忠保
【 東京手仕事 】
5000を超える工程から生まれる
総合工芸
昭和39年創業。5月の節句人形にも使われる甲冑づくりに取り組んでいるのが株式会社忠保(ただやす)だ。ひとつの甲冑を組み上げるまでに行われる工程は5000を超え、ほとんどの工程が熟練の技術を持つ職人の手作業によって作られている。
一枚一枚に糸を通して編んでいく縅、短冊形の革や鉄板を組紐や革紐でつなぐ小札など、手作業でなければ不可能な工程の数々。そこに反映される技術は、金の加工、組紐、皮革工芸のほか、さまざま。日本の工芸が誇る技術が結集した総合工芸、それが甲冑なのだ。
忠保の甲冑の特徴は「本物志向」。入念に時代考証を行い、細部に渡って、本物の甲冑の特徴を再現している。工房には「家康」「毛利元就」「義経」など、歴史上の武将の名前が飛び交い、作られる甲冑の名前には、「白糸褄取大鎧」「赤糸縅大鎧」など伝統的な名称が付けられているものも多い。
また、トンボや竹、虎など、武将たちが勝利の思いを込めた生地の柄や飾りを使うなど、見えない部分にもこだわる。それば、美意識を競って甲冑を作らせた、武将たちの思いそのままである。
そんな甲冑は、節句人形として贈られることが多い。そこには、知性、仁徳、勇気を兼ね備えた武将たちのように、成長してほしいという願いも込められている。そんな私たちの思いを編み込み、織り込んで、輝く甲冑は作られている。
「いつか甲冑が作れなくなる」
危機感から生まれた新商品
高い品質で評判の忠保だが、社長を勤める三代目大越忠保氏には、切実な危機感がある。「各地で職人が少なくなっています。甲冑を造る人、そして甲冑づくりを継ぐ人もいなくなっているんです。
このままでは、いつか、重要な部品が作れなくなり、甲冑が作れなくなる。世界に誇る日本の技術が失われるかもしれないんです」。甲冑づくりの将来への憂い。その悩みを、次の世代に受け継ぐ前に終わりにしたい。だからこそ忠保氏は、世界に目を向けた。
生まれたのは、甲冑を日本酒やワインなどお酒のボトルに着せて飾る「ボトルアーマー」だ。一升瓶やワインボトルにぴったりの大きさの甲冑は、素材や作り方など、細部に至るまで、本来作られる大きな甲冑と変わりない。小さくなるほど作業も細かくなり、時間も手間もかかる。
しかし、本物へのこだわりに妥協はなく、小さくも重厚感のある、酒瓶のための鎧ができあがった。かつて武将の命を守っていた甲冑は、大切な思い入れのある1本の酒を日光などから守りつつ、美しく見せてくれる工芸となったのだ。
Buyer’s Voice 代表・松澤斉之より
新しいニーズを掴む
人形業界の新たな可能性
初めてボトルアーマーを見た時「かっこいい!」以外の言葉がでなかった。実は、かなりの歴史好きで、歴史をたどる旅に行くこともある。旅先で、その土地に歴史に触れたときに感じる高揚感のようなものを、博物館などに展示されている有名武将の鎧をそのまま小さくしたようなボトルアーマーからも感じた。
大越さんは三代目。多くの甲冑制作工房が廃業していく中「甲冑を造る仕事はすごく楽しい」と言い切る。楽しいから、次世代に残していきたいと。その思いが、甲冑の新しい需要を喚起する商品を作り出したのだろう。
大越さんの目は日本の市場だけを見ていない。一升瓶だけでなく、ワインボトルにぴったりのサイズのボトルアーマーを作ったことからもそのことがわかる。
「日本の伝統技術と美意識を、世界に伝えたい」と言う。私たちにできるのは、そんな思いのこもった逸品を、商品についての正しい知識と一緒にひろげていくことだと思っている。
奇しくも海外で日本の鎧が芸術としても高い評価を浴びつつある今。クールなジャパンブランドのひとつとして、海外の注目を浴びる日は遠くないだろう。
*ボトルアーマーの設置動画
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