2019年10月、中国・杭州で開催された「China Craft Week」に、山田硝子の山田さんのサポートとして参加しました。フランス、アメリカ、スイス、イギリス、日本など世界各国のクリエーターが集まるこの展示会は、工芸・デザイン分野に関心の高い来場者を対象とした、質のある場でした。会場は工場跡地をリノベーションした大規模スペースで、3回目の開催となるこの年も、多くの来場者が訪れました。
そこで見えてきたのは、「商品としての江戸切子」ではなく、「体験としての江戸切子」への関心でした。
第一印象——「わー、綺麗!」という視覚的な衝撃
江戸切子をブースに並べると、多くの来場者が足を止めました。反応は驚くほど一貫していました。まず「わー、綺麗!」という声をあげ、次にガラスを手に取って光に透かし、そして写真を撮る。
この一連の行動が、ほぼすべての人に共通していたのが印象的でした。
江戸切子の魅力は、カットの精緻さと、そこに生まれる光の屈折にあります。手に取るたびに見え方が変わり、光の当たり方によって表情が変わる。その"動く美しさ"は、写真に収めたくなる衝動を自然に引き出すのかもしれません。
SNS文化が浸透した現代において、「撮りたくなる工芸品」であることは、それ自体が伝播力を持ちます。しかし今回観察していて感じたのは、来場者が単に「映える素材」として江戸切子を見ていたわけではない、ということです。眺める時間が長く、色・カット・重さを確かめるように触れていた。そこには、審美的な関心がありました。
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購買行動——デジタルと工芸が交差する場面
来場者全員が購入するわけではありません。しかし、購入に至った方の客単価は、10万円を軽く超えていきました。
用途は、ギフトと自家使用がほぼ半々。贈り物として選ぶ方と、自分のために手元に置きたいと考える方が、同程度いたということです。
もうひとつ、強く印象に残った行動があります。スマートフォンを使った画像検索です。気に入った江戸切子を目の前にしながら、その場で画像検索をかけ、販売サイトを確認している方が複数いました。ブースでの体験と、オンラインでの購入導線が、リアルタイムでつながっている。
これは、現代の工芸購買において示唆的な光景だと思います。展示会は「出会いの場」であり、購入の意思決定はその後の検索行動を経て完成する。工芸品の海外展開において、現地での体験と、検索・購入できるオンライン環境の両方を整えることの重要性を、あらためて感じた場面でした。
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実演が生んだもの——「商品」ではなく「技術」への関心
今回の参加で、特に考えさせられたのが、山田さんによる実演の時間でした。
実演が始まると、多くの方が立ち止まりました。そして、一度足を止めた方の多くが、何分もそこを離れず、じっと見続けていました。
江戸切子のカット技術は、その工程を見てはじめて理解できる部分があります。どれほどの集中と技術が、あの繊細なカットを生み出しているのか。実演はその過程を可視化します。完成品を手に取ることと、作られる過程を目の当たりにすることは、まったく異なる体験です。
来場者が職人に向けていた眼差しは、敬意と呼んで差し支えないものでした。工芸品への関心が「モノ」から「ヒト」へと広がる瞬間を、そこに見た気がします。
今回改めて強く感じたのは、「誰が、どのように作っているか」への関心が、海外の来場者にも確かに存在する、ということです。職人性は、言語を超えて伝わる。その場でそう感じました。

(取材に答える山田硝子、山田さん、山田硝子の江戸切子はこちら)
現場から見えた示唆——海外展開における「技術の可視化」
今回の参加を通じて、いくつかの論点が浮かび上がりました。
ひとつは、実演や制作背景の共有が、工芸の海外展開において有効な手段である、ということです。完成品の美しさだけでなく、制作工程・職人の存在・その技術が育まれた文化的背景を伝えることで、工芸品への理解と評価の深さが変わります。
もうひとつは、購買行動のデジタル化と、リアルな体験の補完関係です。展示会という場で江戸切子に触れ、その場でオンライン検索をかけて購入を検討する行動は、今後の工芸輸出において「体験できる場所」と「買える場所」の両方を整備することの重要性を示しています。
そして、職人自身が見られることの意味。山田さんの実演が多くの人を引きつけたように、作り手の存在を見せることは、製品の価値を説明する言葉よりも、深いところに届くことがあります。
China Craft Weekの来場者が江戸切子に示した関心は、日本国内での受け止め方とは、少し異なる質のものでした。日常使いの器としてではなく、光と技術が結晶したもの——そのように見ていたように思います。その見方が正しいかどうかより、そのような眼差しがあった、という事実が、海外展開を考えるうえでのひとつの手がかりになると感じています。
他の都市でも同じような展開を試みたいと思っています。現場でしか得られない観察を、積み重ねていくことが大切だと考えています。
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