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記事: 山形鋳物の伝統美を現代の生活様式へ!【日本工芸コラボトークvol.9】

山形鋳物の伝統美を現代の生活様式へ!【日本工芸コラボトークvol.9】
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山形鋳物の伝統美を現代の生活様式へ!【日本工芸コラボトークvol.9】

インスタライブで開催される「日本工芸コラボトーク」。第9回目は、鋳心ノ工房鋳金家・デザイナーの増田尚紀さんをゲストにお迎えしました。増田さんは、山形鋳物をより身近に感じられるような独自の視点で情報を発信されています。伝統をどのように現代の生活様式に取り入れていくのか、増田さんのデザインへのこだわりと商品への思いについて、日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。


山形の銅町で家族で営む鋳心ノ工房、山形鋳物

増田さん:鋳心ノ工房は、1997年に設立しました。もともと僕はデザイン畑出身でしたので、自らのデザインを製造、販売、流通させるということをしています。まあなんとか今日まで二十数年事業を行ってきています。息子夫妻と私と妻と家族四人でやっています。

また、山形の銅町、やっぱり山形は鋳物の発祥の地ですので、いろんな方にも協力していただいています。色々な分業をまとめて一つの製品を作るというやり方をしています。デザインにはこだわっていて、国内だけではなく、海外でも色々な評価を頂いてます。

大きなメーカーではないので、たくさんのオーダーはなかなか受けづらいです。しかしながら、鋳物の素材自体が地味で堅実な素材ですので、私たちとしても一つ一つを丁寧に長くお客様と繋いでいこうというような考えで今日までやってきています。


南部鉄器と間違われがちな山形鋳物ですが、、

松澤:なるほど。鋳心ノ工房さんは山形鋳物でいらっしゃると思うんですけど、山形鋳物自体は、どういう特性でどういう背景か、その辺もちょっと簡単でいいので教えていただいてもいいですか。

増田さん:はい。多分皆さんは鋳物をみると南部鉄って必ず言われるんですね。南部鉄器と山形鋳物の大きな違いっていうのは、南部鉄器っていうのは鉄自体も材料として取れたんですね。一方で、残念ながら山形の場合は、鉄が取れません。ですから山形の場合は「銅」を中心に産業が発展しました。

私の住んでいる街が銅町っていうんですけど、出羽三山っていう山岳宗教について、仏具などが中心に発展してきたところなんですね。また、もっと大きな違いはその歴史です。南部藩は明治になるまでずっと代々続いてきたので、南部の鋳物師ということで3つぐらい今日まで古いところがあります。

一方で、山形はちょっと残念なことに最上義光の時代は非常に繁栄をなしたんですけど、それから明治になるまでお殿様が何代も入れ替わってしまったために歴史的なつながりが少し足りません。それで、鋳物といえば南部鉄っていうことが多くの人たちに認識されていきました。

増田さん:また、山形鋳物の発祥には「馬見ヶ埼川」という川が鍵になります。ご存知ですか、日本一の芋煮会で有名なんですけれども。

松澤:芋煮会、知ってます!

増田さん:そうですか!そこの河原の砂が非常に鋳物に適しており、900年以上前に京都から来た鋳物師がそこの砂を気に入って、鋳物を作りはじめたというのが発祥です。

松澤:なるほど。やっぱり土地に紐づいた製法というか原材料っていうことになるんですかね。

増田さん:そうですね。ですから鉄瓶自体も、一昔前まで、南部鉄器っていうと全部蓋も本体も鉄で作られていましたが、山形の場合は蓋は銅で作られるのが主でした。


増田氏instagramアカウント @hisanori_masuda より引用


生活に溶け込むデザイン

松澤:増田さんと初めてお会いしたのは、確かインテリアライフスタイルショーでした。そこで増田さんはこちらの商品を展示されていたんですが、ケトルの形で可愛らしい鉄器であり、柄の部分だけは木製品でできているために熱くないという素敵なデザインに惹かれてお取引を開始させていただいているっていうような感じですね。山形鋳物である伝統を引き継ぎつつも、現代の生活の中に溶け込むデザインを考えられているように思います。その点についてお聞かせください。

増田さん:大学の時の恩師が、芳武茂介という先生で、この人は山形鋳物を一番初めにデザインした方なんですね。日本で一番初めにできたデザイン研究機関である商工省工芸指導所の研究員でして、その後、武蔵野美術大学の教授となり、縁があり私は先生のアシスタントを務めました。

この組織は日本の伝統工芸を輸出産業にしようということで、作られた組織なんですけれども、ブルーノ・タウトが来たりイサム・ノグチもそこにいたり日本のデザインの中心でした。僕はそういうものの薫陶を受けてきて、生活に馴染むものを目指す志向が生まれました。そのころ、先生たちが一番モデルにしたのは、北欧のデザインで、フィンランドとかデンマークとかのデザインでした。シンプルでモダンなものです。

私たちもその影響で、北欧をイメージした、生活の中に潤いが生まれるような道具を作ろうと今も努力をしているわけです。ですから、「組み合わせ」は大切に考えています。鉄の良さを生かすために他の素材との組み合わせを考えていくということは非常に気にかけて仕事をしています


モダンなデザインの鋳物ケトル、山形鋳物の鉄瓶

松澤:今、我々も販売を開始させてもらっていますが、このケトルはどうしてこの形状にしたのでしょうか。

増田さん:このケトルは弟でしてお兄さんのケトルが前にあります。こちらは1984年に作ったもので真鍮の柄です。これも鉄と真鍮の組み合わせで作ったものなんですけれども、直接ハンドルを持つと熱いと言うことで、こちらのケトルが生まれました。機能性だけでなく、鉄と木が合わさることで生まれるふんわりとした雰囲気も魅力です。

僕としては、今のインテリアやキッチンにフィットしたものを作りたいということで、ハンドルを自然材である木に変えたら大きな反響をいただきました。機能自体は鉄瓶ですので、鉄瓶を扱う上での基本的な決まりごとを意識していただければ、なんの心配もなく使っていただけると思います。



手間をかけて、お茶を淹れる。ほっと一息つける時間の作り方

松澤:機能的な意味でいうと、南部鉄器も同じだと思うんですけれども、水がまろやかになったり、鉄分が取れたりしますね。

増田さん:そうですね。お茶のタンニンと鋳物の鉄分がうまくミックスして、お茶がまろやかになります。今は、コーヒーを淹れる方も増えていると聞きます。逆に白湯だけを魔法瓶につめて利用される方もいますね。健康と結びついた面で、鉄瓶にもう一度、興味を持ってくれてるのかなあとは思いますね

松澤:そうですね。そういう認識は私も持っています。メンテナンス、使った時の注意点やルールなどがあればお伺いしたいできますか?

増田さん:中はタワシとかで洗わなくて大丈夫です。使い終わったら、中の水分だけを余熱で乾燥させてください。蓋もとったほうが乾きやすいでしょう。外も水洗いするんじゃなくて、乾いた布巾などで、ぽんぽんぽんとふく程度で大丈夫です。要するに、水分だけとっていただければ、洗わなくてもいいということを一番伝えたいですね。水を入れたままずっと置いていると錆びてしまいます。

松澤:やっぱり鉄ですから、空気に置いておいたら錆びるので、使い終わったら水分だけ取ることを気にしたらいいわけですね。

増田さん:鋳物は800度で、素焼きをして、酸化皮膜という青い膜がついています。南部鉄器の場合は、そのまま仕上げをしているんですけど、山形鋳物の場合は外も中も「漆の焼き付け仕上げ」というやり方で漆を塗っています

松澤:なるほど。漆を塗ることでどんな効果がありますか。

増田さん:漆は、酸・アルカリに強いので、鉄そのものを守るという効果があると思います。

松澤:本体に多少水分がついてもはじき飛ばすということですか。

増田さん:鋳物の素材に水滴がかかると、少し時間をおくと、すぐそこが赤いあとになってしまうんです。それくらい鉄はすぐ水分に反応してしまうんですね。そういう意味で、漆は大事です。

松澤:なるほど。

増田さん:でもやっぱり水気は必ず除いて下さい。食洗機には絶対に入れるべきではないですね。もし手洗いしても、後は乾いた布で水分をしっかりと拭き取ってください。手間はかかりますけれど、その分、貫禄が出てくるので、そういうことを楽しんでもらいたいなって思います。

松澤:長い時間をかけて手入れをすることが大事なんですね。

増田さん:これはポイントですけど、お湯を沸かして白湯をお茶碗に入れてですね、お湯がそのまま綺麗だったら鉄瓶の中が変色してしまっていても問題ないんですね。その方が鉄分が補給できてるんですね。

ただ、ちょっと使ってて心配だっていうのが、沸かしたお湯が濁っている場合です。そういう場合は、お茶の出汁がらを入れて少し煮立ててください。そうすると、状態が落ち着くんですよね。お茶の成分は錆びを抑える効果があるので。

松澤:先日、その話を聞いて、お茶の思わぬ力に新鮮な驚きを持ったのを覚えています。

増田さん:はい。注意点は火の加減です。ガスの場合は鉄瓶の底より火が出ないように調節してください。火力が強いと漆ぬりでも少し色が変わってしまったりします。あとは、よく修理をいただくときに気付くんですけど、(鉄瓶の利用状況の)個人差がすごいんですよね。火にかけたまま忘れてしまって、空焚きをしてしまったりするのは避けていただきたいです。

ただ、変化してくるんですよ。口の周りとか蓋の周りとか。どうしたって錆びは出てきます。でも、鉄瓶っていうのはそういうものなんですよね。だからこそ、慌てるのではなく、錆びることも「自然」であるとして変わっていく様子を楽しみながら使っていただきたいと思うんです。

お湯を沸かす時間もお茶を飲む時間も楽しんで、ゆとりを持って使っていただけると、鉄瓶の本来の良さがわかっていただけるのかなあと思います。

松澤:ゆっくりとした時間を楽しむのはすごくいいですよね。



鉄瓶だけじゃない!愛らしい小物でイメージが一新

松澤:鉄瓶だけじゃなくて箸置きなど様々な商品があるなあという印象を受けます。こういった多様な発想とアイデアはどのように形にしていらっしゃるのか、こだわりなどをお伺いしたいです。

増田さん:妻からも作りすぎだと叱られているんですけれども、作ることは楽しいんですよね。一方で売ることは難しいといつも思います。

松澤:分業ですからね(笑)

増田さん:色々と作ることによってお客様の反応を伺うことができます。やっぱり全然リピートがないものもありますし、このケトルのようにハンドルを変えたことで何十年と買っていただいているものもあります。やっぱり見ていただかないと、選択肢も広がらないなということで色々とやっています。

これもなんですけど、イギリスのロンドンのレストランで使っていただきました。小物っていうのは、皆さん興味を持ってくれるんですね。箸置きだけではなく、文鎮で使っていただける人もいます。


松澤:洒落てますよね。

増田さん:これも箱に詰めてギフトにしたらすごく反響をいただけるようになりました。

他の製品でも、インテリアライフスタイルショーに展示した際に反響がありました。これらは女性の方から可愛いという声を多くいただきました。鋳物はどこか普段の生活から遠く、可愛いと言われることもなかったので、嬉しかったですね。

松澤:鋳物は力強いイメージだから、どっちかっていうと可愛いというよりはかっこいい感じですね。

増田さん:小さな花瓶ですけど、テーブルの上で、ドライフラワーを入れておくと可愛いです。

これらの商品が鉄鋳物を知るきっかけになって、鉄瓶とか鍋敷とかお鍋とかフライパンとか、次に興味を持ってもらえるようになる糸口になればいいなと思いますね。

松澤:もう一度メガネの前に持ってきていただいても大丈夫ですか。相当小さいんですね。

増田さん:小さい(笑)実は仕上げたりするのに手間がすごくかかるんですけど。小さなものの魅力ってあると思います。箸置きがメインですけれども。

松澤:カタログに商品がたくさんあって選ぶのが大変でした。スタッフの間で人気投票をしたんですよ(笑)

増田さん:ハートは、バレンタインでも使っていただけますよね。なかなか鋳物のプロダクトでバレンタインに合わせて使っていただくものってなかったので。
作り方は砂型鋳物と言って、基本的に砂を固めてその隙間に流すというシンプルなものです。

伝統工芸の素材の中でも、金属で、特に鉄は、なかなか皆さんに接する機会が少ないのかなと思っているので、皆さんが興味を持ってもらえる素材になればいいなと思っています。


松澤:これ以外にもお香立ても作られていて、木とのコラボという点でとても魅力的だと思いました。こちらも少しご紹介していただいてもよいですか。

増田さん:コロナ禍になって、香りっていうのがまた見直されてきましたよね。日本のお香を焚く道具ということで、売れていますね。特に僕の場合は、お線香に特化しています。

これは蓋と本体ですけれども、それぞれお香入れとお香立てですけれどギザギザですよね。茶の湯釜に伝わる「羽落ち」という金槌で叩いて形をつくる技術です。このギザギザは、自然にできる形なので一つ一つ全部違います。型で作っているけど結果的には、その人のものはその人のものでしかありません。あとはもうひとつ、木の板で作られた蓋もあります。やっぱり木と鉄との相性はよいですね。

ヨーロッパで広がる鉄瓶の新たな使い道とは

松澤:海外への取り組みについて増田さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

増田さん:ヨーロッパでは、お茶とお香が人気です。鉄瓶をティーポットとして使えないか、と相手方から使い方を提案していただいたところからスタートしました。また、日本のお線香だけではなくていろんな太さのお線香に使えるように対応したらどうですかなど相手方からアドバイスをいただきました。お線香は今もロングセラーです。ヨーロッパの人たちから見た日本の文化に対する視点はすごく参考になりました。

松澤:なるほど。展示会に出て、色々な出会いの中からニーズも見えてきたっていう感じですかね。

増田さん:ティーポットにしても、日本人が考えているものとはまた別の発想ですね。この間はフランスでホットチョコレートを入れるということで、チョコレートのフェスティバルに鉄瓶を貸してくれという依頼を受けました。全く山形に住んでいる僕の日常とは離れているものを感じました(笑)


時間をかけて楽しむ鉄瓶の魅力

松澤:そろそろお時間になりました。聞いている方も工芸ファンの方が多いと思いますので、山形鋳物についてメッセージがあれば、いただけたら嬉しいです。

増田さん:鉄は長生きなんですね、私たちよりも。だから丁寧に使って、自分の世代だけではなくてその次の世代にも手渡すことができると思います。だから長くお付き合いしていただきたいなと思っています。(鋳物は)付き合っていると良さがわかる素材のように感じます。地味な素材なんですよ。

日本の方は鋳物を持つとすぐ「重い」だとか「錆びる」だとか言われるんですけど、海外のお客様からは「適切な素敵な重さ」だとその重さをマイナスではなく、プラスに捉えてくださることがあります。祖母や母が使って日が経ち錆びてしまったものも修理をすれば使えるようになります。そこに命が宿るわけですよ。そういう鉄瓶の「重さ」のようなものもどんどん楽しんでいただきたいなと思います。

松澤:我々も販売を通してですけど、増田さんが言われたような思いを持ちながらこういう活動を継続できたらなと思います。今後も、色々発信していく予定ですので、ぜひお付き合いいただければと思います。本日はありがとうございました。

増田さん:こちらこそありがとうございました。

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