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記事: 伝統工芸士、東京銀器12代継承者、上川宗達さんの新しい挑戦【日本工芸コラボトークvol.6】

伝統工芸士、東京銀器12代継承者、上川宗達さんの新しい挑戦【日本工芸コラボトークvol.6】
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伝統工芸士、東京銀器12代継承者、上川宗達さんの新しい挑戦【日本工芸コラボトークvol.6】

インスタライブで開催される「日本工芸コラボトーク」。第6回は、東京銀器の12代継承者であり、宗達アートクラフトを立ち上げた上川宗達さんをゲストにお迎えしました。歴史ある家業を独立し挑戦を続ける上川さんが、日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。

 

銀器の町、東京で始めるものづくり 

日本工芸・松澤(以下、松澤):
今回コラボトークさせていただく上川さんとは、天王寺の展示会で初めてお会いし、そこで非常に魅力的な商品を作られる方だなという印象を受けました。その後も非常に興味深い活動をされていたので、ぜひお話できたらと思いお声がけさせていただきました。

今回は「上川宗達さんの新しい挑戦!」という大それたタイトルを付けさせていただいたのですが、上川さんは2021年8月に家業を独立し、自身で事業を立ち上げられました。今日は職人と起業家の2つの顔を持つ上川さんに、独立に至った経緯や感じた苦労、今後チャレンジしてみたいことなどをおうかがいしたいと思います。

上川氏(以下、上川氏):
はじめまして、上川宗達と申します。僕は国が指定する伝統工芸品のなかでも「東京銀器」の制作・販売をしております。もともと銀師の一家に生まれ、18歳から家業で技術を学び始めました。その後家業を独立し、今は東京都台東区の蔵前に店舗を構えて銀器を作ったり魅力を広める活動をしたりしています。

東京銀器の名前を聞くと「東京に銀のイメージはなかった!」と驚かれる方も多いのですが、もともと江戸時代に東京の銀座は銀貨の鋳造場として発展しました。その後、製造技術が帯止めやかんざしにも応用され、銀器の製造が盛んになった背景があります。

松澤:
東京の中でもどうして蔵前でお店を構えようと思ったのですか?

上川氏:
昔から蔵前はものづくりの町で、さまざまなジャンルの職人が集まる場所でした。そのため、今でも老舗の職人が幅広く残っているのが特徴です。最近では若手の職人も増えてきており、新旧の職人が共存しているのがとても魅力に感じたので、ここで挑戦したいと思いました。

 

12代目継承者から独立に至るまで

松澤:
上川さんが最初にキャリアをスタートされた家業も、かなり昔から技術を継承されていますよね?

上川氏:
はい、家業である日伸貴金属の技術は11代流れを継いでいて、僕が12代目の技の継承となります。

松澤:
上川さん自身は、かなり長いあいだ家業で銀器を制作されていたのですね。

上川氏:
そうですね。18歳から23年間、父親や兄弟、その他さまざまな先輩方から技術を学ばせていただきました。

松澤:
そこから独立を決めた理由はなんですか?

上川氏:
一つ大きなきっかけは、2018年に「LEXUS NEWS TAKUMI PROJECT」というトヨタ自動車日本のものづくりサポート事業に東京代表として選出していただいたことです。このプロジェクトを通して、これまでの慣習や常識を抜きにして現代にものづくり浸透させるにはどうしたらよいかを改めて考えるようになりました。

そこで特に思ったのが、若い年齢層の方にとって東京銀器はかなり疎遠な関係にあるということです。僕の友だちに東京銀器のことを聞いてもピンときてないことが多く、僕自身もその友だちが東京銀器を使っているのをイメージできませんでした。せっかく僕が子どもの頃から夢だった東京銀器の職人をやっているので、自分と同じ年代の方々にもっと魅力を伝えたい思い、若者向けの作品も作るようになりました。

松澤:
なぜ家業ではなく、独立という道を選んだのですか?

上川氏:
どこの会社員もそうだと思うんですけど、会社のコンセプトやターゲットの中で自分がいかに力を発揮するかが重要だと思っていて、僕も家業にいたときは23年間そういった意識のもとでものづくりをしていました。実際うちの家業には昔から好きでいてくれるファンの方がいて、高い年齢層のお客様もたくさんいらっしゃいます。そこで若者に向けた商品をいきなり売り出しても、昔からのファンの方は離れますし、新しいファンもなかなか付きません。どっちつかずのもったいない状況になると思ったので、起業して1から始めることを決断しました。

松澤:
家業で仕事をしていたときは、父親や兄弟は同業者であり仕事仲間でもあったと思うのですが、仕事や独立をするにあたって親子の葛藤はあったりしましたか?

上川氏:
ものづくりをする上では、すごく言いやすい関係性でしたね。みんなで作り上げていくという同じ目的を持った中で、「こうした方がいいんじゃないか」とか「これをやってみたらいいんじゃないか」などは、すごく意見交換しやすかったです。ただ「技術をこれからどうやって進めるか」や「新しい技術をいかに広めるか」など、違う視点に立ったときに家業ではなく自分で責任を持って取り組みたいと思い独立しました。独立した今でも応援していただいていて、同じ仲間として心強い味方です。

 


上川宗達さんの新たなものづくり

松澤:
身内でもあり同じ伝統工芸の仲間でもある、それが一番いい関係性ですね。

今は自分の好きな作品づくりに取り組んで、上川さん自身の環境としてはかなりよくなっている状況ですかね?

上川氏:
そうですね。僕の宗達アートクラフトがなんのためにあるのかを改めて考えたときに、「心の豊かさを考える」というのを僕の会社の理念として掲げようと思いました。

今でこそ大量生産大量消費の時代になりましたが、本来ものには使っていた人の思い出や人生の中で築いてきた歴史が含まれていて、そこに価値があると思いました。僕もものづくりをする職人として、そういった人々の心に豊かさを提供したいと思っています。

松澤:
そういったものを作れる職人さんは本当すごいですよね。使っていたときの時間や空気感など、思い出がセットになりますよね。僕も工芸品の魅力はそこにあると思います。

上川さんの作品をいくつか見させていただいて、アクセサリーなど若い人向けの作品にも挑戦されている印象を受けました。それは先程もおっしゃていた通り、上川さんと同じ年齢層の方にも使ってもらいたいという想いからですか?

上川氏:
はい、銀器に触れてもらう入り口は意識しています。やはり最初から銀器のコップなどは想像しにくいと思うので、まずは僕が作ったアクセサリーなどを使ってもらって、僕の技術や銀器の魅力に触れていただけたらと考えています。

松澤:
まずは間口を広げることからですよね。上川さんは、他の産地とのコラボレーションによって生まれる新しい価値を大事にされているイメージもあるのですが、そういった点は意識されていますか?

上川氏:
やっぱり工芸品の良さって無限大にあると思っていて、特にコラボレーションすることで1+1が2以上にもなる可能性を秘めているんですよね。ただ、僕の目指すべきゴールはやっぱり「心の豊かさ」なので、コラボレーションすることで心の豊かさにつながるのであれば積極的にしたいと思っています。

松澤:
コラボの相手はどのように決めているのですか?

上川氏:
基本的には、展示会などでいいなと思った職人さんには連絡先を聞いています。あと、銀器はオーダーメイドの注文もよくいただくので、お客さまと打ち合わせをしたときに「あ、この職人さんとコラボしたらいいかも」といったふうにぱっと頭に思い浮かぶことも多いです。

松澤:
なるほど、作品イメージが先にあって、それを可能にしてくれる職人さんに依頼する感じですね。上川さんの店舗に来られるお客様は、どういった方が多いですか?

上川氏:
そうですね、僕のインスタグラムをずっと見くれていて店舗に足を運んでくださる方だったり、通りすがりに店舗を見つけて寄ってくださる方もいます。今一番多いのが、旦那様が奥様にサプライズプレゼントをしたいといって注文してくださる方が多いですね。

あとは、体験教室に来たお子さんがお母様の誕生日プレゼントを作りに来てくれたこともありました。それが僕にとってはすごく嬉しい出来事でした。腕のいい職人が作ったものも魅力的ですが、お母様にとってはお子さんが作ってくれたアクセサリーの方が価値があるじゃないですか。それこそが本当の意味で「心の豊かさを考える」ということだと思います。僕の作品を一方的に提供するのではなく、お客様の心が豊かになるものを一緒に考えながら選択肢を提案したいですね。

 

上川宗達さんの見ている今後のビジョン

松澤:
いいですね。愛にあふれるとてもいい場所なのですね。最後の質問になりますが、上川さんが今の会社でこれから目指したい方向性やチャレンジしてみたいことはありますか?

上川氏:
まずは自分がしっかりと作品を作って、古き良き伝統工芸品としての精度を上げていきたいのと、制作の過程などを発信して伝統工芸品の魅力を広めていきたいです。

あと最近考えているのが、敬老の日に息子さんやお孫さんが、銀器のプレゼントを作って贈るサポートもしてみたいと考えています。やっぱり心が豊かになるものって人それぞれなので、その人に合った作品を考えるのは自分自身もすごく楽しいです。額の汗を拭いながら「妻のためにプレゼントしたいんです」なんて言われたら、なんとしてでも作りたくなりますよね(笑)

松澤:
会社のビジョンとやりたいことが合致していて、そこに向かって進んでいるので、これからがとても楽しみです。

あっという間にお時間が来てしまいました。まだまだお聞きしたいことがたくさんあるので、また飲みにでもいきましょう(笑)

上川氏:
はい、よろしくお願いします!本日はありがとうございました。

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このコラボトークのあと銀の酒器プロジェクトが始まりました。詳細はこちら。

 

 

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