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記事: 甲冑の技術を次世代へ【日本工芸コラボトーク Vol.2 甲冑工房 朝比奈】

甲冑の技術を次世代へ【日本工芸コラボトーク Vol.2 甲冑工房 朝比奈】
#取り組み

甲冑の技術を次世代へ【日本工芸コラボトーク Vol.2 甲冑工房 朝比奈】

インスタライブで開催される「日本工芸コラボトーク」。第2回目は、甲冑工房 朝比奈の職人・朝比奈龍さんをゲストにお迎えしました。甲冑・兜の歴史や製造工程、コロナ禍での状況や新しいチャレンジについて、日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。

日本工芸・松澤(以下、松澤):
朝比奈さんの工房は埼玉県越谷にあって、甲冑づくりの伝統を守りながら、常に少しずつ進化させているという印象を受けます。日本工芸では、クラウドファンディングの商品化で朝比奈さんと一緒に仕事をするご縁をいただきました。今日は主に、甲冑と工房の歴史や背景、これからの新しいチャレンジを教えていただければと思います。

甲冑工房・朝比奈氏(以下、朝比奈氏):
こんばんは。埼玉県越谷市で甲冑の製造をしております、甲冑工房の朝比奈と申します。祖父の代から始まりまして、私で3代目になります。今、少子化が取りざたされる世の中ですが、端午の節句の鎧兜の製造をメインで行っております。松澤さんと出会ったのは3年前ですかね。この業界の組合の講演会に松澤さんに来ていただいて、その当時はコロナもまだなかった時代なので、打ち上げの席でデザイナーと侍ホルダー(※現在は「SAMURAI holder)の話になり、その後、2年ほど試行錯誤しながら作り上げていったという経緯がございます。

松澤:
商品については後ほどご紹介していこうと思うのですが、その前に、甲冑の歴史やどういう時代背景で商品が生まれたのかを教えていただけますか?

朝比奈氏:
戦国時代や室町時代の甲冑はまた別物になってしまうんですが、端午の節句については、始まりは江戸時代と言われています。戦がなくなって武士が職を失うようになった時代に、子どもの出世や立身を願って飾ったのが始まりです。甲冑そのものがどんどんなくなっていく中で、家の中で飾れるものとして、今のような兜飾りや鎧飾りが生まれました。昭和初期には、子どもが生まれたら必ず鎧を買う、飾る、お祝いをする風習になっていきました。今では、親から子どもへ「あなたが生まれてきてくれてよかった。今後あなたに幸福な人生が訪れるように」という思いを込めて、お祝いをするものですね。

松澤:
僕も埼玉の所沢生まれです。やはり人形が盛んで、大きな兜もあったと記憶しています。時代の流れとともに人形のスタイルやニーズにも変化があると思いますが、いかがですか?

朝比奈氏:
私たちが子どもの頃は、家の大きさがどうであろうと、とにかく大きい鎧が喜ばれました。家の中では三段飾りの兜や鎧、外ではこいのぼり、というのが一般的でした。昭和から平成、令和になっていくにつれて「核家族化」を肝にニーズが変化してきたと思います。

松澤:
参加者の方からも、「小さいころ親が飾ってくれたのを覚えています」というコメントをいただいています。

朝比奈氏:
そうやって覚えて頂いていることはすごく嬉しいですね。そうやって次につながっていくというか…。私たちの時代は、おじいちゃんおばあちゃんが用意してくれたものをみんなでお祝いする、という文化でした。それが、核家族化になって、この業界への影響は大きいです。飾りやすさとか、コンパクトさが、今は主力になりつつあります。私の会社はいま3代目になりますが、祖父や父の時代に、これから先は小さいものが出るぞ、と話していたといいいます。私たちの工房が最初に小さい兜を作り始めたように思います。小さいから悪いというわけではなくて、小さいからこそ精密に作る必要があるんですね。

松澤:
めちゃくちゃ精巧にできてますもんね。小さい作品の方が部品も小さくなるので、より難しくなったんじゃないかな…と思います。

朝比奈氏:
そうですね、小さいからどこかを省いているんじゃないかと思われがちですが、小さくすることで、より精度や細かさが求められます。小さいからこそいいもの、そして手間もかかるということですね。

松澤:
今コメントをいただきまして、「12歳から日本で住み始めたのですが、こういう文化を知らないです。子どもができたら買いたいです」とのことです。

朝比奈氏:
ありがたいですね。この業界では5節句といって、端午の節句以外にも節句があるんですけど、それを世界遺産にしようとか、無形遺産にしようという動きもあります。世界に誇れる日本の文化だと思いますね。

松澤:
そんな動きもあるんですね。兜は身を守る、それが小さくなって家の中に入ると、子どもを守る、そういう2つの意味があるとも聞きます。

朝比奈氏:
そうですね。そういった意味合いと、今後発信していきたいのは、デザインの良さです。兜は平安時代からある形がそのまま縮尺されているんですが、その時代にすでにこういうスタイルが出来上がっていることのすごさがあります。美術や工芸という視点はもちろん大切ですが、デザイン的に優れているということをもっと伝えていきたいですね。

松澤:
時代背景とともに、甲冑の形状や色味に、流行りやトレンドがあると聞いた記憶があります。

朝比奈氏:
トレンドはありますね。洋服では、その年ごとに流行りの色などがありますが、同じようなことが甲冑の業界でもありまして、昔の定番といえば例えば「赤」です。

松澤:
色味がはっきりしていたイメージがありますよね。

朝比奈氏:
そうですね。今でも定番として人気はありますが、時代にあった色というのはあります。また、甲冑のイメージが、かっこいい、いかつい、怖さがある、という流れのなかで、怖いからもうちょっと優しいのないですか、というトレンドもあります。

松澤:
思いっきりファッションですね。次は朝比奈さんがこの色来るよ!って言ってみたらどうですか?怒られますかね(笑)

朝比奈氏:
発信元になりたいんですよね(笑)

松澤:
浅黄色とか淡い色が今のトレンドで人気があると聞いたのはすごく印象的ですね。購入する決定者が変わってきたというのがあるのかな、とふと思ったんですが。

朝比奈氏:
おっしゃる通り、販売店さんからも意思決定が変わってきているという話は聞きますね。昔はおじいちゃんおばあちゃんと一緒に買いに行って、おじいちゃんおばあちゃんが決めて、まあ子どもたちの意見は聞くけれども、やっぱりこれでいいんじゃないかという買い方でしたよね。そうなると、定番のものを選ぶことが多い。今はご夫婦で買いに来ても、ご主人より奥さんの女性目線になっているみたいですね。

松澤:
兜の色を見たときに、これはやっぱり女性ウケする色なんだろうな、という印象を受けました。かっこ良さは男性が求めているけれど、買うのは別に男性じゃないし、多分意思決定権者が変わってきたんだろうなと。工芸に限らず買う人がちょっとずつ若くなって、男性から女性になったりすると、そういうトレンドはあるのかもしれないですよね。ちょっと話を戻してもいいですか?大きい兜がこれから小さくなると判断された理由と、そうなったときの周りの反応をもう少し具体的にお聞きしたいです。

朝比奈氏:
私も聞いた話ですが、住居形態が変わりつつあっても、飾りやすさやコンパクトさを意識した製品はなかったそうです。父が言うには当時、「小さいもの=安いもの」というイメージがあったようです。小さくすると値崩れするんじゃないかと、業界ではそういった冷ややかな反応が少なからずあったということですね。しかし蓋を開けてみると、これが売れるということがわかってきた。いま甲冑メーカーはたくさんありますが、小さいものは必ず各社持ってますね。大きいものも小さいものも両方揃えるようになってきて、その当時我慢して作り続けた意味があるんじゃないかと思っています。

松澤:
自慢だってとらえられるかもしれないですけど、ある種の読みというか、それが当たったということになりますよね。モノづくりのお話も後で伺おうと思うんですが、一般的な商流はどうですか?

朝比奈氏:
問屋さんの希望通りに商品を作って、問屋さんに商品を卸して、そこから各小売店さんと専門店さん、今で言うと量販店さんもあると思うんですが、そこからエンドユーザーに届くといった流れですね。

松澤:
各地に人形店があって、さらに特約店みたいなのがあるというイメージでしたが…?

朝比奈氏:
たしかに、大雑把に言うとそういう感じですね。特約店さんはあったんですけれど、あるときから量販店さんが流行りだして、そこでの商品が動きだしたりして、流れが大きく変わってきましたね。あとはネットの時代になってきたので、通販サイトで商材も変わってきているようなイメージですね。

松澤:
作る側のお話をお聞きしたいのですが、コメントの質問からいただいたところだと、「1個作るのにどれくらい時間がかかるんですか?」と。朝比奈さんの横に見えている甲冑だとどれくらいですか?

朝比奈氏:
甲冑づくりは分業制で、こちらでは各職人さんが作ったパーツを形にしてまとめていくという作業です。パーツが揃っている状態から形にするのに1週間くらいはかかりますね。

松澤:
それくらいかかるんですね!歴史背景的に、浅草のような地域からそれぞれ職人が北上していっていますね?パーツごとに職人さんがいらっしゃって、そういう意味では地域的な繋がりもあると思いますが、その辺りはいかがですか?

朝比奈氏:
分業制になったのも昭和くらいからだとは思います。もともとは1から10までひとりで全部作って、1年に1両できるかどうかというような状態でした。それで価格で言うとスーパーカーが買えるくらいの金額になって…。

松澤:
飲み会の時に聞いたら、1個売るのに2,000万円って。それ売れるんですか?って冗談で聞いたら、「何年かに1個は売れる」って仰ってましたね(笑)

朝比奈氏:
そうです。売れたらそれだけで上がりはすごいですけどね。私の祖父はもともと浅草近辺で勤めていて、時代背景的には、甲冑業界は景気がよくなる時代で、とにかく場所が足りなかったんですね。都内ではなかなか土地が見つからないので北上し、それぞれのパーツを作っている職人さんたちもどんどん北上していった。今でも墨田区などには多いんですが、場所が必要な工場を建てないといけないとなると埼玉や千葉になるんですね。もともとは東京に密集していたものがどんどん北上していっているイメージですね。

松澤:
越谷のメーカーさんも何社かいらっしゃいますよね。

朝比奈氏:
越谷は意外に雛や甲冑の工房があるんです。日光街道を使えば東京・浅草というのは一本で行けますし、あと埼玉で有名なところでいくと、岩槻。こちらも一本で行けるという立地がいいんですよね。

松澤:
なるほど。よくわかりました。改めて色々伺えて面白かったです。あと、そんな中でコロナの影響も大なり小なりあったと思いますが、この1年半くらい、どんな影響を受けられていましたか?

朝比奈氏:
本当に厳しかったですね。百貨店も閉めないといけない状態になって、一時は丸々在庫が余ってしまう状態でした。ただ、一昨年前にやりたかったけどコロナで出来なかったので今年やります!と動きが戻ってきてくれたのが昨年。小売屋さんや卸売屋さんは仕入れを抑えていたんですが、反動が結構あって、逆に足りないので発注が来るようになりましたね。結果的には、思ったよりは良かったけど、コロナ初年度が本当に注文が入らなかったので厳しかったです。

松澤:
いやでも、それはよかったですよね。やっぱり一定数の需要があるということですね。

朝比奈氏:
改めてこの業界を見渡すと、投げやりになりそうなところもあったと思うんですが、そうでもないぞ!と(笑)。1年越しで戻ってきてくれるお客さんも4割ほどいたという話も聞くので、これはやはり、しっかり続けていかないといけない、とコロナで改めて気づかされましたね。

松澤:
コメントでも、「日本の文化としてのニーズは強いですね」というのが来てます。確かに、根強い人気があるのは間違いないですよね。コロナになってから、本当に大切なものを改めて振り返る動きもあり、一番大切にしたいのはやっぱり家族じゃないですか。子どもだけは元気でいてほしいとか。親だったら誰もがそう思うと思うので。それを形にしているのが何かと思い返せば、誰もが知っている節句などの行事ごとにつながるので、そこに背景があるというのは強いですよね。

朝比奈氏:
コロナで改めて家族や日常の大切さに気づき、コロナの中で生まれてきた子どもの尊さを改めて思い知らされたというか。私たちも改めて勉強していたところもあります。商売に目を向けると厳しいのは変わらずで、コロナ前から厳しく、コロナでさらに厳しくなるという状況ではありますが、でもやっぱりここで踏ん張らないといけないと思っています。

松澤:
やっぱり、チャレンジする精神を持っている方なので、とてもアグレッシブにされてますし、いろいろ試行錯誤されながらプロダクトも作られてますよね。全部が当たるかどうかは別としても、チャレンジしているうちに何かヒットするかもしれないですからね。

朝比奈氏:
やっぱり動かなきゃ何も始まらないので、仲間と少しずつ進めてはいます。ただ、私と会社のキャパもあるので、今ご予約いただいている方を最優先にしながら、ご迷惑をかけない程度で他に目を向けて動ければとは思っています。

松澤:
最後に、我々のチャレンジもちょっとご紹介したいなと思うんですが、朝比奈さんに組み立てて頂いたこれ(SAMURAI holder)。まぁ本当に試行錯誤ですよね。これ作るのどれくらいかかりましたっけね?ルノアール何回集合しましたっけ?(笑)

朝比奈氏:
月1で合計二十何回は行ってますよね(笑)

松澤:
結論から言うと、クラウドファンディングで資金は調達できて、商品もできてよかったねって話だったんですけど、オリンピックに備えてというのがあったのと、コロナで皆さんがあまり名刺を交換しなくなったというのがかなり想定外でしたよね(笑)

朝比奈氏:
3年近い期間を経て昨年出来上がって、デザイナーの川田さん、松澤さん、私の思いとしては、「戦いのイメージ」ですよね。いろいろな業種の方がいるなかで、「仕事=戦」だったり、「挑む」というキーワードがあった。使う人たちを勇気づける名刺入れになったと思います。川田さんのこだわりである「甲冑の要素」は、フラップの部分が甲冑と同じような仕組みで、本革を使ってしっかり成形されていて、内部でしっかり名刺を支える仕組みになってます。手にしていただくと、重厚感が伝わります。名刺交換の機会が以前よりも減ってはいますが、会話のひとつとしても、個性を表すツールとしても使えるものになると思います。これも分業制で、それぞれに職人さんたちの技術が入っているんですよね。組紐屋さんもあるし、アルミの板を作ってくれた業者さんもいますし、革を作ってくれた業者さんもいますし、それをデザイナーの川田さんがまとめあげて、僕が形として完成させる流れで進めていきましたね。


名刺入れ | SAMURAI holder | MUSHA 武者

松澤:
本当に朝比奈さんがいなかったらできなかったんですけど、兜の肩の部分を作る技術を名刺ケースに使って、いつも身に着けるものなので、自分を守るという意味も込めています。今年の2月くらいにこのワークショップもやりましたよね。

朝比奈氏:
女性の方が来ていただいて。

松澤:
各メーカーさんが、さまざまなことにトライされていると思いますが、こういうトライする際の心意気というか、心情の背景はどういったものがあるんですか?

朝比奈氏:
最初の目的は、甲冑を作ってます、というPRもあるんですが、「節句に対する啓蒙」というのが大前提としてあります。兜は季節ものですので、こういった年中販売できる商品が必要というのも実際のところありますし、技術を発信したいというのもあります。あとは、世界に向けて発信するひとつのきっかけとして使っていけたらなと。今後もいろいろな甲冑の技術を使いながら商品を作っていきたいと思っています。節句がもちろん一番大切ですが、それ以外でも我々の技術をもっと広めていきたいなと思いますね。

松澤:
時間はかかってしまったんですけど、形にはなって販売にこぎつけられたので良かったなと思いますね。これからもいろいろトライしながらやっていけたらなと思います。引き続きよろしくお願いします。今日はお時間をいただき、ありがとうございます。

朝比奈氏:
こちらこそありがとうございました。

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