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記事: 産地コラボ商品企画・開発、株式会社アルチザンの可能性【日本工芸コラボトークvol.12】

産地コラボ商品企画・開発、株式会社アルチザンの可能性【日本工芸コラボトークvol.12】
#取り組み

産地コラボ商品企画・開発、株式会社アルチザンの可能性【日本工芸コラボトークvol.12】

インスタライブで開催される「日本工芸コラボトーク」。第12回目は、株式会社アルチザン(以下アルチザン)の長澤政幸さんをゲストにお迎えしました。
 アルチザンさんは、金属加工の有名産地である新潟県燕市と富山県高岡市を拠点とする職人がタッグを組むことで生まれた「折燕ORI-EN」というブランドを展開されている会社です。このブランドの製品は、燕の金属加工技術と高岡銅器の着色技法の融合が魅力です。
 今回は、そんな長澤さんに開発秘話や着想のポイント、新規商流をどう興していったのか?などについてお伺いしました。日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。

アルチザンメーカーページ 

地元新潟の燕市で一念発起して立ち上げた会社

松澤:長澤さんとの出会いは、2・3年前でした。

長澤さん:当時、展示していた商品に興味を持って頂きましたね。

松澤:色合いがとても素敵で、目に留まったんです。当社でもぜひ取り扱わさせて頂きたいと思いお声がけしました。
今回のコラボトークでは、商品の紹介はもちろん、長澤さん自身の来歴や思いなども一緒にお聞きできたらと思っています。

会社の設立は確か2017年でしたね。実は当社と創業年が近いんです。

長澤さん:2017年8月です。今年で丸5年になります。

松澤:前職は何をされていたんですか?

長澤さん:会社を立ち上げる前は、23、4年間ほど地元新潟の燕市で、金属洋食器の製造に関わる会社の営業部長を務めておりました。体力・気力があるうちに一つ何かを成し遂げたいと一念発起して、長年お世話になった会社を退職し、今の会社を立ち上げました。

松澤:「ここでやらないと後悔するな、、」という感覚は私にもよくわかります。お互いの年齢も同じくらいですもんね。一念発起をされたということでしたが、起業するまでに覚悟や着想など色々あったことと思います。

この事業をやろうと思った背景を教えていただけますか?

長澤さん:地元で23、4年ほど働いていましたので、ものづくりへの知識や人脈はすでにありました。また、燕市の産業の特徴も後押しとなりました。ここの地域では、一つのものを作る際、何十社、何百社とあるパーツごと専門の工場がピラミッド式に連携します。ですので、大きな工場がなかったとしても、ある特定の技術やアイデアがあれば、周りの工場に依頼をかけて作ることができるため、私が独立してもなんとかやっていけるだろうという確信がありました。

 

 

飛び込みで高岡へ

松澤:ショーケースに置いてあるタンブラーや急須の色味は独特ですね。この色味を出す技術はもともと知っていたのですか?

長澤さん:既に、以前の会社でもこのような加工の技術があるのは知っていました。制作への興味はありましたが他のプロダクトが先行していたのでなかなか実行できませんでした。

全国的でも有名な「燕」の金属食器に何かをプラスすることで新しい価値を作ることが会社の目標です。この色使いは、お隣、富山県の高岡という地域と手を組んで作っていきました。富山県は、銅像や仏具の産地で銅を主体とした製造加工が盛んな地域です。

このタンブラーの最終の色付けにも昔から存在している伝統的な技術が使われています。ただその技術は銅や真鍮を加工する技術で、ステンレスに応用するのは大変でした。私はそのことを知らなかったので、会社を設立した当初、車で2時間ほどかけて高岡の会社に飛び込みで制作の依頼を持ちかけました。もちろん相手側は初め、半信半疑で私の誘いに乗り気ではないようでしたが、一緒にやってみたいと何度もお願いしたところ引き受けてくださいました。制作まではそこから一年半から2年弱かかりました。

松澤:開発は相当苦労されたんですね。

長澤さん:この茶筒も元々はステンレスで、特殊な技法で銅を着色した後に、高岡に持っていきます。要は科学反応です。普段、銅が錆びると緑色になることがあると思うんですが、制作過程で人工的に緑青が出るようにしています技術は実用新案登録も取っています。


町全体が金属加工の会社のようなもの

松澤:「燕」はどういった特徴を持った産地なんですか?

長澤さん:歴史的な背景からお話しますと、江戸時代に幕府の要請により「和釘」の制作が始まりました。弥彦や間瀬地域の山から銅が採れたため、金属製品を作りやすい環境でした。時代に合わせて、銅の加工技術を活かし、「和釘」や「キセル」、スプーンやフォークなどの「カトラリー」、「自動車部品」まで作ってきました。町の歴史のベースに金属加工がありますね。

松澤:確かに「燕」の地域はメーカーの数が多い印象があります。基礎となる金属加工の技術がどんどん様々なジャンルに応用されていってこのように多品種の金属製品が生産されてきたのですね。

長澤さん:「燕」の町を少し歩いてみると、家族で研磨やプレスをしている情景をここかしこで見かけると思います。一家で工場を経営しているところが多いので、町全体が金属加工の会社だという見方もできます。

松澤:町ぐるみで制作に携わってきた歴史があるのですね。

そういえば、私が「燕」を訪れた際に美味しいラーメン屋さんにご一緒したことがあったのを思い出しました。

長澤さん:食べましたね(笑)「燕」のラーメンは、太麺で背脂たっぷりのこってり醤油が特徴です。カトラリー製品の貿易が盛んだったころ、残業のお供としての夜食で大人気でした。運んでもらう間に冷めないように背脂がたっぷり入ってるんですよ。

松澤:食文化にも産業の影響があったんですね、面白い!

ところで、「燕」の地域だけに言えることではありませんが、近年、大量生産が可能になって安価な商品が市場に出回るようになったと思うのですが、やはり経営が厳しくなるところもあったりしますか?

長澤さん:ありました。しかし、あったからこそ新しいことに挑戦する価値があるのだと思います。これまで様々な金属製品を生産してきた技術は、「燕」の頑丈な母体となるでしょう。これからも町に散らばる工場が切磋琢磨して技術を磨いていきます。

産地コラボの魅力

松澤:長澤さんと一緒に制作をされている高岡の職人さんはどういう方なんですか?


長澤さん:モメンタムファクトリーの折井さんですね。私よりも7、8歳下ですかね。元々は仏像や銅像製作の最終工程である着色を専門でやっていた会社だったそうです。彼は2代目で、初めは東京のIT企業に勤めていましたが、依頼を受けて会社の立て直しに尽力されました。「ORII BLUE」と呼ばれる着色技術を開発し、彼自身、真鍮や銅を用いた様々な商品を作っています。

当社は、そのうちの一つとしてステンレスの金属製品を高岡に持っていって着色してもらっている形です。燕で加工したものを高岡で着色するという流れで、素敵な色合いの食器を提案していければと思っています。

松澤:高岡に行く機会があったのですが、折井さんの時計が印象的でした。タペストリーのような時計で美しい青に心惹かれました。それで、御社のパンフレットを見たときに折井さんの名前が入っていてなるほどなと思ったんですよ。



機能性も魅力のアルチザン

長澤さん:このタンブラーは二重構造になっています。氷を入れてオンザロックで飲むと非常に美味しいです。魔法瓶のようになっていて、外側と内側を天面で溶接しています。二重になっていることで保温効果があり、本体には結露もつかず、持っても冷たくありません。


お酒関連でもう一つ。こちらは1.5合の徳利です。これも二重構造になっています。見えづらいかもしれませんが、変色箇所が溶接の跡です。口のところも溶接しています。熱燗でも冷めないし、持っても熱くありません。冷酒ももちろん冷たいままです。また、ステンレスですので、落としても大丈夫です。取り扱いも安心なのもいいところですね。

視聴者:「徳利のお手入れは大変ですか?」というご質問をいただきました。

長澤さん:専門のブラシで洗っていただくのをお勧めしています。食洗機は避けていただきたいですが、中性洗剤や水洗いはしていただけるので、そこまで難しくないと思います。キッチン・テーブルウェアはステンレスの素材だと水との相性が良くて使いやすいですよね。

松澤:外側から見ると二重構造だというのが全く分かりませんね。頭の細くなっている部分まで二重になっているとは、すごいです!

長澤さん:これも元はステンレスの徳利です。「燕」では、成形工場→溶接工場→研磨工場の3つの工場に依頼しています。その後に、高岡で色付けをするという流れになっています

松澤:まさに産地コラボですね。

長澤さん:(色付けは)機械と違って一つ一つ手作業で行っているので、外側の柄は一つとして同じものはありません。シルバーの上に出てくる黒の模様もそれぞれ少しずつ異なります。

松澤:独特の柄はこの商品の魅力ですよね。


アルチザンの今後の取り組み

松澤:御社の商品は独特の色味が特徴かと思うのですが、新規の商流を作るときに工夫したところや苦労したところがあればお伺いしたいです。

長澤さん:会社を設立してから4年半ほど経ちましたが、先ほども言った通り、商品ができるまでに1年半から2年ほどかかりましたので、まだこの商品を見たことがないという人が多いですね。外側の模様が唯一無二であることや「燕」と「高岡」の産地コラボの商品であること、そして開発秘話などを伝えると皆さん興味を持ってくださいますね。

松澤:御社の青いタンブラーは東京の雑貨屋でも見かけることがあります。ショーウィンドウから見えると小売業をやっている身としては、つい、自分も早く商流を起こさないと、と思ってしまいます(笑)

長澤さん:こういう商品ですから、実店舗にて実際に商品に触れてもらって購入していただくという流れを作りたいというのが本音です。コロナの影響でなかなか叶わず、その点では少し歯痒い思いがあります。

松澤:お互い頑張るしかないですね。
今後の商品開発の方向性についてはどのように考えていますか?

長澤さん:このシリーズは会社のベースなのでこれからも継続的に守っていきたいですし、他の商品についても間口を広げていきたいと考えています。現在は東京や大阪に市場を伸ばしている感じですが、その他でもまだまだ潜在的なニーズを掘り起こす努力はしたいです。また、燕にはまだまだ多くの金属製品がありますから製品とのコラボも面白そうですね。

松澤:海外への活動についてお伺いしてもいいですか?

長澤さん:最初から国内外問わず全世界を対象に展開していきたいと考えていましたので、パンフレットの方も日本語と英語を併記してあります。ちょうどコロナが流行ったばかりの一昨年の2月にはドイツのフランクフルトアンビエンテの展示会に出品しました。また、香港でもポップアップで販売したりしています。

松澤:それは素敵ですね!

お時間が近づいてきてしまいました。最後に視聴者の方に何か伝えたいことがあればお願いします。

長澤さん:当社では「燕」の優れた金属製品をベースに今までにないものを作りたいという思いで活動を続けています。一つ一つ職人さんが丁寧に色をつけたものですから、唯一無二の斑紋模様をお楽しみいただけるかと思います。これまでとは少し違う食器を使って和やかな雰囲気で食卓を囲み、笑顔になっていただけたら幸いでございます。

松澤:我々もいろんな取り組みをご一緒できたらと思っています。本日もたくさんの方に聞いていただいてありがとうございました。

長澤さん:こちらこそありがとうございました。



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