太武朗工房
【 江戸硝子 】【 江戸切子 】
西洋と東洋の伝統技術で
ガラス彫刻の美を追求

太武朗工房(たぶろうこうぼう)が生まれたのは平成元年。当時、まだ数少ないサンドブラストで作品を作る工房として産声をあげた。サンドブラストとは、粒子の細かい砂を吹き付けてガラスの表面を削り、曇らせる技法。透明なガラスであれば曇りガラスのように白い部分が現れ、それが模様となって表現される。カット技法より自由な表現ができるのが魅力だ。
そこに、オリジナルの色ガラスをかぶせ、鮮やかな模様を描き出したのが太武朗工房の商品だった。「どこまでもオリジナルにこだわる」。そのこだわりは、彫刻デザインにとどまらず、ガラスの色もオリジナルで作り出すほど。ガラス工場に何度もイメージを伝えながら、柔らかく、鮮やかで、どこか懐かしい色合いを作り出した。
もともとサンドブラストは、アールヌーボー期に活躍したエミールガレの技法の延長上にある。アンバーや紫の色ガラスにサンドブラストで細かい彫刻を施した製品は、アールヌーボー期のガラス作品を思わせる、と言われることもあるという。二色、三色のガラスをかぶせ、モダンながら和の植物を配したデザインは、西洋の技法に和のテイストとデザインを施した彫刻柄子シリーズとして、多くの人の心をつかんだ。

江戸切子と江戸硝子
「削る」技法を生かした独自のデザイン
サンドブラストのガラス食器で注目された太武朗工房は、江戸切子の製品も扱い始める。それまでの江戸切子と同じでは、工房の特徴は出せない。そこで、職人に依頼する際、これまでにはない組み合わせや配置など、オリジナルデザインを作成した。黒小紋を大胆に丸く配したものや、太い笹の葉紋様に細かい市松や花菱紋様を組み合わせたものなど、伝統紋様でありながら、モダンでスタイリッシュな太武朗工房の江戸切子。鮮やかな赤や深い黒など、目に飛び込んでくる色ガラスとのコントラストが、その魅力を一層引き立てた。

さらに、近年では、江戸切子の鮮やかな色ガラスに、サンドブラストで繊細な模様を描いた「江戸硝子」のシリーズも登場。葛飾北斎の「富岳三十六景」の躍動感をそのままガラスに彫刻したシリーズには、国内外から注目が集まっている。
カットガラスの鮮やかなコントラストも、サンドブラストの柔らかく淡いグラデーションも。太武朗工房のオリジナルガラスから、ガラスに広がる豊かな世界を感じていただきたい。
Buyer’s Voice 代表・松澤斉之より
「ガラス彫刻」をキーワードに広がる
豊かなガラスの世界
太武朗工房のサンドブラスト彫刻のシリーズは、鮮やかなのに深い色合いとサンドブラストならではのグラデーションが美しい。そのことはわかっていたのだが、サンドブラストの製品を会社として製作、販売した先駆けが太武朗工房だったことを聞いて、驚いた。会社を興した先代社長は、もともとアパレル業界の人だったという。つながりのないガラス業界に飛び込み、オリジナルの色ガラスを作ってもらい、デザインを起こし、彫刻し、販売をする。そのすべてをやっていくのは、相当の苦労があっただろうと思う。
さらに、会社の特徴であるサンドブラストにこだわらず「ガラス」「彫刻」をキーワードに広くガラス工芸を扱おうというコンセプトも面白い。オリジナルにこだわるからこそ生まれた江戸切子のデザインは、伝統技法を使っていながら、他の工房とは一線を画したものになっており、年代、国籍を問わず、見る人の心を奪うだろう。
サンドブラストを生み出した西洋の技術と、江戸切子に代表される東洋の伝統技法。この2つを生かしながら、より自由な表現を求めて、ガラス製品の開発に挑む。太武朗工房が次にどんな世界を見せてくれるのか、楽しみにしたい。