ツキ板、森工芸の挑戦と可能性【日本工芸コラボトークvol.13】
森工芸さんは、木を紙のように薄くスライスした木材『ツキ板』を貼ることを専門に製作されています。70年の歴史を経て代々受け継いできた技術や木の知識を活かして様々な意匠を提案し続けています。
今回は、森さんに開発秘話や海外展開への挑戦の裏側などを伺いました!日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。
祖父の代から続く木工技術・ツキ板
松澤:本日はお時間を作ってくださりありがとうございます。早速ですが、御社のご紹介をお願いいたします。
森さん:森工芸の森寛之と申します。祖父の代から70年、私は三代目になります。徳島市内でツキ板の製造を専門としています。
ツキ板というのは、紙ほどに薄くスライスした木をベニヤ板やMDFに貼り付ける作業のことです。主に家具や店舗内装、木工製品全般の表面材に使われる材料の製作を中心に行なっています。
また一般的な突き板の使われ方以外にも、二代目である父が、突き板を使って、模様を作ったり絵画にしてみたりと色々と挑戦いたしまして、弊社にしかない特徴のある加工技術が生まれました。
そういった技術を応用してテーブルの天板だったりとか家具の中で一部変わった貼り方で模様をつけるということを特徴としております。
松澤:木に加工を施し、素材としてメーカー様に納品するというのがベースになるんですね。
スライスの手法にはどういったものがあるんですか?
森さん:まず、弊社ではスライスは行っていません。スライスされた状態のものを仕入れている形です。
主なスライス方法がいくつかあり、それによって出てくる模様が違ってきます。例えば、大根の蔓剥きのように丸太の円周をぐるっと剥く手法は「ロータリー」と言われ、一番幅が広く取れます。
また、「板目」という手法は、丸太に対して垂直にスライスします。「たけのこ模様」と言いますか、ウニャウニャとした感じでいわゆる木目模様になります。
もう一つ「柾目」という手法があります。丸太の年輪に対して半分にスライスしていきます。これは真っ直ぐな縦線模様になります。お客様の好みや用途に合わせて、貼り合わせた合板を制作しています。
ツキ板販売のルーツは?
松澤:なるほど。前後しますが創業の背景をお伺いしてもいいですか?
森さん:開業したのは、約70年前の祖父の代のことです。現在では、徳島市内は、木工所が多い地域になっていますが、海軍が造船の管理をしていた頃はそのほとんどが船大工でした。
そして、明治維新後、船大工が技術を応用して鏡台や仏壇を作るようになった事が徳島の木工の基礎となり、この流れの中で自然と木工産業の一役を担うようになった事が森工芸の創業の背景です。
(注釈※明治維新まで阿波藩(徳島)では阿波水軍と呼ばれる水軍があった事から木工造船が盛んであった歴史があります。)
また、この地域の特徴は、分業体制です。生地の生成やツキ板、塗装屋など細かく小さな分業がなされています。
松澤:そのなかで森工芸さんはツキ板を専門とされていたわけですね。
森さん:はい。徳島の木工の作り方の特徴は後貼りと言って、箱を作ったあとにツキ板を貼る作業になります。貼ったものを組み立てる先貼り一般的ですが、開業当時は後貼りが主でした。
その後、時代の変化とともに、現在では弊社でも貼ったものを組み立てる先貼りを主に行っていますが、後貼り技術も受け継がれています。
(写真:instagramでのライブ配信画面)
(注釈)0.2mm~0.25mmの厚みのものを薄突き、0.5mm~0.6mmの厚みのものを厚突き呼び、このツキ板を合板やMDFの表面に貼ったものは『化粧合板』と言います。家具や建築内装材、木製品全般の材料として幅広く使用されています。(許可得て写真転載)
ツキ板業界への影響
松澤:ところで、ツキ板業界全体のお話をお伺いしたいです。現在、この業界の大まかな背景や立ち位置はどういったものになるのでしょうか。
森さん:業界の性質上、インテリアの流行には大きな影響を受けます。最近では発注で上がるのは、オークやオールナットだったり、チーク材の明るいものだったりします。
松澤:流行に合わせて制作されているんですね。
森さん:そうですね。インテリアデザイナーさんから依頼を受けることもありますが、他のインテリアとの調和が大事なんだと思います。
松澤:ロシア・ウクライナの影響はありますか?
森さん:物流は結構厳しいです。木材はロシアから輸入していたものも多かったのですが、コストが高くなっていますし、そもそも木材自体が買いにくくなっています。いろいろと変化の多い二年間ですね。。
松澤:最近は、どの業界も苦労されていますね。
二代目の技術を生かしたツキ板商品の開発
森さん:もともとは、材料の下請けの会社なのですが、先ほどもお伝えした通り、うちには特徴的な技術があるのでそれを活かせないかということで自社製品の開発に挑戦しました。県主催のプロジェクトで、中小企業の商品を海外の展示会に展示するという企画があり、商品開発から販売まで実際にサポートしていただける機会を得ました。
実際にできたのは、このトレーです。欧米を中心とした外国で人気があるのは大きめのもので、直径が44cmになります。小さい方は28cmで、日本の暮らしに馴染みやすいサイズですね。
また、丸い形状のほかに長方形もあります。
太陽にかざすととても綺麗なんですよね。デザインもシンプルで飽きにくいのではないかと思います。
松澤:木の種類もいくつか紹介していただけますか?
森さん:これはホワイトシカモアと言って外から中心に波紋のような模様が特徴です。木の癖として、光沢部分が多く含まれています。ヨーロッパ原産です。
黒檀;黒い中にラインを貼っています。また、ホワイトシカモアを藍染にしたものもあります。
松澤:藍染ですね。
森さん:藍染は徳島県の伝統産業であり、この技術を活かすことは地場産業にも繋がります。木工の産地でもあるこの地域で藍の青と木工をコラボさせることはプロジェクトのテーマでもありました。
闇雲に染めるのではなく、せっかくなら染めることで素材の良さが生かされる木を見つけ出すことが重要だと考え、試行錯誤を繰り返しました。最終的にホワイトシカモアの光沢が藍染することでより際立つことに気がつき、この木にしました。
松澤:御社の商品は、木が組み合わさって作られていると思うのですが、スタッフの間で、この模様はどうやったらできるのだろうと話題になりました。
お話できる範囲内で大丈夫ですので、技術面で工夫したところがあれば教えていただけますか?
森さん:扱っているものが「木」ですので、天気や状態によって伸び縮みしていたり波打ってるものもあります。木目を綺麗に取るためにどの木を選ぶかというところから注意を払っています。
次に、15度ちょうどの定規でそれぞれカットしていきます。スライスされたツキイタがズレていると完成したときの模様までズレてしまうので、慎重に作業します。
また、中心から同心円状に広がる模様の作り方は、ツキイタの張り合わせ方によって決められます。1枚目から24枚目まで順番に置いていくだけではうまく模様が現れません。右側に一枚目をおいたら2枚目は左側に重ねていく、というように交互に張り合わせていくことで模様が安定していきます。
松澤:バラバラのものが組み合っているはずが、全体としては、樹木の年輪のように規則正しく並ぶのは、技術力が出るところなのかなと思います。
森さん:出来上がりを想像することが重要です。改めて、この商品は、手元で太陽の元でやると綺麗なんですよね。シンプルで飽きもこないデザインかと思います。
コロナ禍、海外へのツキ板販売
森さん:この商品が企画されたのは2019年のことで、展示会は2020年の1月に開催されました。海外での取り組みは、コロナの影響で思い通りになったとは言えない現状です。
この商品は、もともとは、ロサンゼルスとポルトガルの店舗に出荷する予定でした。量産への準備ができたところで、コロナが蔓延してしまい、片方は注文を保留してほしいという連絡が入り、もう一方は音信不通になってしまいました。
出鼻を挫かれた思いになりましたが、せっかくなので、自社での販売にチャレンジしてみることにしました。地道にちょっとずつという感じですが、フランスとアメリカと中国、シンガポールの4カ国には販売を開始しています。
松澤:販売形態はどういったものになるんですか?
森さん:地域によってそれぞれです。小売店のところもあれば卸もあります。
松澤:繋がりが生まれたポイントっていうのは、地域によって特色があったりするんですか?「技術面」だとか「色合いの好み」だとか。
森さん:一つは、シンガポールのお店さんとの繋がりは、メゾンオブジェの会場で実際に弊社の商品をご覧いただいたところからでした。
また、イギリスのECサイトさんからは、インスタから連絡をいただきました。いろんな地域に発送しているという点で海外販売の売り上げはここが一番多いです。ECサイトなので個人への販売になるのですが、びっくりするようなところから注文をいただいたりもしています(笑)
松澤:コロナが無事終息したら展示会も行われるようになりますが、海外の新しい攻め方についてはどのように考えていますか?
森さん:ヨーロッパやアメリカなどの欧米は、物流コストが上がっていますので、近隣の国である中国が大きいマーケットになっているのかなと思います。この国は、weiboなど独自のツールがあると思うので、これから勉強していきたいと考えています。
松澤:当社でも、中国へのライブコマースを実施したところ多くの人に認知していただきましたよ!
森さん:色々教えていただけるとありがたいです。ライブコマースが盛んなイメージがありますが、そこから実際に売れるんですか?
松澤:中国では、ふらっと販売して売れるものでもないですね。ちゃんとした流通ルートを確保することが大切です。模倣されてしまうとあとで取り返すのが大変なので、商標を取るのが得策かと思います。しかし、国内商標に加えて、海外もとなるとコストもかかりますし、ターゲットをうまく見定める必要がありそうですね。
伝統を引き継ぎつつ顧客のニーズに応えていく
松澤:ところで、コロナ禍の現代においてウェブの活用は重要になってきますよね。
森さん:そうですね。本業であるツキ板の発注が影響を受けたことで、時間を持て余すようになりました。そんななかでプロジェクトで開発した商品が手元にあったので、販路を拡大したいと思い立ちました。
インターネットの活用についてはそんなに詳しくないので、知り合いの方に協力いただいたりしつつ、ホームページとECサイトの作成は、この期間で頑張りました。
松澤:インターネットに関しては積極的に取り組まれている印象があります。動画や写真もシーンによって使い分けられていますよね。
森さん:ありがとうございます。写真っていうのは商品のイメージを伝える上で重要ですよね。モデルハウスをお借りしてイメージ写真を撮ったりしています。
松澤:動かすと色味が変わる商品は動画での紹介が有用ですよね。
森さん:そうなんですよ!徳島県の代表的な産業である藍染と木工のコラボ商品は、木の色本来の明暗を楽しんでもらえるように、特に力を入れました。
松澤:話は尽きませんが、時間が近づいてきてしまいました。最後に今後の取り組みについて何かお考えはありますか?
森さん:トレーは、販売していただける場所が既にいくつかありますので続けていただけるようしたいです。いまの規模感の程度が対応しやすいので、商品のラインナップはこのままでいいと考えています。お店を新しく開業するときなどに、テーブルの天板やその他諸々の特注依頼が来ることがありますのでそういった従来のオーダー対応は継続していきます。
また、ホームページを設置してからは個人のお客様からもご連絡をいただくことがあります。こちらも大切なニーズの把握になります。
松澤:メーカー様だけではなく、個人のお客様にも対応されているんですね。
森さん:ECサイトは実際に写真や動画を乗せることができるため、良いものが作れることを知ってもらいやすいことが強みだと思っています。これからもお客様の要望に沿ったこだわりのものを作っていきたいと思っています。
松澤:改めてお時間いただきましてありがとうございました。
我々も、今後、色々な取り組みにご一緒できたらと思っています。
森さん:こちらこそありがとうございました。
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