「伝統工芸」ってそもそも何ですか?
世界から注目されている日本の伝統工芸。繊細なデザインや高い機能性など、日本ならではの技術と細かな心遣いから生み出される製品は、年代も国も超えて、多くの人の心を捉えます。
でも「伝統工芸」とはどんなものなのかご存じでしょうか。
よく寄せられる「どれが伝統工芸なの?」「伝統工芸の定義って何?」というお問い合わせにお答えして、改めてご紹介します。
伝統工芸とは?
昔から作られているものであれば、すべて伝統工芸、というわけではなく、ある一定の特徴をもつものだけが伝統工芸と呼ばれます。さらに、伝統工芸を保護し、発展させていくために、日本には伝統工芸を守る法律も制定されています。
伝統工芸の定義
伝統工芸の特徴は大きく4つ。
- 日常生活で使われるものを作っている
- 工程の多くが手作業で行われている
- 高度な技術を必要とする
- 長く受け継がれてきた歴史がある
です。
大切なのは、最初の「日常生活で使われるものを作っている」ということ。芸術的な価値をではなく、毎日の暮らしで愛用され、私たちの暮らしを支えてた技術が伝統工芸なのです。
伝統工芸の技術を使って作られたものが「伝統工芸品」と呼ばれます。
伝統的工芸品とは
伝統工芸は、長年にわたり高い技術を保ち、受け継いできました。しかし、ライフスタイルが変わり、大量生産、大量消費の時代に入ると、その技術は工場などで機械生産される製品に押され、少しずつ生産量も受け継ぐ人も減少してきました。
1974年、日本の伝統工芸を守り、技術を受け継ぐ法律「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」が制定。この法律に基づき、経済産業大臣によって、全国の伝統工芸の中でも代表的なものが「伝統的工芸品」として指定されているのです。
令和6年10月17日現在、日本の伝統的工芸品として指定されているものは243品目。
その指定要件は
- 主として日常生活の用に供されるものであること。
- その製造過程の主要部分が手工業的であること。
- 伝統的な技術又は技法により製造されるものであること。
- 伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるものであること。
- 一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているものであること。
の5つです。
中でも、伝統的と認められるためには100年以上の伝統があること、とされています。
このほかにも、各都道府県の知事が指定する各都道府県を代表する伝統工芸品もあります。いずれも、その土地で育まれ、愛されてきた技術です。地域が誇る伝統工芸を守り、発展させることで、後世に日本の文化を残していこうとしているのです。
伝統工芸のマーク
国が指定する伝統的工芸品には、指定のマークを付けることができます。伝統証紙とも呼ばれており、長年の歴史を受け継ぐ手作りの製品の証にもなっています。
そのほかにも、各地域で作られている伝統工芸のマークもあります。工芸品を見るときに、確認してみてもいいかもしれませんね。
日本の伝統工芸にはどんなものがあるの?
日本の伝統的工芸品に指定されているのは243品目。漆器、焼き物、織物、木工など、さまざまな種類のものがあります。その代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
○漆器
日本の伝統工芸で世界的にもよく知られているものの一つが漆器。木や紙の上にうるしの木からとれる樹液を塗り重ねることで、器などの強度を高め、使いやすくする目的があります。
漆器の産地は、青森の津軽塗から沖縄の琉球漆器など全国に点在しています。
中でも有名なのが、会津漆器(福島県)、小田原漆器(神奈川県)、輪島塗(石川県)、山中漆器(石川県)、金沢漆器(石川県)など。
特に石川県の3つの漆器産地は「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と呼ばれ、それぞれ個性のある漆器を生産しています。
○陶磁器
陶器と磁器の違いは、原材料と焼き方。陶器は陶土と呼ばれる粘土を使い、800~1250度で焼きます。吸水性が高く、ぬくもりが感じられる素朴な厚手のものがほとんどです。
磁器は陶石を粉砕して粘土に混ぜて使います。1200~1400度で焼くことで、堅く、薄く、なめらかな肌触りの器になります。
代表的陶磁器の産地には、益子焼(栃木県)、九谷焼(石川県)、美濃焼(岐阜県)、瀬戸焼(愛知県)、信楽焼(滋賀県)、備前焼(岡山県)、有田焼・伊万里焼(佐賀県)、波佐見焼(長崎県)などがあります。
○金工
刀剣ブームもあり、見直されている日本の金工。カラフルな鉄瓶などが海外からも注目を集めています。
日本の金工の始まりは生活を守るための農業の道具づくり。その技術は刃物づくりや生活の道具づくりに受け継がれ、現在も、鉄や銀、銅などを使った、刃物や器、鉄瓶などが製造されています。
主な産地には、南部鉄器(岩手県)、燕鎚起銅器(新潟県)、高岡銅器(富山県)、大阪浪華錫器(大阪府)など。刃物や器だけでなく、象がんなどの装飾品もあります。
○木工
その手法は、木を組み合わせたり、曲げたりするもののほか、彫刻を施したり、樹皮を活用したりとさまざま。いずれも、木がもつ表情をそのまま生かした、自然の美が感じられるものです。
主な産地には、樺細工(秋田県)、大館曲げわっぱ(秋田県)、紀州箪笥(和歌山県)、別府竹細工(大分県)などがあります。
○染め物・織物
主な産地には、織物に結城紬(栃木県)、西陣織(京都府)、博多織(福岡県)、本場大島紬(鹿児島県)、琉球紬(沖縄県)など。染め物には、東京染小紋(東京都)、加賀友禅(石川県)、京友禅(京都府)、琉球紅型(沖縄県)などがあります。
○その他の伝統工芸
そのほか、日本の伝統的工芸品には、京扇子などの和紙工芸、江戸切子などのガラス工芸、江戸木目込人形などの人形工芸、熊野筆などの文房具、越前和紙などの和紙工芸もあります。
みなさんが住んでいる地域にもきっとある、日本の伝統工芸。ちょっと調べてみると、知らなかった歴史が見えてくるかもしれませんよ。
伝統工芸ってどんな風に受け継がれてきたの?
100年以上の歴史がなければ、指定されない日本の伝統的工芸品。その技術は、どのように受け継がれてきたのでしょうか。
職人になるにはどうしたらいいのか、現在はどのように職人技を伝承しているのか、伝統工芸の今を知ることで、これからの伝統工芸が見えてきます。
伝統工芸の職人には免許や資格はない
伝統工芸を受け継ぎ、発展させてきた職人たち。大工や左官などの職人に一定の資格制度がるのと異なり、伝統工芸の職人には、免許や資格はありません。多くの工房が、それぞれの伝統工芸に興味をもった人たちを弟子として受けいれ、技術を教え、受け継いできました。
一定の技術を受け継いだ後は、そのまま工房で働き続けたり、独立したりして、自らの技術を磨き、一人前の職人として認められるよう、精進する、という仕組みです。
最近では、各県の伝統工芸をより多くの人に受け継ぐため、都道府県などが運営する職人養成施設もできています。基本的な技術を学んだあと、地域の工房で実際に工芸品の制作を行いながら、技術を磨いてきます。
一定以上の実務経験を積み、専門的で高度な技術を身に着けた職人は、国の伝統工芸士の試験を受験することも。技術の高さを認定し、多くの人に伝統工芸を教えることを認める資格で、全国で5,000人ほどが登録しています。
伝統工芸に興味を持つ若者も増加
高齢化がすすみ、技術の継承が危ぶまれていた伝統工芸の世界。従事者の数は減少傾向にありますが、近年では、20~40代の従事者が増加しています。
「個性が生かせる」「モノづくりへの魅力」を感じる若者が増え、新たな感性で作られる伝統工芸品も人気です。
伝統工芸は、技術やデザインを受け継ぐだけでなく、その時々の生活様式に合わせて、当時の最先端の技術を活かしながら、変化し、発展し続けたからこそ、今も愛され、生き続けているものです。
今後、新しい感性を生かして、どんな製品が生まれていくのか。若い伝統工芸の継承者増加に、期待したいですね。
日本の伝統工芸、次世代に伝えよう
暮らしに根付いた技術として、長く受けつがれてきた日本の伝統工芸。長い歴史が作ってきた技術を使い、人の手から生み出される伝統工芸品には、年代を超えて人の心をつかむ「何か」があるように思います。
大量生産品に押されて、私たちの暮らしから少し遠ざかってしまった伝統工芸品ですが、よいものを大切に、長く使う生活様式を教えてくれるものでもあります。皆さんの暮らしに、日本の伝統工芸を一つ、取り入れることは、丁寧な暮らしやうるおいのある毎日のきっかけにもつながるのではないでしょうか。
日本が誇る技術を未来に受け継ぐためにも、伝統工芸の良さを見直し、広い世代へ、世界へ、発信していくことが需要だと、私たちは考えています。
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