亀崎染工

鹿児島県いちき串木野の海風がそっと頬をなでる明治のはじまり。その土地に、のれんや旗を染める小さな工房として亀﨑染工は誕生しました。以来五代にわたり受け継がれてきたのは、布に色をのせる技だけではなく、人びとの祈りや願いを“形”として染めあげる印染の精神です。
この工房を象徴するのが、大漁旗や五月幟に代表される祝いの染物。漁の無事と豊漁、子どもの健やかな成長、人生の門出、そうした想いが一枚の布に込められ、海と暮らしを支えてきました。
こうした染物は鹿児島県の伝統的工芸品にも指定されており、長く磨かれてきた確かな技術と地域文化を継ぐ者としての誇りが息づいています。この認定は、工房が守りつづけてきた価値そのものを示すものでもあります。
布を染めるという営みは、ただ色をつける行為ではありません。願いを託し、祈りを届ける行為にほかなりません。祝いの幕を単なる布地としてではなく、手にした人の未来をそっと祝福する“しるし”として仕立ててきたことこそ、亀﨑染工が大切にしてきた本質です。
その精神を現代のギフトへと昇華させたのが「祝いの印」シリーズです。伝統の文様や色づかいを活かしながら、出産や節句、入学祝いなど人生の節目に寄り添う一枚として生まれた品々は、贈る側の想いを静かに受け止め、受け取る人の記憶に残る“祝いの布”として仕立てられています。
時代が移ろう中でも、手仕事が宿す温度や願いは変わりません。亀﨑染工の布には、100年以上紡がれてきた祈りの手ざわりが、美しく息づいています。