グラスアート黒木

宮崎県東諸県郡綾町に拠点を構える「グラスアート黒木」は、1989年創業のガラス工房です。主宰は、ガラス工芸の分野で初めて「現代の名工」に選ばれた黒木国昭氏。西洋の素材であるガラスに、日本の蒔絵や象嵌などの伝統装飾を融合させ、「光琳」シリーズをはじめとする独自の世界観で多くの人々を魅了してきました。
創作の原点は1963年、集団就職で上京した黒木氏が、ガラス工場の片隅で夕日に照らされたガラス屑の美しさに心を奪われた体験にあります。当時、ガラスは実用品としての需要はあっても、アートとしての認識は乏しい時代でした。そんな中、黒木氏は独学で彫刻技術を習得し、美術館に通って感性を磨きながら、ガラスで日本美を表現する道を模索しました。
転機となったのは、琳派の作品との出会いです。尾形光琳の「紅白梅図屏風」などに見られる大胆な構図や金箔、蒔絵の装飾表現に、日本の自然と美意識を見出し、「西洋がルーツのガラスを、日本人の感性で昇華できる」と確信。以降は琳派や日本文化を徹底的に学び、自らの表現を磨き続けました。

その後、鹿児島県の島津家から「薩摩切子の復元をしてみないか」との依頼を受け、資料がほとんど残されていない中で、わずかに現存する作品を分析し、2年の歳月をかけて復元に成功。この経験をもとに、工房のある綾町の照葉樹林などの自然をテーマに「綾切子」が誕生しました。琥珀色を基調にした多色切子の輝きには、土地の風土や木の温もりが宿っています。
グラスアート黒木の創作は、職人同士の連携があってこそ成り立ちます。調色やパーツ制作、吹きガラスの補助など、多くの人の手を経て一つの作品が形づくられます。現在は、長年共に創作に携わってきた後継者がその精神と技を受け継ぎ、新たな世界観を築き始めています。
『ガラスで語る日本の美』を掲げ、工芸作品の制作のみならず、空間装飾や記念品、作品レンタル、個展開催など多岐にわたる活動を展開。令和7年には「綾ガラス」が宮崎県の伝統工芸品にも指定されました。
色褪せないガラスに込められた哲学と創造力が、今も日本の美を語り続けています。
