土直漆器
新しいアイデアから生まれる
「漆器のある暮らし」
漆器づくりの工程は、それぞれ分業していることが多い。
福井県鯖江市の伝統工芸品である越前漆器も、素地、下地、中塗、上塗、装飾など、それぞれの専門職人がいる。各工程では、異なる技が求められ、それぞれに職人が技術を磨くことで、高い品質の商品が作られていく。質の良いものを多く生産していくために、各産地が編み出した、工芸品ならではの製法だ。
越前漆器をつくるメーカーの中でも、土直漆器(つちなおしっき)は、各工程の専門職人を抱え込むことで、特徴をだそうとしている。素地づくり以外の工程に携わる職人が同じ工場内で作業を行うことで、品質だけでなく、デザインや製法などのこだわりなどをお互いに話し合う環境を作り出した。
そこで生まれたのは、自由な発想を取り入れること。伝統的技術を受け継ぐ一級技能士と伝統工芸士の元、若手スタッフや女性スタッフが、柔軟なアイデアで新しい製品を作り出せる仕組みができているのだ。
暮らしを漆器でもっと楽しく
柔軟なアイデア、といっても、土直漆器が生み出すのは、現代の暮らしの中に漆器の魅力を溶け込ませるような商品だ。例えば、サーモマグとのコラボで生まれた「アンブレラボトル」は、毎日使うボトルに漆を塗ったもの。鮮やかな赤と黒の塗りと日本の伝統的な柄は、派手に自己主張するのではなく、そこにあるだけで、静かな存在感を放つ。
そのほかにも、タンブラーやカードケース、アイフォンケースなど、これまで漆器に馴染んでいなかった年代の暮らしの中に、漆器の良さを感じるシーンを作り、本物をもつ喜びを、使う人に伝えてくれるのだ。
「いい漆器をつくる」。土直漆器の想いは「その良さをより多くの人に伝えられる漆器を作る」という動きにつながっている。そしてその動きは、これからも「漆器のある暮らし」をさりげなく演出してくれる商品を生み出していくのだろう。
Buyer's Voice 代表・松澤斉之より
「手元においておきたい」と思わせた漆器の艶めき
土直漆器の現社長は二代目。若手ながら、積極的にものづくりに取り組んでいる、という印象だった。その代表的な商品が、アンブレラボトルやタンブラー。今までの漆器の概念を覆す、新しい商品を見た衝撃は忘れられない。
これまで扱ったことがない金属とのコラボレーションは、漆を知り尽くした職人たちにとっても、失敗の連続だったに違いない。そんな中で生まれた新商品は、年代を問わず、毎日使いたくなる商品ばかり。私もまた、そんな土直漆器の想いに魅了されたのだろうか。
工房を訪れた際、伝統文様に彩られた漆塗りのカードケースを購入した。日々、手元で使いながら、少しずつ変化していく漆の色合いを楽しませてもらっている。