映画と工芸が出会うとき

2023年9月に全国公開された映画『バカ塗りの娘』は、青森県の伝統工芸・津軽塗を題材にした作品です。その公開にあたり、映画配給会社であるハピネットファントム・スタジオから日本工芸堂へ、タイアップのご相談をいただきました。

日本工芸堂では、津軽塗のお箸をはじめとした漆器を扱っています。工芸専門店として、津軽塗という工芸の背景を知り、その手仕事の重みを日々感じているからこそ、映画が描く世界に深く共鳴するものがありました。

映画を観ることで、普段手に触れているお箸や漆器への見方が変わる。そのような体験のきっかけとして、このタイアップへの参加を決めました。

津軽塗の漆器

 

映画『バカ塗りの娘』とは

映画『バカ塗りの娘』ビジュアル
映画『バカ塗りの娘』 (C)2023「バカ塗りの娘」製作委員会

監督・鶴岡慧子、主演・堀田真由、共演・小林薫による本作は、青森に暮らす津軽塗職人の父・清史郎と、その技を継ごうとする娘・美也子の物語です。

漆を塗り重ね、研ぎ、また塗るという工程を、映画は1カット1カットていねいに映し出します。津軽塗の完成までには48の工程があるとされており、その一つひとつが画面の中に静かに刻まれています。

物語の中心にあるのは、工芸と家族への向き合い方です。家業を継がないと決めた兄は自由な道を選び、父を見限って出ていった母。残された父と娘の二人暮らしの中で、美也子は津軽塗への関心を持ちながらも、なかなか父に打ち明けられずにいます。その不器用なやり取りの中で、工芸という仕事が持つ意味が少しずつほどけていきます。

映画は工芸の技術を紹介するドキュメンタリーではありません。しかし、その工程の描写を通して、津軽塗という手仕事が持つ時間の重みが、自然と伝わってくる作品です。


日本工芸堂がタイアップした理由

映画のご相談を受けたとき、日本工芸堂のスタッフが最初に感じたのは「これは自分たちが日々扱っているものの話だ」という親近感でした。

日本工芸堂が取り扱う津軽塗のお箸は、軽くなく、派手でもなく、手に持つほどに存在感を感じる道具です。その重みの理由が、塗っては研ぐを繰り返す工程にあります。映画が描く世界は、まさにその背景そのものでした。

工芸専門店として、作り手の仕事を伝えることが私たちの役割だと考えています。映画という形で津軽塗が広く知られるこの機会に、工芸店としての立場から共鳴の声を上げることに、自然な意味を感じました。販売促進のためではなく、工芸文化を伝えるためのタイアップ。そのような関わり方が、日本工芸堂らしいあり方だと感じられたためです。


津軽塗とはどのような工芸か

津軽塗は、青森県津軽地方に伝わる漆工芸です。江戸時代に弘前藩の産業として奨励されたことが始まりとされ、現在も青森県の伝統的工芸品として受け継がれています。

最大の特徴は、その工程の複雑さにあります。下地を整え、漆を塗り、乾かし、研ぎ、また塗る。この繰り返しを幾十にもわたって重ねることで、表面に独特の模様が生まれます。代表的な「唐塗(からぬり)」は、ちぢれた複雑な凹凸が光を受けて深みのある表情を見せます。

漆は乾燥することで非常に堅固になります。そのため津軽塗の漆器は、日常使いに十分な耐久性を持ちながら、年月を経るほどに風合いが増す素材でもあります。修理しながら長く使い続けることができる点も、現代の暮らしの中で改めて見直されている価値です。

お箸、椀、盆、重箱など、津軽塗が形になるものの多くは、日々の食卓で使う道具です。工芸品でありながら、あくまで生活の中に在ることを前提としています。

> 関連記事:津軽塗の歴史、種類、模様、制作工程を詳しく知る


"バカ塗り"という言葉に込められた意味

映画のタイトルにある「バカ塗り」とは、津軽塗を指す俗称です。「バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫」と言われることから、その名がついたと伝えられています。

"バカ"という言葉は、批判や軽視ではなく、むしろ逆説的な敬意を含んでいます。効率を無視して、ただ時間と手間をかけることを厭わない仕事ぶり。そこには、工程を省くことよりも、誠実に積み重ねることを選んだ職人の姿勢があります。

現代のものづくりが速さと合理性を求める中で、バカ塗りという言葉が持つ意味はむしろ新鮮に響きます。一つのお箸に何十もの工程が宿っていると知ったとき、手に持つ感覚が少し変わるかもしれません。

▶ 津軽塗の作品をすべて見る(日本工芸堂)はこちら


映画を通して見えてくる、工芸と暮らしの距離

映画『バカ塗りの娘』劇中シーン

津軽塗は美術館に飾られるものではなく、食卓で使われるものです。その出発点が、工芸を暮らしに近づける大切な理由だと考えています。

毎日使うお箸だからこそ、手仕事の質が問われます。毎食手に触れるものだからこそ、工程に込められた時間が価値として体に届きます。漆器は使うほどに馴染み、色合いが深まります。その変化もまた、工芸と暮らしを結ぶものの一つです。

映画の中で描かれる津軽塗の工程を見て、「こんな手間をかけてつくられているのか」と感じた方は、日常の道具への視線が変わるかもしれません。工芸を知ることは、ものを使う感覚を豊かにすることでもあると思っています。

 

タイアップキャンペーンの記録

映画『バカ塗りの娘』ポスタービジュアル
映画『バカ塗りの娘』 出演:堀田真由 小林薫 監督:鶴岡慧子 (C)2023「バカ塗りの娘」製作委員会

【過去キャンペーン記録】Twitterフォロー&リツイートキャンペーン

実施期間
2023年8月19日(土)〜8月30日(水)
内容
日本工芸堂公式Twitterアカウント(@japanesecrafts1)をフォロー&対象ツイートをリツイートした方の中から抽選で20名に、映画『バカ塗りの娘』映画鑑賞券(1組2名様)をプレゼント
当選発表
2023年8月31日、当選者へTwitterダイレクトメッセージにて通知
映画公開
2023年8月25日(金)青森県先行公開 / 2023年9月1日(金)全国公開

※本キャンペーンは現在終了しています。現在は応募を受け付けておりません。

> 関連記事:津軽塗とは?七々子塗の魅力と値段感、ギフトに選ばれる理由を解説


まとめ

映画『バカ塗りの娘』は、津軽塗という工芸を多くの人に知るきっかけを与えてくれた作品です。日本工芸堂がこの映画とともに歩んだのは、工芸専門店として、手仕事の背景を伝えることに意味を感じたからです。

塗っては研ぐ、その繰り返しの中に生まれる美しさと堅牢さ。バカ塗りという言葉が表す、手間を惜しまないものづくりの姿勢。それは、お取り扱いの品を選ぶときに大切にしていることとも重なっています。

映画を通して津軽塗に関心を持たれた方に、その工芸が生まれる背景をもう少し知っていただければ、道具を選ぶ目が変わるかもしれません。日本工芸堂では、津軽塗のお箸をはじめとした漆器を引き続きお届けしています。日々の食卓に、青森の手仕事を一つ迎えてみてください。