薩摩切子、幻の色を蘇らせるガラス職人の技。薩摩びーどろ工芸【職人・工房を訪ねて】
日本工芸堂では、取り扱い商品を決める際、バイヤーが工芸品を作っている職人に話を聞きに行くことにしています。どんな思いをもって、どんな作品を届けようとしているのか。それにバイヤーが共感したものを取り扱うことにしているのです。
バイヤーが職人や工房を訪ねたとき、聞いた話や商品を作る様子などをご紹介するのが「職人・工房を訪ねて」。
今回は、江戸切子と並ぶ日本の切子ガラス・薩摩切子の工房「薩摩びーどろ工芸」。江戸時代末期に一度消失した技術を復刻している職人技を、日本工芸堂代表・バイヤー松澤がご紹介します。
公園の中にある切子工房
「工房は公園の中にあります」。
そう言われてはいたものの、案内通りにたどり着いたのが本当に広大な公園だったときには驚きました。鹿児島県内で薩摩切子を作っているのは2カ所。その1つである「薩摩びーどろ工芸」は、鹿児島空港から車で30分、市内からは1時間ほどかかる山手の町、薩摩郡さつま町にあります。「奥薩摩」と言われる地域で、その名の通り緑豊かな光景が広がっていました。
そんなさつま町にあるさつま町観音滝公園内に、薩摩びーどろ工芸の工房があります。滝の音や四季折々の自然の中にある工房はなかなかお目にかかることはないような。かつては町のガラス工芸館だったという建物内は、薩摩切子のショップと、工房がありました。
切子の体験もやっているらしく、この日も女子旅らしき若い女性が、職人と一緒にガラスをカットする体験に挑戦していました。
ショップに展示されている薩摩切子の数々は、江戸切子とは異なる艶感があり、重厚感がありました。切子を扱うなら、江戸切子と薩摩切子の両方を扱いたい。そう思う気持ちが一層強くなる色合いです。その魅力に何度も「キレイだなあ」とつぶやいていました。
溶解窯から生まれる鮮やかな色の表現
「この溶解窯がうちの一番大事なところです。ここがなければ生地ができない。うちの特徴である色の表現ができないんです」と語るのは薩摩びーどろ工芸の加藤社長。薩摩切子の忠実な色の表現を目指して、色ガラスの研究と薩摩切子の製造を行ってきた方です。
窯には壺が4つあり、透明ガラスと色ガラスが3つ入っています。色が混ざらないように配慮しているとのこと。火を止めるとガラスが固まってしまうため、24時間3交代、当番制で火を焚き続けているそうです。温度調整や原料を入れるタイミングでガラス生地の硬さや発色は変わります。「ガラスは生きているんです」という言葉が印象的でした。
薩摩切子と江戸切子の大きな違いの一つが色着せと呼ばれるガラス生地の作り方です。金型に色ガラスを吹き込み、その内側に透明ガラスを押し込んで溶解させます。二人がかりで作られる色着せガラス。何気なく吹き込んでいるように見えましたが「3ミリ、3ミリになるように作っているんです。毎回厚みが違うとカット後の色の出方が変わるでしょう?」という言葉に高い職人の技術を見ました。
独自の刃を使ったカットと艶を生み出す磨きの技術
「薩摩切子づくりの時間はこの後の切子と磨きの方が、時間がかかるんです」。そう言われて案内されたのはカットと磨きの部屋。さまざまなや歯や素材を使い、細かい伝統柄を刻み、薩摩切子ならではの艶を出していく工程です。薩摩切子の特徴である「ぼかし」をいれるために、歯は江戸切子のものとは異なるものを使っています。
さらに、磨きの工程で使われていたのは、なんと桐の木盤や竹のブラシなど。カット面の細かい傷を取り、しっとりした艶を出すために、粗さを変えて何度も磨きつづけるのです。白く曇っていたガラスがみるみる透明度を増し、艶やかに輝いていく様子は、見事、としか言いようがありません。
均一に磨くのではなく、艶の出方を見ながら、素材や磨き方を変えています」。加藤さんはそう語りました。
薩摩びーどろ工芸は、現在も忠実な薩摩切子の復興を目指し、色の復元や商品の開発を続けています。そんな中で生まれたのが薩摩黒切子や茶のガラス、上下で色ガラスの色が違う天地着せなどの技法です。
「ガラス作りからカット、磨きの仕上げまで一つの工房で行うことは、いろいろなチャレンジができる、というメリットがあります。ガラスが作れるということは薩摩切子の大きな特徴です。これを生かして、独自性を表現していきたい」。若い職人たちと共に挑戦を続けている加藤さん。島津斉彬が抱いた夢が、今もその心に生きているように感じました。
<ちょっと足をのばして>
郷土料理から人気の味まで味わえる屋台スポット
かごっまふるさと屋台村
さつま揚げに新鮮な魚介類、黒豚に焼酎―。鹿児島を代表する食が気軽に味わえる屋台25軒が集まっている「かごっまふるさと屋台村」。それぞれの店舗の自慢の味が手ごろな価格で味わえると人気のスポットです。食だけでなく、店主や隣に座る地元の人とのふれあいが楽しめるのも醍醐味の一つ。「おすすめは?」と聞けば、自慢の1品、鹿児島だからこそ味わえる焼酎を紹介してもらえる楽しみもあります。1つのお店でじっくり過ごすもよし。テーマを変えて数店をはしごするもよし。食で鹿児島が満喫できます。
かごっまふるさと屋台村
鹿児島市中央町6-4
099-255-1588
https://www.kagoshima-gourmet.jp/
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