な人柄がそのまま表れているようでした。

新たにご提案いただいたのは、掛け時計というモダンなアプローチ。工芸と時間、という新しい組み合わせに、ものづくりの可能性を感じる出会いとなりました。


【加賀友禅とは】
金沢を中心に発展した絵画的で写実的な染色技法が魅力の友禅染め。五彩と呼ばれる落ち着いた色合いで構成され、花鳥風月の文様が特徴的です。詳しくは加賀友禅の紹介ページをご覧ください。


筆が紡ぐ色彩の宇宙─九谷焼・美山窯を訪ねて

能美市の「美山窯」を訪ねると、職人の方々が筆を手に、九谷五彩の鮮やかな色を一つひとつ丁寧に器にのせていく姿が印象的でした。絵の具の調合や筆運びには、気温や湿度といった自然との対話が必要で、そのすべてが経験と感覚に支えられています。

手塗りで仕上げられた器の表面には、わずかな凹凸があり、絵柄の立体感とともに“手仕事のぬくもり”が伝わってきます。

日本工芸堂では、美山窯の代表的な作品のひとつである「花きらり」シリーズ(一覧はこちら)を取り扱っています。カップ全体に描かれた金魚や花々は、九谷五彩の鮮やかな色彩とともに、食卓にやさしい華やかさを添えてくれます。

また、美山窯では「北斎」をテーマにした九谷焼シリーズも展開されており、筆をとって北斎の世界観を器に再現する職人たちの姿は、見ても息をのむような緊張感と集中力が伝わってきます。伝統と創造の間で生まれる器たちは、国内外の多くの方々に親しまれているそうです。

【九谷焼とは】
石川県南部で生まれた色絵磁器で、鮮やかな九谷五彩(赤・青・黄・紫・緑)による絵付けが特徴です。古典柄からモダンな意匠まで幅広く展開され、世界でも評価されています。詳細は九谷焼コレクションページをご覧ください。


道すがらに見た風景─震災の爪痕と再生への歩み

珠洲から輪島へと向かう道中、幹線道路の一部はいまだ工事中で、傾いた家屋や、解体を待つ建物がそのままの姿で残っていました。とりわけ胸を打たれたのは、かつて多くの人で賑わっていた輪島の朝市通りの変化です。震災直前に歩いたその道は、今は封鎖され、広々とした更地となっていました。かつての風景との落差に、言葉を失いました。

それでも今、少しずつではありますが、輪島の職人さんたちが現地に戻り、再び手を動かし始めています。ただし、自宅兼工房としていた方も多く、制作場所が確保できずにいる現実や、公費による解体が進みきっていない現状も垣間見えました。被災の影響は、まだ深く、生活と制作の両面に影を落としています。

私たちにできることは決して多くはありませんが、それでも、今の自分たちにできる形で、少しずつ支えていけたらと思っています。小さな行動の積み重ねが、やがて確かな力になることを信じて。



おわりに─出会いと対話が紡ぐもの

石川県の工芸については、すでに別の記事でも一部触れてきましたが(なぜ北陸には工芸品が多いのか?─自然・歴史・文化が紡いだものづくり)、本記事でも共通する視点を重ねながら、現地で出会った“手仕事の力”をお伝えしてきました。

石川の工芸を巡る旅は、ただ美しい品に出会うだけのものではありませんでした。そこには、作り手の姿や土地の記憶、受け継がれてきた技といった“物語”があり、それに触れる時間そのものが、旅の豊かさを深めてくれたように思います。

実際に現地を訪れ、職人の方々と語り合い、作品に手を添える。その一つひとつの体験が、自分の中に静かに積もっていく感覚がありました。
どのように作られているのか、なぜこの技法にこだわるのかを知ることは、その品の奥にある思いや歴史に耳を傾けることでもあります。

また、他の産地の取り組みやお客様の声をお伝えするなかで、「そういう視点は新鮮だった」「次のヒントになりそう」と、職人の方々に喜んでいただける場面もありました。そんなやりとりの一つひとつが、小さくとも確かなつながりなっていく気がしています。


(写真:金沢のCRAFEATにて。輪島塗の器でいただく能登のお酒とさざえ。輪島塗や高岡銅器、山中塗など、北陸の工芸に携わる取引先の方々と語らいのひとときを過ごしました)