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記事: 【伝統工芸の旅】綾ガラスの里──自然と技術が織りなすガラス工芸(宮崎)

【伝統工芸の旅】綾ガラスの里──自然と技術が織りなすガラス工芸(宮崎)
#伝統工芸の旅

【伝統工芸の旅】綾ガラスの里──自然と技術が織りなすガラス工芸(宮崎)

全国各地には、その土地ならではの伝統工芸を受け継ぐ職人や工房があり、日本の文化を支えています。日本工芸堂の代表・バイヤー松澤が作り手をたずねる「伝統工芸の旅」。

今回は宮崎県綾町にある「グラスアート黒木」を訪ね、ガラスという素材に込められた自然観や、つくり手たちとの対話を通して感じたことをお届けします。実際に当店でも取り扱っている品の工程を目にしながら、“いい品”を選ぶ意味を改めて深く考える旅となりました


綾町・グラスアート黒木の工房を訪ねて|自然とともに生きる場所で

宮崎空港に迎えに来てくださったご担当の方と合流し、車で約40分。たどり着いた綾町は、照葉樹林と清流に囲まれた自然豊かな町でした。オーガニックな農業や持続可能なまちづくりでも知られ、ユネスコエコパークにも登録されています。

グラスアート黒木の工房は、酒造会社「雲海酒造」が運営する「酒泉の杜」の一角にあり、観光施設とものづくりの現場が隣り合うユニークな立地。

展示スペースでは、ギフト向けの作品から美術工芸品まで多彩な作品が並び、工房との行き来もすぐ。つくる現場と見る場所が地続きになっている環境に、ものづくりの奥行きを感じます。

グラスアート黒木の詳細はこちら


写真:山と川を背にした酒泉の杜。この一角にグラスアート黒木の工房がある。


綾ガラスとは?|自然を映す伝統工芸×現代デザインの融合

綾ガラスは、1997年に黒木国昭氏によって創作された現代のガラス工芸で、2025年には宮崎県から伝統的工芸品としての指定を受けています。代表作である「綾切子」は、三層・四層の被せガラスによって、照葉樹林の深い緑や木漏れ日のような光を映す、奥行きある色彩表現が特徴です。

ガラスという西洋の素材に、日本の感性や装飾美を融合させたこの表現は、自然と文化の結晶とも言えるもの。現代のライフスタイルにもなじむ“静かな華やかさ”が、多くの人々を魅了しています。

綾ガラスの詳細はこちら

写真;自然豊かな宮崎県綾町の風景と、グラスアート黒木のフラワーベース。

灼熱の制作現場|吹きガラスの技術と素材へのこだわり

真夏の工房内は、扇風機だけが頼りの灼熱空間。そんな過酷な環境のなか、職人たちは静かに集中を切らすことなく、溶けたガラスに息を吹き込み、色を重ね、かたちを整えていきます。その姿からは、ひとつの作品にかける緊張感と誇りが伝わってきました。

今回の訪問では、日本工芸堂で取り扱っている「綾ガラス」と同様の技法で制作される作品の工程を、目の前で見ることができました。炉の熱、揺らぐガラス、絶え間ない手の動き──どれもが想像以上に繊細で、力強いものでした。

工房横の展示販売スペースでは、商談の中で職人の方にもお越しいただき、具体的な検討を進める場面もありました。

お客様に響く色味を意識しながら、「この色とこの色の組み合わせは可能ですか?」と伺うと、その場で素材の特性や色の重なりについて、技術的な観点から丁寧にご説明いただきました

会話を重ねるなかで、ただ“選ぶ”のではなく、“理解して選ぶ”目を育てていくことの大切さを、あらためて感じたひとときでした。


写真:ガラス制作の工房と、吹き型(ガラス用金型)。ここから数々の作品が生み出される


「光琳」シリーズの魅力|琳派の美とガラス技術の結晶

グラスアート黒木の代表作のひとつ「光琳」シリーズは、日本工芸堂で取り扱っています。今回の訪問では、その背景や素材づくりについても、デザイン企画室の方から直接お話をうかがいました。

千の花を意味するミルフィオリ(金太郎飴のように、ガラス棒の断面に模様がある)や象嵌のガラスパーツは、すべて自社で製造・管理されており、その精緻な素材が日本的な自然や季節感を映し出します(以下の写真)。琳派の巨匠・尾形光琳に想いを寄せ、金・プラチナ箔を用いた装飾表現が、日本の風土や花鳥風月をきらびやかに表現しているのです。

グラスアート黒木では美術工芸品としての高額帯の作品と、ギフト工芸品として親しまれる中価格帯の品に大きく分かれます。

日本工芸堂で販売させていただく品の選定という意味では、後者の贈りものとして選ばれやすく、なおかつグラスアート黒木の技術と精神がよく表れているものを選定しています。

技術が語れたり、見た目に美しく、手になじむこと。それらを総合して、贈る方にも贈られる方にも喜んでいただける品をお届けしたいと考えています。

▶ 日本工芸堂、取扱品の一例:
綾ガラス グラス | 光琳 爽 ロック オーシャンブルー


谷口榮さんとの出会い|ガラスに想いを託す、継承の人

今回の訪問では、グラスアート黒木の工房にて、職人・谷口榮(たにぐち さかえ)さんにご挨拶する機会をいただき、記念に集合写真も撮らせていただきました。

作業場の奥では、炉の熱気が伝わるほどの距離感で、谷口さんが黙々と制作に向き合う姿を、しばらく見学させていただきました。近づくことはできませんでしたが、スタッフの方から工程や技術について丁寧に説明いただきながら、その緊張感と集中に満ちた現場の空気を感じ取っていました。

事前に読んでいた「一発勝負なんです。手を入れすぎると戻れない。だから一瞬一瞬に感動と感謝を込めています」という谷口さんの言葉が、ふと頭に浮かびました。まさにその通りの、一切の無駄がない動きと、言葉ではなく“ものづくり”で伝える日本の美意識への向き合い方に、深く心を打たれました。


写真:工房所属作家・制作本部長の谷口榮さん


写真:左からホットグラスワーク室 室長、栗原さん、谷口さん、日本工芸・松澤、グラスアート黒木 代表取締役 見川さん


結びに──背景に触れ、心を添えて贈る

創作活動60年を越えてなお、黒木国昭氏のもとでは、次代への継承が静かに、しかし確かに進んでいるのではないかと感じられました。谷口榮さんをはじめ、志ある職人たちがその精神と技術を受け継ぎながら、日々ガラスと向き合っています。

黒木氏の唯一無二の表現と存在感は、多くの人を惹きつけ、自然と人が集い、手を動かす現場を生み出しているように思います。技術はただ守られるのではなく、そこに息づき、新たな形へと育っていく。そのような継承の姿が、確かにそこにありました。

工芸の背景にある「風土」「思想」「人のまなざし」に触れることは、選び手としての責任であり、よろこびでもあると改めて実感しました。産地を訪れることで、一つの工芸品がどれほどの時間と人の手を経て生まれているのかを、あらためて知ることができます。

今回の訪問は、ものづくりに向き合う人々の姿勢に触れ、自分たちの在り方を見つめ直す機会となりました。

これからも、手にする一品の背景にある物語を、丁寧に届けていきたいと思います。

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