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記事: 時代を捉えた甲冑の新たな可能性について【日本工芸コラボトークvol.5】

時代を捉えた甲冑の新たな可能性について【日本工芸コラボトークvol.5】
#取り組み

時代を捉えた甲冑の新たな可能性について【日本工芸コラボトークvol.5】

インスタライブで開催される「日本工芸コラボトーク」。第5回目は、江戸節句人形株式会社鈴甲子 鈴木雄一郎さんをゲストにお迎えしました。
 鈴甲子さんは、明治時代から続く五月人形の道具を作る職人でした。当時は、太鼓や弓、太刀などの陣道具の制作が中心でしたが、現在は甲冑づくりへと制作の幅を広げられています。そして、5代目である鈴木さんは、甲冑師として、技術を磨き受け継ぎながら活動されています。
 鈴甲子さんが作成される甲冑は、リアル感を追求し、実際の甲冑の3分の1、6分の1の大きさに縮小されたどこから見ても完成度の高い作りが特徴です。5人の伝統工芸士がそれぞれの得意分野を活かして作り上げる甲冑は、五月人形としての魅力以上の存在感を放ち、注目を集めています。
 今回はそんな鈴木さんに開発秘話や伝統文化の継承、課題などをお伺いしました。日本工芸・代表の松澤と語った内容の一部をお届けします。



120年続く工房、鈴甲子 独自の技術で制作に携わる伝統工芸士

鈴木さん:私は、株式会社鈴甲子の鈴木雄一郎と申します。五代続く五月人形の鎧兜を製造しているメーカーになります。千葉県鎌ヶ谷市に弊社のショールームがございます。明治の初期、初代の鈴木甲子八が、節句人形の陣道具の制作をしていたところ、その技量を認められ、甲冑作りを始めるようになりました。

場所は、墨田区の本所です。この地域は職人さんが多く集まっているため、横のつながりを大事にしながら発展していきました。
 今はちょうど製造のピークを迎えているところです。基本的に、甲冑は、パーツごとに制作したものを最終的にアッセンブリして梱包しますが、この最終過程を行なっています。

松澤:いろんな技術を持った方がそれぞれで制作して一つのものを作るというのは甲冑の特徴ですよね。

鈴木さん:ものづくりの世界は値段の勝負になりがちですが、弊社は、自社にしか作れないものを作るという独自路線を意識しています。たとえば、こちらの黒の甲冑は、実際に博物館にあるものをそのまま縮小したものです。ラフ画を描くときに丁寧に模写をして、一つひとつ精巧に作りました。

松澤:一言で、模写をすると言っても、普通は上手くいかないものだと思います。職人の技術があってこその制作ですね。

鈴木さん:はい、技術力の高さは、私たちの強みだと考えています。また、弊社には、5人の伝統工芸士が在籍しており、甲冑業界でも珍しい人数です。

松澤:技術を高めるコツはありますか?

鈴木さん:甲冑の制作は、一人一人が異なった部分をそれぞれで作っていきますので、一部分のクオリティが下がると全体のクオリティも下がってしまうので、責任感を持っています。

また、各職人がそれぞれで共通の完成品のイメージを持ちながら制作を進めています。具体的に言えば、ここに社長が描いた絵が飾られていますが、制作の前にまずこうしたラフ画を描いて、シルエットや形状、色の目安を表し、完成品のイメージを共有していく感じですね。



豊富なアイデアで幅広い制作

松澤:これは鈴甲子さんの特徴だと思うんですけど、職人さんに楽しんで作ってもらえるような環境づくりを整備してものづくりに取り組んでいるところだとおもいます。どのような工夫がありますか?

鈴木さん:基本は、持ってきたアイデアを出し合いながら次の作品を作っていますね。作るのが好きな人は、自分の作品をみて欲しいですし、何かしらの言葉が欲しいことが多いです。それを「ああいいね」とアイデアを生かしていけるのは、弊社の特徴であり強みではあると思います。「技術」と「アイデア」ですね。

例えば、こちらは禅シリーズです。艶消しの赤と茶色を主に使った作品です。和室に佇んでいるような落ち着いたイメージを意識しました。兜も少し落ち着いた茶色に仕上げて前たても木彫りになっています。

また、こちらは、牛革を使った「茶丸」という作品なんですが、靴の職人とコラボしています。
>商品:鎧飾り | タンゴ侍 | 茶丸 | 鈴甲子 雄山

松澤:ガジェット好きな男性にはおすすめですね!
こうやって新しい取り組みをどんどんされていらっしゃることは技術の進歩を加速させることにつながるのかなという風に思います。

鈴木さん:ありがとうございます。




サラリーマンから職人の道へ

鈴木さん : もともとは大学卒業後、金融機関に勤めていたんですけど、父である社長と相談して甲冑の世界に入ることになりました。この世界に飛び込んで約2年くらいです。まだ職人としては新米です。

松澤:弊社と鈴甲子さんが出会ったのが2・3年前ですから、鈴木さんがちょうどこの仕事を始められたときからのお付き合いですね!ところで、以前はサラリーマンをされていたとのことでしたが、この仕事を始めるにあたって葛藤はありましたか?

鈴木さん:めちゃめちゃありました(笑)僕の場合はすごく悩みました。ただ、悩んだことも、甲冑の世界を次の世代に伝えていく覚悟を持てたという点で、よかったと思っています。

松澤:鈴木さんの場合、社長さんが父親ですから若い頃から、家業についてお話はされていたんですか?

鈴木さん:そうですね。(父は)いずれは僕が父の後を継ぐだろうと考えていたと思います。(私は)いつかを引き延ばしていたという感じです。

というのも、中途半端な状態で伝統文化の中に身を置いて生きるのは、今までの職人さんたちが作り上げてきた歴史や先祖の人間たちに失礼だと感じていたからです。今の状態で家業を継いでいいのだろうかというところに葛藤しました。

松澤:ちなみに親からの暗黙のプレッシャーもあったりしたんですか?

鈴木さん:ありました。二ヶ月に一回くらいの頻度でありました(笑)

松澤:家業を継ぐ決意したきっかけは何だったんですか?

鈴木さん:実は、コロナがきっかけでした。コロナの影響で当時の仕事がオンラインになった時に思うように捗らなくなってしまって、改めて家業を継ぐかどうかを考えるようになり、父親と相談しました。実際に父のものづくりに対する思いや技術を、間近で触れていくうちに決心がつきました。


株式会社鈴甲子代表取締役鈴木順一郎さんへのインタビュー


現代のインテリアと兜

鈴木さん:兜飾り天賦の兜「空」は昨年度開発した商品になります。現代のインテリアに馴染むように制作しました。糸目をあまり主張しすぎない淡い色合いが特徴です。

松澤:結び目の部分やおどしの部分ですね。個人的に、兜は、単色のイメージがあり、どちらかといえば男性に人気がある印象がありましたが、だんだんと、女性の方の顧客も増えてきたことも踏まえて淡い色の兜を作成されたのですね。

鈴木さん:女性の方に関心を持っていただいたことは大きいですね。インテリアに合うか否かという視点は、現代でものづくりをするにあたって大事なことだと思います。

松澤:ものづくりが好きな方が社長を中心に集まっていらっしゃる印象はあるんですが、好きなものを作り続けることと、文化や大事にしたいものを維持することに対する思いっていうのはどのようなバランスを取っていらっしゃるんですか?

鈴木さん:僕はまだこの仕事を始めて2年目なのですが、社長やベテランのスタッフの話を聞いていると、ベースには本物の甲冑の良さを残しつつ、その上に自分たちのアイデアを乗せていくことで、現代の暮らしにあったより良いものが生み出されています

>当社取り扱い、鈴甲子 雄山の商品一覧はこちら


鎧飾りの端午侍

鈴木さん:一般的な鎧兜は、実際の甲冑の3分の1の縮尺で作られているため、サイズが大きく、飾るのにもステップを踏む必要があるため、ハードルが高いと感じる方もいらっしゃると思います。端午侍は、コンパクトであり、なおかつ本体を置くだけで飾ることができるので、従来よりも手に取りやすいのかなと思います。

松澤:インテリアにフィットしますね。ちなみに、端午侍について、一つ良いエピソードがあります。昨年度の話ですが、あるお母様が、御徒町で終日お子さんのために鎧兜を探したがなかなかいいものがなくて困っていたところ、たまたまネットで検索したら当社のサイトに行きつき、鈴甲子さんの端午侍を買ったそうです。その方には「色合いが可愛らしい」と言っていただきました。

鈴木さん:それは嬉しいですね。


「鈴甲子さんの甲冑」でのブランド確立を目指す

松澤:鈴甲子さんは、webを中心とした情報発信に力を入れられています。こちらはどのような思いを持って取り組まれていますか?

鈴木さん:家業を継いでから驚いたのは、今まで知らずに過ごしていた会社の技術の高さでした。それを上手く伝えていくことで、衰退傾向にある業界全体を良い方向に持っていくことができるんじゃないかという可能性を感じました。

先ほど少し話したように私は職人の面では素人なので、(制作上で)自分から見てすごいなと思ったポイントは、お客様も同じように感動してくださるのだと思います。

松澤:検索した時にちゃんとしたページがあると魅力的に見えますね。綺麗な写真がサイトに掲載されていると、拡散力が違います。また、甲冑自体に独特のパワーがありますし、直接見ていただくことも重要だと思います。ショールームを開いている一方でウェブで発信されているというところがすごく先進的だという印象があります。

突然ですが、最後に今後の目標があれば教えてください。

鈴木さん:私もまだ職人とはっていうのが言えるような感じじゃないんですけど、これから五月人形や職人という世界で自由に泳ぎ回れるような人間になっていきたいというのが目標です。

また、情報をお客様に伝える技術は獲得してきているので、これからも「技術力の高さ」と「独自性」を意識して「鈴甲子さんの甲冑」と呼んでいただけるようなブランド力をつけていきたいです。

松澤:若手のホープですからね!

我々もいろんな取り組みをご一緒できたらと思っています。そろそろお時間となりました。本日もたくさんの方に聞いていただいてありがとうございました。

鈴木さん:こちらこそありがとうございました。

伝統工芸品のライブ配信

(鈴甲子展示場から当社アレンジで中国へライブ配信した際の風景)
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日本工芸堂、鈴甲子取り扱いシリーズ一覧



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