縁起のいい和柄とは?意味は?日本の伝統的な文様16選
日本の和柄には、縁起がいいとされる柄が多くあります。吉兆柄や吉祥文様とも呼ばれるこれら文様は、日本の豊かな文化や伝統、そして信仰から生まれ、さまざまな思いが込められています。また、現代のデザインやファッション、アートにも影響を与え、国内外で愛されています。伝統工芸品にも多く使われています。
この記事では、16種類の縁起柄(青海波、七宝、籠目、麻の葉、市松、桜、唐草、鱗、矢絣、立涌、菊、工字繋ぎ、紗綾、菱、扇、亀甲)を、どんなご利益があるのか、モチーフは何なのかなどに注目して紹介していきます。普段、何気なく目にしている文様に、思わぬ願いが込められていることもあるかもしれません。
目次
1.青海波(せいがいは)文
扇のような波が重なって描かれた柄です。扇状の形にあやかって「末広がりの幸運」の文様とされています。また、無限に続く波の文様には子孫繁栄や未来永劫などの願いが込められています。古代ペルシアに起源をもち、シルクロードから日本に伝わったとされています。
【青海波のお品】
2.七宝(しっぽう)文
同じ大きさの円を均等に重ねてつないだ柄です。七宝文は、円(縁)が四方八方に広がっていく様子から「円満」に通じるとされる吉祥文様です。染織物をはじめ、和の小物、陶磁器、組子などで用いられています。
さまざまな種類が知られているため、輪違い文と呼ばれることもあります。江戸切子では、七宝文の中に菊つなぎを施した菊七宝の文様がよく用いられます。
【七宝のお品】
3.籠目(かごめ)文
竹などで編んだ籠の網目をモチーフにした柄です。江戸時代には、代表的な編み方である六つ目編みは、鬼が嫌う文様だとして浴衣などに使われるようになりました。魔除けや厄除けの利益をもたらすとされています。
いくつかの編み方が組み合わさってつくられた別府の竹細工です。底に施された花六つ目編みが美しい鉄鉢は定番の人気のお品。ランプシェードは、編み目からもれだした光がムードのある空間を演出します。切子の伝統文様でもあります。
4.麻の葉(あさのは)文
アサの葉のモチーフと正六角形が幾何学的に結び付けられた柄です。アサは、神事に用いられる神聖な植物とされている他、数か月で数メートルの高さまで伸びる、成長の早さにあやかって「すくすくと育つように」という願いが込められています。また、江戸時代には、麻の葉文が描かれた産着を子どもに着させる、魔除けの風習がありました。
有田焼や波佐見焼にも麻の葉文を用いた柄があります。
【麻の葉のお品】
そのほかにも和小物や建築などでも使われる身近な文様です。
5. 市松(いちまつ)文
二色の正方形を碁盤の目のように組み合わせた柄です。災難厄除のご利益があるとされている柄です。江戸中村座の佐野川市松(1722~1762)が、この文様をつけて登場したことから役者の名前を取り入れて市松文と呼ばれるようになりました。また、神社の石畳にもみえることから「石畳文」とも呼ばれていました。上下左右どこまでも続いてゆくので繁栄への願いをこめて用いられることもあります。
6. 桜(さくら)文
春の風物詩、桜をモチーフにした文様です。今でも桜の時期は、お花見をするほど、日本人にとって馴染みのある植物。桜は開花によってその年の収穫を占う神事にも使われており、五穀豊穣や神仏加護のご利益があるとされています。
また、桜吹雪という言葉があるように散り際が美しい桜は、武家で愛された文様でもあります。
7.唐草(からくさ)文
つるやつたが四方八方にのびている様子が描かれた柄です。つるは生命力が強く、子孫繁栄や長寿を願う思いが込められています。唐草文の起源は古く、パルメットと呼ばれる文様が中国を経て古墳時代(3世紀半ばから7世紀末)に渡来してきました。代表的なものとして、スイカズラのように見える忍冬唐草文、キクと組み合わせた菊唐草文、ブドウが散りばめられた葡萄唐草文などが挙げられます。
9. 矢絣(やがすり)文
矢の上部につける矢羽根を表した柄です。まっすぐに飛んでいく矢の様子から「出戻らない」という意味がこめられています。明治時代に、女学生の袴に合わせた着物柄として人気を博し、今でも卒業式では定番の文様だといえます。また、立身出世を願う意味もあり、開業祝いや就職・転職祝い、昇進のお祝いに用いるのに向いている文様です。
【矢絣のお品】
10. 立涌(たちわき)文
波状の線が下から上に湧いてくるように描かれた柄です。くねくねとした縦線が向き合って並び、対照的に繰り返されています。立ち昇る様子から「運気上昇」のご利益があるとされています。読み方は、「たちわき」の他「たちわく」「たてわく」「たてわき」などがあります。
さまざまなバリエーションのある文様で、代表的なものには、線の膨らんだ部分に雲を配した「雲立涌文」や波を入れた「波立涌文」があります。
11. 菊(きく)文
菊をモチーフにした柄です。菊は、「延命長寿」があるとされる植物で、奈良時代(西暦710年~794年)に中国から渡来してきました。
代表的な菊文には、重陽の節句にちなんだ菊水文、尾形光琳(1658~1716)が図案化した光琳菊文、唐草文とともに描いた菊唐草文、冬の訪れのころに咲く菊に、春の訪れを告げる梅を配した梅菊文などがあります。
12.紗綾形(さやがた)文
卍(まんじ)をななめに崩して重ねた万字繋ぎが描かれた柄です。もともと、紗綾は、絹織物の一種でした。当時、万字繋ぎは、着物によく描かれていました。いつしかその文様自体が紗綾文と呼ばれるようになった経緯があります。今でも紗綾文は、着物の地紋として定番の文様です。
同じパターンが何度も繰り返される文様は、絶えることなく続いていることから長寿や家の繁栄などを願う「不断長久」のご利益があるとされています。
13.工字繋ぎ(こうじつなぎ)文
工の字を交互に繋ぎあわせた柄です。紗綾文と同じように基本パターンが繰り返される文様は、絶えることなく続いていく「不断長久」の願いが込められています。工字繋ぎ文も着物の地紋に使われることが多い文様です。
14.菱(ひし)文
菱形を交差させた柄です。斜め格子や襷(たすき)文様と呼ばれることもあります。平安時代の公家装束にも用いられ、染物や工芸品の意匠に用いられることも多々ありました。
シンプルな柄に加え、菱形の中に花を入れた花菱、羽を広げた鶴を向かい合わせて菱形にかたどった向い鶴菱、菱形を4つ組み合わせた四菱など、数多くの文様があります。
【菱のお品】
15.扇(おうぎ)文
扇をモチーフにした柄です。扇は、日本で考案されたものとして知られています。平安時代の貴族の持ち物だったことからおめでたい印象をお持ちのかたも多いかと思います。「開運招福」のご利益があります。
代表的な扇文は、扇を一面に散らした扇散らし文、開閉した扇で一面を覆うようにした扇尽くし文、花のモチーフを添えた花扇文、敗れた扇子を描く敗れ扇子文など、数多くの文様があります。
16.亀甲(きっこう)文
亀の甲羅のように、六角形を合わせた柄です。「鶴は千年、亀は万年」という言葉にもあるように「長寿」の象徴になっています。また、陰陽道では、六角形自体を縁起のいい形ととらえ、安定と調和をつかさどる「幸運」をまねくとされてきました。
【亀甲のお品】
日本にある縁起のいい縁起柄を16種類紹介しました。それぞれの柄には子孫繁栄や災難厄除などの意味があり、現代のデザインにも影響を与えています。また、出世を願って矢絣、夫婦円満や平穏な暮らし願って青海波や七宝、子どもの成長を願って麻の葉など、シーンに合わせて文様を意識するのも素敵ではないでしょうか。伝統的な文様にこめられた願いや意味を知ることで、身の回りものへの見方が変わったり、日常が少し楽しくなったりするきっかけになれば幸いです。
【あわせて読みたい】 |
> 「伝統工芸の魅力」記事一覧 |